円ドル相場は週末、78円台で引けた。国内の経済、政治情勢とは無関係に円が買われている。米国や欧州にそれぞれ事情があるとはいえ、円にそれほど魅力があるとは思えないというのが大方の見解ではないか。そうした見方を覆すほどの円高ドル安の進行は、国債の消化が順調に進むかどうかに依存しているように思える。日本のように国債発行残高(GDP比134%、2010年度)は世界最高でありながら、国内の貯蓄超過から国債の消化を難なくこなすことができる。他方、ギリシャのように既発債も売り込まれ、発行するどころではない国もある。EUとIMFの第2次金融支援で落ち着きを取り戻しつつあるが、ギリシャ経済の信用回復という根本問題が解決されない限り、ギリシャ国債の不安はなくならず、第3次、第4次の金融支援も必要になるかもしれず、そのときユーロは再び売り込まれることになるだろう。米国も双子の赤字を抱え、ドル散布の拡大がドル減価となっている。国内貯蓄で国債を十分に消化できることから、日本国債の価格は安定しており、円相場も強い傾向を維持している。
ギリシャをはじめ財政赤字を削減しなければならない国は、今後、政府支出の減少によって、いまも不振な経済がますます悪化するだろう。経済が低迷すれば、税収は減少し、財政状態は悪くなる。すでに政府支出がGDPの50%程度を占めており、政府支出を削減することの経済的ダメージはきわめて大きい。
ギリシャが緊縮財政を強めることで経済が悪化し、税収も落ちることになれば、国債を発行しなければならないが、返済されるかどうかわからない国債を買う人などいない。結局、EU、IMFで支援しなければならなくなる。このままの状態が続くことになれば、ドイツが経済・財政悪化の国の面倒をみなければならない。貿易で稼いだ金をEUのなかで使うことになり、EUにとってはそれで経済が回ることになる。ユーロの維持を続けていくには、強い国が弱い国の面倒をみる以外に方法はない。ドイツが政治的なリーダーシップを発揮し、全体をまとめていくことが、ユーロの発展には欠かせないのである。
米国経済は債務上限引き上げの決着がなかなかつかないが、問題は膨らんだ財政支出削減の景気へのインパクトがどのくらいになるかである。増税と支出削減により財政赤字は減少するけれども、民間部門がそれを補って余りある拡大を遂げることができるかが問われている。民間部門が力強さに欠ければ、経済の足取りははっきりしないまま、停滞が長引くことになる。
失業率がいまだ9%を超える高水準にあることなどから、米国経済の主力エンジンである消費に火かつくことは期待できない。消費が弱い状態では国内設備投資意欲も低調であり、回復感のなき経済状況が続くだろう。設備投資の回復が遅れることになれば、家計の貯蓄の行き場がなくなり、最終的には国債に行き着くことになる。だが、家計部門の貯蓄だけで米財政赤字を賄いきれず、海外から資金を手当てしなければならない。
米経常収支の赤字額は最終的に米国に流入することになり、米国債の購入資金にもなる。米双子の赤字によるドルの海外への流出によるドル安が米国資産の購入価格を引き下げ、米国への資金流入を促している。
一般的に、経済が豊かになると、所得のうち消費に使う金額は少なくなり、貯蓄をより多くするようになる。こうした消費性向の低下はどのような経済でも起こることであり、避けることはできない。消費性向の低下に伴う需要不足を経済のどこかで補う必要がある。そうしなければ需要不足で経済は下降することになる。気まぐれな民間設備投資だけでは需要は足りず、政府部門の役割が重要になってくる。
公的部門を民営化すれば公的部門が縮小、民間部門が拡大し、無駄が省け効率的な筋肉質の経済を築くことができるといわれているが、このように話は単純には進まない。一時的には、民営化は組織の活性化や効率化が期待できるかもしれないが、経済全体としてみれば、すぐに有効需要の不足に直面し、政府部門を必然的に拡大せざるを得なくなる。公的部門をいくら民営化しても民営化した部門がすべてを消費することはないので、需要不足が発生し、増加した貯蓄は政府が吸収し、支出していかねばならない。貯蓄する社会では、民営化すれば政府の肥大化を抑えることができるというのは間違いなのである。
日本のように消費性向の低い国では、歳出の4割程度しか税収で賄えなくても、国債を発行し、公務員の給与を高水準のまま払い続けるしかない。税金を払っている人の給与よりも税金から支払いを受けている公務員の給与が高いという現象の修正もほとんど進んでいない。ギリシャのように国債が暴落すれば、日本の財政も現状を維持できなくなり、公務員の高い給与も払えなくなる。そのときは、157兆円も国債を抱える銀行や80兆円の国債を保有する日銀などは立ち行かなくなるだろう。経済はパニックに陥り、国民の多くは路頭に迷うことになる。巨額の国内貯蓄がこのような破綻の歯止めになっているが、ギリシャのように国債の信用に瑕がつかなくても、そのような兆しが見えてくるだけで、国債価格は急落することになるだろう。原発事故同様、国債の信用不安も突然あらわれる。想定外と片付けることのないように、最悪の事態を想定し、万が一に備えておく必要がある。(これから約1ヵ月、東京を離れるのでしばらく休刊にします。9月上旬には執筆できると思います)