危うい日本の立憲主義

投稿者 曽我純, 3月26日 午後8:25, 2017年

NYダウは前週比1.5%下落した。昨年11月第1週以来の下げ率だ。トランプ大統領の政策実行性に疑問が生じてきたからだという。それではトランプ大統領が掲げている政策を遂行できれば米国経済は今より良くなるのだろうか。市場関係者の多くはトランプ派なのでそう考えているのだろう。だが、トランプ大統領の政策が実行されれば、米国社会の格差はますます拡大し、社会は醜くなっていくだろう。そして米国は弱体化していくことになる。トランプ大統領が主導する政策では墓穴を掘ることになるのだ。
むしろトランプ大統領が行なおうとしている政策など実現できないほうが米国のためになる。前週末、オバマケア代替法案が撤回されたが、身内の共和党にもトランプの政策に反対する人がいるのである。それだけ、トランプ大統領の政策には問題があるということなのだ。自国第1主義、移民の制限など基本的な考えが間違っている。こうした原理を振り回せば、米国社会の活力が削がれ、問題が噴出することになりかねない。問題は外部にあるのではなく、米国の内部、しかも大統領の進めようとしている政策にあるのである。
日本とて同じだ。先週、「組織的犯罪処罰法改正案」が国会へ提出された。人間の内面にまで公権力が踏み込んでくるのだ。規制緩和などというが、人に対しては規制強化を図る。思想や言論、集会等に圧力を掛ける法案であり、成立すれば法が示す内容よりもより強い影響力を持つのではないだろうか。すでに安倍政権が成立させた「特定秘密保護法」や「安保法」に加えて、「組織的犯罪処罰法改正案」が成立すれば、国家権力がますます強くなることは間違いない。
安倍政権が目指しているのは国家権力の拡大強化であり、基本的人権の制限なのである。戦前の国体に基づく政治であり、中国や北朝鮮のような全体主義体制を確立させることが理想なのだろう。いまや米国もトランプ大統領の出現によって自由に制限が加えられており、世界的に強権政治という忌まわしい時代に向かっている。
日本国憲法の前文に「専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しよう」、「いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」と謳われている。安倍首相やトランプ大統領がこうした理念から逸脱していることは明白である。
中国やロシアの社会は「専制と隷従、圧迫と偏狭」に満ちており、だから息苦しく社会的不満が充満しているのだ。自由を束縛されていれば、新たなものは生み出されないだろうし、鬱憤がいつ爆発するともかぎらない。「専制と隷従、圧迫と偏狭」に満ちた社会であるからこそ、テロが起こるのである。テロや反体制勢力が台頭するのは政治体制に問題があるからだ。
安倍政権は強権政治体制の構築を目論んでいる。もっとも暴走を阻止しなければならないのは個人や組織などではなく国家なのだ。国家権力に枠をはめているのは憲法だが、安倍政権はこの憲法をかってに解釈し、骨抜きにしようとしている。現行憲法をなんとも思わない人が首相や国務大臣まで昇り詰めているばかりでなく、国会議員の3分の2以上が改憲派という事態に陥っている。それでも安倍内閣の支持率は高いのだ。
強権政治を強め、基本的人権を制限するような体制ではすべてがうまく機能しなくなるだろう。政治が専制的になり、首相の周りには従順なかばん持ちばかりということになれば、政治の堕落は避けられない。そうなれば経済も衰退の途を辿るだろう。資本主義経済の大前提は自由に活動できる人や企業が存在すること。この大前提はすでにかなり成り立たなくなっているけれども、さらに自由な活動に対して規制が強まれば資本主義経済は機能しなくなる。
株式市場は資本主義経済のエンジンなどといわれているが、資本主義経済が機能しなくなれば、株式市場の存在意義はなくなる。トランプ大統領や安倍首相は資本主義経済を脅かしているともいえる。資本主義経済の原動力を奪うような政策を推進していながら、株式が評価されることは、株式市場がトランプ大統領の施策を正しく評価していないことになる。だが、間違った解釈が長期間放置されることはないだろう。いずれ、株式市場はこれまでのトランプ政策への高評価を改めるだろう。
それにしても首相夫人の日本会議所属の国粋主義者との深い関係、彼らへの国有財産売却への関与疑惑等、安倍首相の落とし穴はもっとも身近なところにあった。窮地に追いやられるのは外部要因ではなく内部要因だという典型的な事例ではないか。
首相夫人であるならば本来、関わりを避けなければならない人たちであった。首相夫人には付き人が5人もいるそうだが、何のために5人も配置していたのだろうか。付き人は、首相夫人に群がってくる有象無象から守る必要がある。日本会議に所属していることから、同胞として安心感があったのか深入りしてしまった。
森友学園問題により、改めて皇国史観に立つ日本会議が、日本社会に蔓延ってきているかがあきらかになった。安倍政権の「特定秘密保護法」や「安保法」から「組織的犯罪処罰法改正案」に至るまでの法案制定をみれば、立憲主義を蔑ろにし、国体論を復活させようとしていることはあきらかだ。そうした法案は国体論を進めるための序章なのである。自民党の大半の国会議員が、日本会議と神道政治連盟に所属していることを顧慮すれば、安倍政権の存続は、戦前のように国体論が立憲主義を駆逐し、日本は全体主義体制で覆われることを予感させる。

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