力ずくで民意を押え込む野田首相

投稿者 曽我純, 7月22日 午後8:07, 2012年

週末の首相官邸集会の拡大を防ぐために、野田首相は国民を官邸の近くに近づけないようにしている。首相官邸から国会議事堂の周辺を警察がバリケードで固めている。不測の事態が起こらないようにするためだという。それほど事故が起こることに気を配るのであれば、危険に満ちた原発をなぜ平気で動かすのだろうか。野田首相は原発よりも集会やデモがより危険だと考えているのだろう。

警察の力で自由に歩行もできないようにすればするほど、国民の野田首相への反発は強まるだろう。権力で国民の自由を束縛し、権力を誇示する政権ほど危ういことはない。だが、野田首相は権力振り回すことを選んだようだ。野田首相ほど権力を誇示している政治家はなかなかいない。国家の舵を右へと急旋回させつつある。自民党と組めば、憲法改正も現実味を帯びてくる。野田首相は憲法9条を真っ先に変えるだろう。強権政治によって、平和憲法は今戦後最大の危機を迎えているといえる。

福島原発を封じ込めることができないことを棚に上げて、いまだに2030年の原発依存度を云々している。なんとも惚けた話ではないか。今度原発事故が起これば、住めるところがますます狭くなるというのに、まだ、政府は原発依存を捨てきれないでいる。推進派の人たちだけに原発被害が及ぶのであれば、自業自得ですますことができるが、原発事故は脱原発の人にも及ぶのである。さらに核廃物は気の遠くなるような先まで保管しなければならない。国家の寿命をはるかに超える年月をだれが管理するのだろうか。

電気が足りないとか、電気代が上がるとかいろいろ難癖をつけるが、そのようなレベルの話ではないのだ。日本に住めなくなることのリスクが、電力不足やコスト高よりもはるかに重いことはだれにでもわかるだろう。1億2千万人の人々がどこかに逃げなくてはならない。このようなリスクをだれが取れるだろうか。

福島原発を廃炉にするだけで何十兆円も掛かることを考えれば、原発の電力コストは桁違いに高くなる。数年で火力発電は十分に建設できるし、化石燃料は十分にある。経済はマイナス成長を続けることから、電力需要は増えないし、新設の火力発電所はそれほど必要ない。今でも原発なしで日本の電力を賄うことができているのだ。

野田首相の政治は決めなければならぬことは決めず、決めなくてもよいことは決める政治だ。原発再稼動、武器輸出、集団的自衛権、原発と安全保障などは真剣に取り組み、軍事国家を目指す意図がありありと見える。戦争に驀進した戦前の政治が理想なのだろう。

日本経済がこれからさらに激しくなるときに、アナクロニズムの首相が現われたことは、取り返しのつかない悲惨な事態を招くだろう。野田首相は国民の思考とはどんどんかけ離れていくが、そうなれば力で抑え込むことで、政権を正当化するしかなくなる。週末の首相官邸集会はそうした段階に到達していることを如実に示している。まったく口先だけの酷い人間が首相になったものだ。

首相官邸集会の規模が膨らむにつれて、日本株は下げ足を早めているように思う。野田首相の政治・経済の方向性は危ういと感じ、外人の売り越しが続いているからだ。言うまでもなく、欧州の銀行が不良債権を抱え、米国も同様の問題を引きずっていることが、日本株に影響しているが、欧米株式よりも日本株の酷さは目を覆いたくなるほどである。6月初めにTOPIXがバブル崩壊後最低を更新したことに象徴されるように、バブル後23年近く経過しても、バブルのけじめもつけられず、まだ下値が確認されていない。

東証1部売買代金(委託)の約7割を外人が占めており、日本株の外人支配が続いているが、地域別にみると外人の約7割は欧州勢である。地元欧州の金融不安の解消が程遠いことが、外国株保有のリスク許容度を引き下げ、日本株を売却せざるを得なくなっている。欧州の信用不安が通貨ユーロの価値を傷つけており、円高ユーロ安も日本株の売りに結びついている。

信用不安の強弱に伴って、ユーロの価値も変動している。スペインの国債利回りが19日に8営業ぶりに7.0%を付けたが、20日には7.27%に急騰し、6月18日の高値を更新した。イタリアも6.2%に上昇しており、高利回りがスペインやイタリアの経済不況を一層深刻にすることは間違いない。半面、ドイツ国債の利回りは週末、1.17%と6月1日の過去最低に並び、ユーロ圏での利回り格差は一段拡大し、ユーロ圏の矛盾は拡がるばかりだ。

 米国債利回りも1.46%、日本は0.745%へと低下し、主要国の国債利回りは08年後半の金融恐慌のときよりもはるかに低い。日本は約9年ぶりの低下となり、米独は歴史上未知の領域に入っており、まさに異常な低利回りなのだ。国債利回りの現在の水準をそのまま受け入れるならば、米独の経済は08年の金融危機時よりもさらに悪いということである。企業の期待収益率は極度に低下し、個人消費も冷え込んでおり、こうした景気の悪化を回復させる力が国債利回りにはないことが明らかになった。財政政策によってのみ今の欧米経済は持ち上げることができるのである。 

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