原発で墓穴を掘る日本

投稿者 曽我純, 3月13日 午後8:27, 2016年

東日本大震災から5年過ぎた。今年度までの集中復興期間に26.3兆円もの巨費が投じられた。平均すれば毎年5兆円超の資金が支出されたということだ。2016年度一般会計の公共事業関係費は約6兆円だから、集中復興期間に投じられた資金がいかに巨額であったかがわかる。これだけの巨費が投じられたのだから、復旧は進み、経済はかなり良くなったのではないかと思われるのではないだろうか。だが、2011年と2015年の実質GDPを比較すると、3.6%増の18.2兆円しか増加していない。公的部門は5.5%増の6.5兆円、民需は3.9%増の14.9兆円にとどまっている。

津波と原発で多くの生産・サービス部門が破壊されたことによるマイナス作用が大きかったのだろう。あるいは生産・サービスの中間段階で資金を使い尽くしたことや、所得税と住民税への上乗せによる消費へのマイナス効果が大きかったことも原因として考えられる。特に、2015年の実質家計最終消費支出(持ち家の帰属家賃を除く)は246.8兆円、2011年比0.9%しか伸びていない。2011年の2年後の2013年は254.4兆円と2年連続で増加したが、消費税率が引き上げられ、2年連続減となった。民間住宅でも同3.3%増の0.43兆円の増加だ。やはり消費税の影響が大きく、2014年以降2年連続のマイナスである。民需を取り上げてみても2013年をピークにその後は下り坂である。いずれにしても、大震災の復興需要はそれなりに発生したものの、消費税率引き上げによる先取りと反動減の影響が大きく、復興需要を掻き消してしまった。公的需要の拡大だけでは、国内需要を引き上げることができないのである。

 

津波で奪われ、傷つけられた跡地を復旧することは容易ではない。加えて、原発でちりぢりにされた福島はかなりの部分が住めるところではなくなった。それを除染とやらで無理やり帰還可能にし、戻ってきてもよいという。なんと酷い仕打ちではないか。国は放射能を国民に浴びせることに平気なのである。それほど安全であれば、国会を福島第1原発の隣に移転してはどうか。官公庁も当然その近辺に移設することになる。

東電は東電社員を福島第1原発で何人働かせているのだろう。従来の原発では約1割しか社員を配置していない。9割は下請けなのだ。安全だといいながら、社員には放射能を極力避ける体制を作っているのである。社員には被ばくさせたくないのである。事実、原発での社員と下請けの被ばく量は1対2である。

福島第1原発では1日約7,000人が働いているというが、大半は下請け、それも何段階もある複雑極まりない雇用形態をとっている。このように大半を下請け任せにしている職場がほかにあるだろう。自ら引き起こした大事故であるにもかかわらず、東電社員は少人数で、比較的放射能の影響の少ない安全なところに従事しているのだ。これでは廃炉作業は進むはずがない。

しかも東電社員と下請けの給与格差は歴然としている。放射能リスクの高い下請けがリスクの低い社員よりも安い賃金で雇われる。しかも下請けの多くは非正規であるため、先行きに不安が付き纏う。原発現場の特殊な雇用形態をみるだけでも、電力会社を支えている土台がいかに非人間な仕組みで成り立っているかがわかる。かつての奴隷制度を彷彿させる。

東電は自分で犯した大事故を処理できないことをまったく意に介しない。国民の支援を受けながら、いつ終わるかわからない廃炉作業を行いつつも、原発再稼働を目指しているのだ。事故を起こしても潰れないし、道ずれにするぞとの脅しを込めているようだ。だから、俺たちのいうように再稼働を認めよと迫るのである。

原発事故で撒き散らした核廃物を東電ではどうすることもできないが、それでも再稼働なのである。まさに無責任会社である。放射能を撒き散らし、除染した核廃物も手におえず、お手上げ状態であるが、なぜこれほどまでに原発にこだわるのだろうか。

電力は余っている。原発を再稼働すれば、化石燃料の発電所を止めるのだろう。火力発電所を止めて原発を動かすことは、ますます厄介な核廃物が発生する。でも電力会社は平気なのだ。自分たちでできなくても国がなんとかしてくれる、国と電力会社は原発を紐帯として一体化しているのだから。生活に欠かせない電力を支配している優位性を武器に、電力会社は国民すべてを原発に巻き込むことができると踏んでいるのだ。原発に文句を言うのなら電力は供給しないぞ、という声が聞こえてきそうである。

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