報酬を犠牲にした米企業利益拡大と株高

投稿者 曽我純, 1月13日 午前10:47, 2014年

昨年12月の新車販売台数は前年比18.7%と9月以降4ヵ月連続の2桁増である。消費税率引上げ前の駆け込み需要が耐久財に顕著にあらわれている。3月までは耐久財中心に生産・販売は好調を維持するだろう。12月、1月の製造工業生産予測調査(経済産業省)によると、生産は前月比2.8%、4.6%それぞれ大幅に拡大するようだ。特に機械、電気、輸送などの産業で増産が見込まれている。

生産の拡大などで、昨年11月の景気一致指数は前月比+0.1%と3ヵ月連続で上昇し、リーマン・ショックに襲われた2008年9月以来の高い水準に戻った。ただ、先行指数は前月比2ヵ月ぶりにプラスになったが、5月の水準を下回ったままである。ディフュージョン・インデックスも11月、先行77.8%、一致指数85.0%となり、経済の広い範囲で良好な状態が保たれていることがわかる。

1997年4月に消費税率を引き上げたときには、先行指数は引上げの6ヵ月前の1996年10月、一致指数は引き上げ直前の1997年3月にピークを付けている。一致のディフュージョン・インデックスは1997年夏頃から悪化し、その後半年はゼロ%ないしはそれに近い厳しい状態が続いた。景気は1997年5月をピークに急速に悪化していき、2年8ヵ月にもおよぶ景気下降に陥った。

 先行、一致指数の前年比伸び率は12.2%、8.9%と過去のピーク時の伸びに上昇した。株価のピークも先行指数の伸び率のピークに近いところにあることから、日本の株式は警戒態勢の時期にきていると言える。

 昨年12月の米雇用者数が予想を下回る前月比7.4万人増にとどまり、約3年ぶりの低い伸びになったことから、米債券相場は急進、利回りは前日比11ベイシスポイントも低下した。一方、NYダウは前日比小幅減にとどまり、S&P500は上昇した。雇用の回復が思わしくなければ、金融緩和縮小がなかなか進まない事態を予想し、株式も値を保ったのだ。

それにしても賃金の伸びは低く、昨年12月の平均週当りの賃金は前年比1.8%と前年同月を0.3ポイント下回っている。消費者物価上昇率の1.2%を差し引けば実質0.6%しか増加していない。これでは米消費支出は拡大することができず、かつてのような成長を取り戻すことはできない。

昨年7-9月期の米名目GDPが前年比3.4%伸びていながら、賃金が1.8%しか増加していないことは、企業利益は賃金よりも伸びており、労働分配率が低下していることを示している。事実、昨年7-9月期の企業収益は前年比5.8%増加している。

こうした報酬よりも企業利益の伸びが高くなりだしたのは2002年以降であり、それまでは企業利益よりも報酬の伸びが高かったのである。1965年から2001年までの36年間に報酬は15.3倍に拡大したが、企業利益は9.2倍にとどまった。ところが、2001年から2013年までの12年間では報酬の1.4倍に対して企業利益は4.0倍に拡大しているのである。経済成長率は低下していながら、報酬を抑制することで企業利益が飛躍的に拡大していることがわかる。この報酬を犠牲した企業利益の増加が株高をもたらしているのである。

2008年の金融危機以前の企業利益は2006年7-9月期が最大であり、その後、企業利益は急激に悪化、2008年10-12月期にはピーク比52.4%減となった。が、その5四半期後の2010年1-3月期には早くも過去最高を更新。政府の企業支援やFRBの利下げ、賃金抑制などが企業利益の急回復をもたらした。

日本企業の利益は円安、駆け込み需要、公共事業の拡大などで回復しているが、2012年度の段階では過去最高を下回っている。特に、製造業は2006年度のピークの半分にも満たない低水準であり、バブルの絶頂期をも下回っている。他方、非製造業の利益は2012年度、2006年度に付けた過去最高を更新している。

1989年から2012年までに米国の企業利益は7.2倍に増加しているが、日本の企業利益は1.3倍にすぎない。これだけ利益成長率に格差が生じれば、日経平均株価が依然ピークの4割の水準にとどまる半面、NYダウが過去最高値を更新するというまったく異なる展開になるのもいたしかたない。

だが、こうした報酬を犠牲にした企業利益の成長が持続可能だろうか。労働分配率の低下と所得格差拡大は消費支出に悪影響を及ぼし、売上と設備投資の低迷を招き、経済成長率を一段引き下げることになる。また金融に過度に依存する体質から抜け出すことができず、金融部門肥大化による経済不安定性が高まることになる。金融という一瞬にして消え去るような代物に経済を委ねることの恐ろしさを今一度思い返す必要がある。

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