利益急増の実態

投稿者 曽我純, 12月3日 午後9:28, 2017年

米株式市場は法人税減税を織り込んでしまったようだ。米個人消費支出の動向など実体経済は代り映えしないが、株式だけは過去最高値を更新しており、S&P500のPER(株価収益率)は30倍を超え、バブルは膨らんでいる。2008年の金融危機以前のピーク(2007年1月)と比較してS&P500は1.7倍も上昇しているが、EPS(一株当たりの利益)は1.4倍の伸びにとどまっており、PERは歴史的な高水準に達している。しかもトランプ政権は金満家の集団であり、富裕層を優遇する政策を推進し、米国経済を底上げすることはできず、社会を不安定にするだろう。見識を欠くトランプ大統領のもとでは、すでに政権内部でさまざまな齟齬をきたしているように、米国の政治状況は悪化の一途をたどるだろう。
日本でも森友学園、加計学園といった問題に時間を取られ、日本の行く末を決める財政、所得格差、日銀の金融政策などを深く議論しなければならない根本問題は放置されたままである。だが、米株高に釣られて日本株も値上がりしている。憂うべき事態である。
株高などの影響で11月の米消費者信頼感指数は17年ぶりの高水準を示したが、10月の個人消費支出は前月比0.3%増にとどまり、前年比では4.2%伸びた。ただ、一人当たりでは実質前年比0.9%と低く、米国の個人消費は依然弱いと言える。
2015年の一人当たり個人消費支出は実質3.4%と高い伸びをみせたが、2016年は0.7%へと大幅に低下した。今年に入ってからもこの傾向は続いており、前年比1%に満たない低迷した状態である。個人消費支出が弱いことは取りも直さずGDPの伸びも弱いということだ。
トランプ政権が誕生してから1年弱経過するけれども、米個人消費支出が回復する兆しは、まったくみえない。日本と同じように、企業が賃金を増やさず、利益として巻き上げているからだ。米可処分所得の伸びは名目GDPの伸びを下回っており、分配が不公平に行なわれていることは明らかである。トランプ大統領にこのような分配問題に取り組むことなど期待できない。むしろ、不公平な分配をさらに不公平にし、社会的混乱を引き起こす可能性のほうが大きい。
個人消費支出が弱いから10月のPCE物価指数は前年比1.6%、食品・エネルギーを除く指数(コア)は1.4%と安定している。物価が安定していることに、なにの不思議もない。企業が賃金を増やさず、可処分所得の伸びが低いので消費意欲が湧かず、需要が弱いから物価が2%にとどかないのだ。
9月のFRBの経済予測によれば、実質GDPは2017年2.2%~2.5%であり、今年第3四半期はこの範囲に入っている。だが、PCE物価指数コアは予測(1.5%~1.6&)の下限を下回っており、物価情勢は利上げの根拠にはならない。しかも、FRBの予測によれば、来年の実質GDPは今年よりも0.2ポイント低下する半面、物価指数コアは0.3ポイント高くなるのだ。成長率は鈍化するが、物価上昇率は高くなる、このような予測が信じられようか。今月の12日~13日の日程でFOMCが開催されるが、経済データに照らし合わせれば、FRBが利上げする理由は見いだせない。

7-9月期の「法人企業統計」によれば、全規模全産業の売上高と営業利益は前年比4.8%、15.7%と4期連続の増収増益である。売上原価は4.9%増加したが、販売管理費が2.4%に抑えられたため営業利益は3期連続の2桁増だ。営業利益が拡大しているのは、人件費が前年比3.2%と売上高の伸びよりも1.6ポイントも低く抑制されているからだ。人件費が売上高の伸びを下回るのは3期連続であり、これが営業利益を大幅に拡大させている要因である。
大企業(資本金10億円超)の売上高と営業利益は5.5%、22.6%それどれ伸び、全規模全産業よりも好調であった。特に、製造業の売上高は4.8%だったが、売上原価と販管費が3.0%、0.7%にそれぞれ抑えられたため、営業利益は62.6%と2013第4四半期以来約4年ぶりの高い伸びとなった。一方、非製造業は売上原価増により、営業利益は3期ぶりの増益に転じたとはいえ5.5%しか伸びなかった。
大企業の業績は一見好調にみえるが、売上原価や販管費を抑えた結果でしかない。ある企業が売上原価や販管費の支出を抑制すれば、利益の拡大にはなるが、全体としてみれば需要が不足する状態を作ることになり、経済は沈滞するのである。
大企業の業績を第2次安倍内閣発足の2012年第4四半期と今年第3四半期を比較してみよう。期間は4年9ヵ月だが、全産業の売上高はなんと2.8%しか増えていない。製造業に限ればゼロ%、非製造業は5.0%の増加だ。ただし、営業利益は製造業の1.85倍に対して非製造業は1.34倍と製造業が圧倒している。売上高ゼロの製造業がこれほど営業利益を拡大させたのは売上原価を3.9%削減したからだ。販管費は削減したけれども売上原価を4.3%増やした非製造業は営業利益を製造業ほど伸ばすことはできなかった。人件費は製造業の1.0%減に対して非製造業は3.8%増加したことが利益の格差に表れている。
今年第3四半期の大企業製造業営業利益の伸びはピークになるかもしれない。過去3四半期、前年比5割増前後の高い伸びは前年同期が大幅に落ち込んでいたからである。利益の伸びがピークに達していることは、株価もピークを付けておかしくない。

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