原子力村と証券村

投稿者 曽我純, 5月27日 午後4:03, 2012年

日経平均株価は8週連続安となり、その間の下落率は14.9%、下げ幅は1,503円に達した。信用不安で揺れている欧州の主要株価指数に比べても下落率は大きく、日本株の不振が際立っている。5月のユーロ圏PMIが45.9と35ヵ月ぶりの低い水準に落ち込み、同日(24日)発表された5月の独Ifoが106.9と前月比3ポイントも急低下し、4-6月期のユーロ圏GDPがマイナスになる可能性が強まった。こうしたユーロ圏経済の悪化観測がユーロ売りを加速させ、延いては日本株の売りの原因になっていることは間違いないが、日本の株安はそれだけではなく、実態を構造的把握できないお粗末な日本の政治や経済連に象徴される時代錯誤の経済界に見切りをつけているのかもしれない。福島原発事故後も何食わぬ顔でのさばっている原子力委員会や原子力安全委員会の委員、一体、日本の政治家はなにを考えているのだろうか。

原発廃止を食い止めようと必死で抵抗する推進派は事故など眼中にないのである。自分たちの地位をただ維持するために、あらゆる手段をもちいて、政治を動かしている。だから、核廃物がいくらでてきても平気なのだ。人類が生存しているかどうかわからないくらい遠い遠い未来まで放射能を出し続けるごみをだれが歓迎するのだろうか。テレビやパソコンの破棄でもコストが掛かかり、使用価値がゼロになっても、資産としてはゼロではなくマイナスになる。核廃物はマイナスの値が何十兆円、何百兆円にもなるだろう。原発推進派は保身を図るために、国民に何十兆円、何百兆円ものコストを負担させ、かつ放射能という目に見えない敵との戦いを強いる。このような毒とコストに塗れた生活は憲法からみて許されることではない。まさに、第2次世界大戦を主導した軍国主義者と同じことを原発推進者はしてきたのである。

電力不足やコスト高を理由に挙げて原発の再稼動を推し進めようとしているが、どちらも正しくない。特に、関西電力は15%程度供給が不足すると言われているが、関西電力提出の電力ロードカーブ(1時間毎の電力消費量)によれば、昨年7月、8月通算で供給量を超えたのは主に昼間の65時間である。このために供給に躍起になっており、通常必要ない過大な生産設備を抱えなくてはならなくなっている。原発を動かさなくても、昼間のピーク時に少しでも節約すれば電力は十分に足りるのである。1人当たり日本の電力消費量(2009年、電気事業連合会)はドイツ、イギリスより15.5%、37.5%それぞれ多く、まだまだ電力消費を削減する余地は大きい。電力消費を減らすことが重要だが、供給面の拡大を図るのであれば火力発電にたよるほかない。

コストで原発は安いと指摘されているが、核廃物の処理保管を含めるならば、さらに福島原発事故の処理、賠償等をコストに入れると化石燃料の比ではない。膨大なコストに加え、土地を追われ、10年、20年後に発生する放射能による健康不安に晒される。原発事故は、こうした人権、生命などコストでは計れない、次元の違う問題を引き起こすのだ。原発は人間や自然とは相容れないものであり、折り合いなどつく問題ではないのである。

 原発廃止を打ち出すこともなく、のらりくらり歩む野田政権。原発廃止を明らかにしないことが、核燃料問題で推進派の暗躍を許すことになるのだ。原発関連施設のすべてをすみやかに閉鎖・処分の方針を決定すべきだ。原発の廃止を決定しても廃炉さらに核廃物の保管・管理まで気の遠くなる時間と金を要し、負の施設を処理しなければならない。電力需給問題などに時間をとられているときではない。

福島原発事故が起きても東電には捜査が入らず、だれも業務上過失致死傷罪に問われていない。最近、三井化学岩国大竹工場で爆発が起こったが、業務上過失致死傷罪が疑われ捜査が入っている。福島原発に比べれば事故の規模は小さいが、それでも警察が捜査を進めているのである。原発は国と東電がぐるになっているので、捜査が行われれば、国が問われることになるので捜査が入らないのか。今年3月7日、槌田敦氏は東電勝俣恒久第10社長ら6名を東京地方裁判所に告発した。だが、裁判所は告発状を返してきた。強制捜査でなければ真相の究明は不可能であり、時間の経過とともに事実関係の調査は難しくなり、事故原因がわからないままになる。このような強制力のない東電任せの事故究明では重大事故の原因は解明されず、また同じような事故が起こることになる。まったく日本は性懲りのない国に落ちぶれてしまったものだ。

証券界も常識が通用しないところだ。だから、日経平均株価の1万円割れが常態化しているのだ。東電をいまだに平気で上場させていることに、東証はなにの疑念も生じないのだろうか。東証は証券会社が株主となっている。ということは証券界が東電の上場を認めていることになる。証券界全体で東電問題を問題とせず、他人事のように振舞うことが、自らの首を絞めているのである。原子力村ではないが、証券にも歴然として村が存在する。ほとんどの証券会社が銀行の傘下に入り、銀行も証券村に仲間入りした。株式の回転売買、投資信託の頻繁な乗り換え、銀行の広告にも2桁の金利を提示するなどあまりの勧誘優先の姿勢。AIJが問題になったが、個人顧客などそうした損失など日常茶飯事ではないか。10年債国債利回りが1%を下回っているときに、それ以上の利益を稼ぐことはまずできないと考えておいたほうがよい。それをはるかに上回る利益を提示する会社は詐欺師だとみるべきだ。

うまい儲け話などないのである。証券会社は儲け話を囁き、客を勧誘してきた。経済がマイナス成長になり、儲け話はほとんど話しに終わり、顧客は買えば買うほど損失を膨らますことになった。証券会社や投資信託、投資顧問は損失を被ることなく、手数料や資産に応じた運用手数料を取るので痛くも痒くもない。マイナスの運用をしても手数料はしっかり取る、つまり、他人の金を食い物にしているのである。

 こうしたいかさま行為が公然と行われていることが、証券界衰退の根本原因なのだ。東電を上場させ続ければ続けるほど、株式市場は弱っていく。市場の一部が腐っており、その周辺も壊死していくことになるからだ。さらに腐敗が拡がっていけば、全体が潰れることになる。全体のわずかな部分が腐っているだけでも、全体がその影響を受けることの深刻さを証券界は軽く考えている。健全な企業にまで悪影響が及び理不尽な仕打ちを受けることになるのだが。 

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