報道機関の大本営発表続く

投稿者 曽我純, 8月19日 午後3:48, 2012年

NYダウは特段の材料が出たわけでもないが、先週も上昇し、これで6週連続高である。週末値では今年4月の高値を抜き、07年12月第4週以来5年4ヵ月ぶりの高水準である。7月の米小売売上高は前月比0.8%伸びたが、6月まで2ヵ月連続で減少したことを考慮すれば、さして高いとはいえない。前年比では3.4%、7月の消費者物価の上昇率を差し引けば実質2.0%と低い伸びであり、消費が米国経済を牽引するにはいたっていない。

7月の米鉱工業生産も前月比0.6%増加したが、小売売上高同様、前月までの低迷の影響もある。鉱工業生産をリードしているのは自動車であり、生産は自動車がいつまで好調を持続できるかにかかっている。7月の景気先行指数は2ヵ月ぶりのプラスとなり、一致指数も拡大しているが、一致指数のデフュージョン指数は100%となり、景気の拡大がすべての経済分野に波及していることをあらわし、これ以上の景気は望めない領域に達している。

米商業銀行の不動産貸付は高水準に高止まりしており、総貸付に占める不動産貸付は7月、49.5%と依然高く、不良債権処理は進んでいない。総資産に占める現金比率は再び上昇し、7月は14.1%と昨年7月のピークに近づいている。いずれにしても、米商業銀行のバランスシートは異常なままであり、信用不安の火種をかかえたままである。このような経済金融状況での株高は行き過ぎであり、株式は実体経済から離れつつある。

 日本の株高も理由はない。8月第2週まで外人は7週連続の売り越しだが、第2週の日本株は上昇した。先週、先物取引は週末に近づくにつれて取引が拡大しており、先物の現物にたいする影響は強くなっている。先物買いの解消がでれば一気に値は崩れることになりかねない。すでにそのような高い水準まで買い上がっている。米株は年初来高値を更新すれば、利食い売りの姿勢が強まり、調整することになるだろう。米株追随の日本株はあっけなく反落することになりそうだ。

 

報道機関の大本営発表はなにも原発報道だけでなく、あらゆる分野に広がっている。新聞を読むことによって事実から離れてしまう怖さを覚える。原発報道の反省など報道機関には微塵もないのだろう。新聞は高慢だが、政府の発表を右から左へ流すだけの政府の宣伝機関に堕落している。GDPの中身を少しは掘り下げ、日本経済の現状を抉り出す作業をしなければ、高い料金を取ることは許されない。

13日、4-6月期のGDP統計が公表されたが、各社、見出しには「GDP4期連続増」と大きく扱われていた。4期連続で増加していることは、日本経済は拡大していることであり、なんら心配することはないはずだ。だが、現実の経済は不安に満ちており、とてもGDPの4期連続増を素直に受け取ることはできない。

実質GDPは4期連続増だが、名目は2期ぶりにマイナスとなった。物価が上昇しているインフレのときは物価指数でインフレ分を調整して表さなければならないが、物価が下落しているデフレときは、名目の表示が事実に近い。GDPはもともと推計値であるため正確さに欠けるが、低下している物価指数で名目GDPを割れば、GDPは嵩上げされることになり、実態から掛け離れた数値になってしまう。物価が低下すればするほど、名目GDPに変化がなければ、実質はそれだけ大きくなるからだ。それで経済は拡大しているといわれても、実感まったくその逆だと思う。

4-6月期の実質GDPは520.8兆円だが、名目GDPは475.3兆円だ。45.5兆円も名目が少ない。これは名目GDPを低下した物価指数で割ったことによる。国内総生産は475.3兆円だが、物価が下落している分を考慮すれば、520.8兆円になるという。物価がもっと下がれば、530兆円や550兆円になるだろう。それでも経済が拡大していることになるのだろうか。

今回公表された2000年以降のデフレーターはほぼ前期比マイナスとなり、12年半で15.4%下落した(年率1.57%減)。年度でみれば1993年がデフレーターのピークだから、19年間も物価が下落し続けている長期デフレである。物価が下落するのは、需要が供給を下回っているからだ。供給が需要を上回っているにもかかわらず、固定資産を削減することなく、余分に抱えており、過剰生産設備の処理の遅れがデフレをいつまでも持続させている。

人口減が本格化しつつあるなかで、需要減に歯止めは掛からず、物価下落は一層深刻化するだろう。先行き下がるという期待が強いので、需要は出てこない。需要が弱いのでさらに物価は下落するという悪循環に一層輪を掛けることになる。

 4-6月期の米実質GDPは前期比0.4%増、ユーロ圏はマイナス0.2%と2期ぶりのマイナスになった。4-6月期に限れば、日本は米国並みの成長を遂げたことになる。が、名目では米国は0.8%増、ユーロ圏もプラスである。日本だけが名目マイナスだ。マイナスになったのは、GDP比率の最も高い最終消費支出が減少したからである。政策により自動車販売が好調で耐久消費財は0.9%増加したが、国内家計最終消費支出は前期比0.4%減少した。

4-6月期の国内家計最終消費支出は280.9兆円だが、2000年以降をみても2000年1-3月期をわずかだが下回っている。家計消費はそれほど低迷しているが、今後、人口減と高齢化により消費はより深刻になるだろう。

『国民経済計算確報』によると、2010年度の国内家計最終消費支出は277.0兆円、2001年度比4.3兆円減、率にして1.5%減少した。支出別では食品や被服が20%を超える減少を示している半面、通信、保健・医療は2桁増である。住居・電気・ガスも伸びており、家計の支出構造は変わってきている。

デフレで消費が減少を続けるなかで、8月10日、政府は消費増税を決定し、大新聞はこれに賛成した。家計は間違いなく消費を削減し、13兆円を超えると予想されている増税は懐に入らないはずだ。消費が落ち込めば、景気は悪くなり、所得税、法人税は大幅に減少するだろう。増税しても税の総額は減少することもあり得る。

消費の削減により、企業の過剰設備はさらに負担になり、収益を圧迫、設備投資は激しく収縮することは間違いない。設備投資の急減により景気は極端に落ち込み、財政出動せざるを得なくなる。このようなシナリオが消費税引き上げ後に起こるだろう。設備投資が落ち込む過程で貯蓄を吸収できるのは輸出か政府部門のどちらかであり、世界経済が好転していれば、ある程度輸出で吸収できるが、そうでなければ政府が貯蓄を使うしかない。政府が出て行かなければ、日本経済は恐慌に突き進むことになる。消費増税による消費減を侮ってはいけない。 

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