国債利回りは週末値、0.49%と0.5%を下回った。週末値で0.5%未満の経験は過去に一度あるだけだ。2003年6月第2週の0.445%だ。この過去最低をつけてから利回りは急騰、3ヵ月後には1.5%を超えた。だが、今回はそのような利回りの急騰はないだろう。消費税引き上げにより、日本経済は消費と生産が収縮しているからだ。『家計調査』によれば、7月の消費支出は名目前年比2.0%、実質5.9%それぞれ減少した。7月の鉱工業生産指数は前月比0.2%とプラスにはなったものの、経産省の前月時点での予測(+2.5%)には遠くおよばなかった。7月の住宅着工件数は前年比-14.1%、持家に限れば25.3%も落ち込んでしまった。消費税を引き上げたことで、日本経済は激しい需要の減退に陥っている。
日本経済が後退下にあることから国債利回りは0.5%割れとなったが、日経平均株価は1万5000円台を維持している。米株の過去最高値更新や円安ドル高で持ち堪えているが、きわめて危うい相場だ。
米国経済の回復を前提にしての米株高だが、GDPの約7割を占める個人消費支出は頼りない。7月の米個人消費支出は前月比マイナス0.1%と今年1月以来6ヵ月ぶりの減少だ。財が0.3%減少したほか、サービス消費も横ばいとなった。報酬の伸びは引き続き低く、可処分所得は0.1%増にとどまった。米国経済を直視すれば、過去最高値が更新できるような経済状況ではないのだ。FRBの実体経済から逸脱した金融政策で保たれている相場なのである。
国債利回りの低下は世界的な現象になっているが、特に、ドイツの低下幅が大きい。ドイツ国債の利回りは週末、0.89%と8月第2週に1%を下回った後も低下を続けており、過去最低を更新。米国国債の利回りも低下しているが、ドイツの低下幅が大きく、米債から独債利回りを引いた利回り格差は、昨年末の1.09%から1.46%に広がった。こうした独米の利回り格差拡大がドルユーロ相場をドル高ユーロ安にしている。
3ヵ月物短期金利もユーロの低下は著しく、日本と変わらない水準に低下してきた。経済の悪化を示すユーロ圏やドイツの経済指標の発表が相次ぎ、ユーロ圏経済の下降が明らかになってきたからだ。8月のIfo景況指数は106.3と4ヵ月連続の低下となり、8月のユーロ圏のインフレ率は前年比0.3%と前年同月から1ポイントも低下、マイナス物価が現実味を帯び、デフレ経済への不安が台頭してきた。
ウクライナへのロシア軍の侵略によって、ユーロ圏とロシアの経済関係が一層冷え込むだろう。今年5月までの5ヵ月間のユーロ圏からロシアへの輸出は前年比14%減少した。ドラギECB総裁が「利用可能なあらゆる手段」を行使するとの発言なども国債購入に拍車を掛けた。ユーロ圏のイタリヤやスペインの国債も買われ、スペインの利回りは2.23%と米債を下回るという異常事態が起こっている。ギリシャ国債の利回りは昨年末の8%台から5%台へと低下しており、国債相場はバブル化しているといってよいだろう。
8月の『月例経済報告』が26日公表された。それによれば「景気は、緩やかな回復が続いており、消費税率引上げに伴う駆け込み需要の反動減も和らぎつつある」のである。4月以降の生産、消費等は、前回の引き上げ後を上回る急激な減少を示しているにもかかわらず、政府は景気の「回復が続いている」、「反動減も和らぎつつある」とみているのだ。どれだけ生産や消費が落ちれば「後退」の言葉が出てくるのだろうか。
さすがに、政府も強き一辺倒にはなれず、「駆け込み需要の反動の長期化や海外景気の下振れなど、我が国の景気を下押しするリスクに留意する必要がある」と逃げ道も用意した。こちらが本音だろうが、すでに景気は「下押し」しているのである。この文言が挿入されたことで、株式関係者は慎重にならざるをえなくなり、債券関係者は強気の行動にでることができた。
『家計調査』によると、7月の実質消費支出(2人以上の世帯)は前年比-5.9%と4ヵ月連続で減少し、前月よりも2.9ポイントもマイナス幅は拡大し、和らいではいないのである。勤労者世帯は3.6%減と総世帯に比べればマイナス幅は小さいが、昨年10月以降、今年3月を除けばすべて前年割れだ。可処分所得が昨年8月以降、12ヵ月連続減となり、7月も5.2%減少している。可処分所得は名目でも-1.3%と2ヵ月連続のマイナス、名目実収入(世帯員全員の収入)は3月以降、5ヵ月連続で前年割れとなり、企業が賃金を削減し続けていることがわかる。
消費支出の減少から生産も低迷している。鉱工業生産は前月比0.2%増にとどまり、在庫は0.8%増と3ヵ月連続の前月比プラスである。企業の計画よりも売れ行きは悪く、意図しない在庫が増加している。一般機械、電気機械、情報通信、輸送機械などの在庫が増加しているが、財別では耐久消費財が7月まで3ヵ月連続で急増しており、前年比でも24.7%増である。やはり、消費税引き上げ後の反動減が大きくあらわれている。資本財(輸送機械を除く)の生産は前月比3.9%と6ヵ月ぶりのプラスとなったが、在庫が1.5%と4ヵ月連続増、前年比でも10.5%増加している。
販売が好調で在庫を増やしているのではなく、売れ行きが落ちているために在庫が倉庫や店の棚に積み上がりつつある。在庫を適正水準に引き下げるように、企業は生産調整をする必要がある。経産省によれば、生産は8月、9月、前月比1.3%、3.5%それぞれ増加するという。9月の拡大は機械工業、電子部品・デバイス、情報通信、輸送機械などの大幅増が予測されているが、在庫が積み上がっているこれらの部門が生産を拡大させることは難しい。8月、9月の生産予測はあまりにも現実から掛け離れている。
2009年2月以来5年5ヵ月ぶりの高い水準に上昇した在庫の在庫調整は数ヵ月で終わらず、長期化するだろう。生産は減産を余儀なくされ、設備投資マインドが強まるような状況ではない。企業は守りの姿勢を強め、賃金などのコスト削減に注力するだろう。ユーロ圏ではデフレの足音が聞こえてくるなど世界経済も低迷状態にあり、輸出に期待することはできない。当面、日本は公的部門頼みの経済運営となり、国の債務は膨張していくだけである。