外需頼みの日本経済

投稿者 曽我純, 2月19日 午後9:15, 2017年

2月9日、トランプ大統領の今後数週間に税制改革に関する抜本的な提案を明らかにするとの発言を受け、米主要株価指数は連日過去最高値を更新している。法人税減税、所得税の最高税率引き下げ等すでにいわれている内容だと思うが、それでも株式市場は大いに反応した。米国債利回も上昇したが、週末比では横ばいであり、商品市況は低下するなど、株式だけが盛り上がった。円ドル相場も9日には大幅な円安ドル高となったが、その勢いは14日までであり、その後は円高ドル安に振れている。
週央以降、円高ドル安が強まったため、週末比、日本株は2週間ぶりに下落した。国内経済は代り映えしないので、企業業績を左右するのは輸出のみということになる。その輸出金額の増減に影響するのが為替相場なので、株式は為替相場に一喜一憂するのである。
昨年10-12月期の日本の名目GDPは前年比1.6%増と前期よりも0.6ポイント高くなったが、4四半期連続の1%台である。これの寄与度を内需と外需にわけてみると、内需の0.3%に対して、外需は1.2%と成長の75%は外需に頼っていることがわかる。内需の寄与度がプラスになったのは2015年第4四半期以来1年ぶりだ。
内需は2014年4月の消費税率の引き上げによる駆け込み需要で一時的に高くなったけれども、これを除けば、大きな変化はなく、低迷状態が続いており、今後も伸びるような要因は見当たらない。だから日本経済は外需に頼らざるをえないのである。外需の伸びに日本経済や企業業績は掛かっているのだ。だから、為替相場は企業業績や日本経済の重要な決定要因とみなされ、株式はこれに振り回されているのだ。
2016年の名目GDPは前年比1.3%伸びたが、内需の寄与度は-0.0%であったが、外需は1.3%と昨年の成長は外需に全面的に依存していた。2015年は3.3%成長したが、外需の2.1%にたいして内需は1.1%であった。2012年から2014年までは外需の寄与度はマイナスで内需主導だが、消費税の影響が大きくあらわれていることを顧慮しなければならない。
実質では昨年1.0%伸びたが、内需と外需の寄与度はそれぞれ0.5%ずつである。2015年は1.2%成長し、内需0.7%、外需0.5%と内需の寄与度が大きいが、民需に限れば0.5%だ。2016年までの3年間の実質民需の平均伸び率は0.46%であった。こうした低空飛行の最大の原因は民間最終消費支出(過去3年の平均伸び率)がマイナス0.3%と水面下にあったからである。GDP構成比最大の民間最終消費支出がマイナスでは民需の拡大は難しい。
2016年のデフレーター(D)は前年比0.3%と3年連続のプラスだが、民間最終消費支出(D)は0.4%減と2013年以来3年ぶりのマイナスだ。民需(D)も-0.5%とマイナスになり、デフレ経済から抜け出ていないことがあきらかとなった。民需のデフレーターが2015年まで3年連続のプラスだったのは消費税率引き上げによるものであり、これを除けば、マイナス状態は続いていただろう。こうした民需(D)からも日銀の国債購入による金融機関への資金供給は、物価には全く効いていないことが見て取れる。
週末に発表された『家計調査』によれば、2016年の勤労者世帯の実収入は前年比0.2%と2年連続のプラスだが、伸び率は低下した。実収入のうち世帯主収入も0.2%増加したが、定期収入は0.3%減と3年連続の前年割れである。2012年と2013年の定期収入はプラスとはいえ0.3%それぞれ増えたにすぎない。2012年12月の安倍内閣発足後の定期収入は悪化しているといえる。これでは民間消費は伸びることはない。
2016年の実収入を9年前の2007年と比較すると0.3%減少している。直接税と社会保険料が8.1%、19.0%と大幅に増加したため、可処分所得は3.1%減少した。高齢化は一段進むことは間違いなく、それに連れて社会保険料も増加していくだろう。長期的に実収入が停滞している状態で、直接税と社会保険料の非消費支出が拡大していけば、可処分所得はますます減少するだろう。
2016年の総世帯の消費支出は前年比1.9%減と2年連続のマイナスだ。2007年比では7.0%も減少している。二人以上の世帯の同5.2%減よりも落ち込み幅は大きい。こうした消費支出の不振が常態化しているため、物価の前年割れが止まらないのである。消費支出が減少していれば、民間の資金需要は弱く、金融機関からお金は出ていかない。
米国経済は日本に比べれば堅調といえる。1月の鉱工業生産指数は前年比横ばいだったが、小売売上高は前年比4.9%増加し、住宅着工件数は10.5%も伸びている。1月の消費者物価指数は前年比2.5%と2012年3月以来4年10ヵ月ぶりの高い伸びだ。食品・エネルギーを除くコア指数も2.3%と高い水準にある。
日米の消費者物価上昇率の格差は拡大しており、昨年12月でも米国が日本より2.2%(コア比較)も高い。通常、物価上昇率が高い通貨は減価することから、ドル保有よりも円を保有したほうが有利になる。昨年の円ドル相場は108円95銭であり、輸出が輸入を約4兆円上回り、6年ぶりの黒字となった。2016年は前年(1ドル=121円)よりも10%の円高ドル安で黒字に転じた。2015年同様、輸入が10%もの円安で拡大していれば、輸出が伸びたとしても、これほどの黒字は達成できなかったのではないか。日本経済にとって、1ドル=100円台の為替相場は居心地がよいのだ。

PDFファイル
170220).pdf (380.8 KB)
Author(s)