外需頼みが続く日本経済

投稿者 曽我純, 6月10日 午後8:30, 2018年

2015年央以降、円ドル相場は円高ドル安傾向にあるが、日本の輸出は堅調であり、4月は7.8%前年を上回った。季節調整値は昨年12月以来だが、昨年12月は2008年9月以来であり、輸出の水準はかなり高い。4月の円ドル相場は106円31銭と前年よりも4円61銭の円高ドル安だが、輸出は力強い。円高ドル安で輸出製品が値上がりしても海外需要が衰えないことは、シェアが高く、独占的で競争力が強く、日本から輸入する以外に購入することができない製品が増えているからだろうか。半導体製造装置や半導体関連製品に欠かせない化学材料など日本企業の強みが円高ドル安を凌駕している。

米国の輸出も4月、前年比11.4%と好調であり、世界経済の拡大を裏付けている。輸入も7.9%増加しており、米国経済も順調に推移していると言える。5月の非国防資本財受注(航空機除く)は前年比7.4%伸びているし、5月の非製造業の景況感も改善している。関税を課すような手段を取らなくても、米国経済は雇用の拡大と物価の安定を続けることができるのだ。むしろ高関税によっていまのような好ましい経済状態に水を差すことになるだろう。

4月の日本の鉱工業生産指数は前月比0.3%と3ヵ月連続のプラスだ。前年比では2.5%だが、昨年5月の6.2%をピークに緩やかに伸びは低下している。鉱工業生産を牽引しているのは機械工業であり、4月も前年比7.5%と好調である。鉱工業生産の伸び率2.5%の4割は機械工業によるものだ。4月の鉱工業生産指数(季節調整値、2010年=100)は104.4だが、機械工業は129.2である。財別では資本財(輸送機械を除く)の122.4に対して消費財は99.8と2010年の水準以下で低迷している。

鉱工業生産を牽引しているのは機械工業であり、機械工業が伸びているのは輸出が好調だからだ。3月調査の『短観』によれば、大企業製造業の今年度想定円ドル相場は109円66銭であり、この前提に立てば、今年度経常利益は前年比3.2%減少する。2017年度の円ドル相場(111円07銭)よりも円高ドル安だが、世界経済が拡大を持続すれば、製造業の輸出は高水準を維持できるかもしれない。

『法人企業統計』によれば、今年1-3月期の大企業の営業利益は前年比9.0%と昨年10-12月期までの5四半期連続の2桁増から1桁増に低下した。特に、製造業が前年比0.9%と昨年7-9月期の62.6%から水面すれすれまで落ち込んだ。非製造業は15.1%と2四半期連続の2桁増である。製造業の売上高は前年比0.9%に低下し、販管費は前年以下に削減したが、売上原価は売上高の伸びを上回った。昨年第2四半期から人件費は前年比2%超となっており、売上高が伸びているときは収益を圧迫しないけれども、売上高が伸びなくなると途端に収益は悪化することになりそうである。

製造業の従業員数は前年比0.9%にとどまっているが、非製造業は15.0%も増加している。従業員数の増加に伴い人件費は13.5%増加したが、販管費の抑制と売上原価を売上高並みにとどめたため、営業利益は2桁増を確保できた。非製造業の売上高は昨年第2四半期以降高い伸びをみせており、昨年第4四半期には14.7%と1990年第1四半期以来約28年ぶりの異常な伸びとなった。このような高い伸びは消費税率引き上げ前の駆け込み期をも上回っており、とても持続するとは考えられない。早晩、非製造業の売上高は悪化するだろう。その時、従業員を大幅に増員したことによるコスト増が収益を圧迫することになる。

1-3月期の非製造業従業員数は前年比15.0%、60.5万人の増加だが、そのうち38.1万人増の「その他のサービス業」と11.1万人増の「職業紹介・労働者派遣業」の寄与が大きく、従業員の増大は一部の業種に限られている。

生産は外需によって緩やかに伸びているが、国内消費の不振は続いている。『家計調査』によれば、4月の名目消費支出(二人以上の世帯)は前年比0.5%減少、季節調整済実質指数(2015年=100)は96.5と3ヵ月連続で低下し、2000年以降では最低を更新した。消費支出が良くならないのは収入が増えないことに尽きる。特に、男の世帯主収入の横ばい状態が消費を鈍くしている。2017年の世帯主収入は前年比1.3%増加したが、10年前の2007年比では4.2%も減少しているのだ。男の定期収入に限れば、前年比プラスは過去10年で4回にとどまる。配偶者の収入は2007年比で20.7%増加しているが、11,203円に過ぎず、消費への影響力は乏しい。

2017年の消費支出は2007年比3.2%減少している一方、直接税や社会保険料といった非消費支出は15.2%も増大している。直接税の9.5%に対して社会保険料は20.3%も拡大しており、負担が重くなっているが、超高齢化によって、非消費支出はますます拡大し、消費支出を圧迫することは間違いない。

2017年の平均消費性向(消費支出・可処分所得比率)は72.1%と2007年比1.0ポイント低下した。可処分所得は減少したが、消費支出の減少はそれを上回ったのである。2017年のエンゲル係数は23.8%と2007年に比べ2.1ポイントも上昇している。

世帯主収入が増えず、社会保険料が増え続けていけば、消費支出は減少せざるを得ない。今は外需で生産は伸びているが、ドイツ経済には不安な兆候もあらわれており、いつまでも資本財輸出が高い伸びを維持できるわけではない。特に、資本財需要の変動幅は大きく、経済へのインパクトは強い。資本財輸出が不振になれば、日本経済は頼れる部門がなくなり、最後は公的頼みになってしまう。1,100兆円の借金を抱えながら、金融政策は袋小路に入っているため、さらに借金を重ねることになる。こうした悪循環を断ち切らなければならないのだが、政府と日銀は消費を喚起する政策に舵を切ることなく、借金政策から抜け出そうとはしない。

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