銅市況の急落などにより商品相場の下落が続いていることに、15日、スイス国立銀行の無制限為替介入の撤廃発表が加わり、為替や株式は動揺した。対ドルで弱含んでいたスイスフランは15日、15.8%も値上りし、対ユーロでは0.9979スイスフランと16.9%も急騰した。これほど相場が変動すれば、スイスフラン安に掛けていた投機家は相場の餌食になったであろう。相場とは怖いものだ。明日、何が起こるかわからないからだ。
NYダウは16日、6営業日ぶりに反発したけれども、商品市況の下落などを過小評価しているのではないだろうか。原油価格は週間ではやや持ち直したが、底がどの程度になるかわからない。ただ、2004年以降の上昇は異常であり、適正水準を模索する途上にあることは間違いない。長期間バレル30ドル前後が上限で推移していたことを想起するならば、今の水準は依然高いことになる。
原油等の資源安の影響が物価にあらわれている。昨年12月の国内企業物価指数は前月比-0.4%と3ヵ月連続の低下となり、前年比では1.9%と昨年6月の4.5%をピークに大幅に低下している。素原材料価格は前年比7.4%減だが、中間財と最終財はプラスであり、今後、素原材料価格の下落の影響が最終財に向かっていくだろう。
米生産者物価指数によると、昨年12月のエネルギー価格は前月比-6.6%と6ヵ月連続減となり、最終需要価格は-0.3%と2ヵ月連続のマイナス。12月の米消費者物価指数も前月比-0.4%と2ヵ月連続の低下だ。特に、エネルギーが4.7%減と6ヵ月連続のマイナスになっていることが大きく影響している。消費者物価指数は前年比でも0.8%と1%を下回り、2009年10月以来約5年ぶりの低い伸びである。
原油価格下落の影響は米小売売上高にもみられる。12月の小売売上高は前月比-0.9%と3ヵ月ぶりのマイナスとなったが、ガソリン販売が6.5%減少したことが響いた。2014年の小売売上高に占めるガソリン販売は約1割であるから、これだけで小売売上高を0.6%引き下げることになる。ガソリン価格の下落は自動車販売を押し上げる効果が期待できるが、すでに、米新車販売は年率約1,700万台の高水準に回復しており、さらに大幅に伸ばすことは難しいのではないか。
米国経済の雇用は回復しているが、時間当り平均賃金は12月、前年比1.7%の低い伸びにとどまっており、個人消費の回復を妨げている。個人消費が低迷するならば、消費者物価の伸びは現状をさらに下回るだろう。
昨年12月に公表したFRBの2015年経済予測によれば、PCE(個人消費支出物価指数)は1.0%~1.6%だが、昨年11月の指数は前年比1.2%と5月の1.7%をピークに低下しつつあり、予測の範囲内にある。伸び率鈍化が顕著な消費者物価指数に基づけば、12月のPCEはさらに低下し、下限に接近するだろう。また、PCEコア(食料・エネルギーを除く)のFRB予測は1.5%~1.8%だが、昨年11月は1.4%とすでに想定を下回っている。
FRBは年央には政策金利を引き上げるシナリオを描いているが、個人消費の伸び悩みや資源価格の下落などによる消費者物価の伸び率鈍化に見舞われ、政策金利を引き上げる理由がなくなる事態に直面している。失業率は改善しているとはいえ、昨年12月は5.6%であり、来年予測5.2%~5.3%を上回っており、実質GDP予測(2.6%~3.0%)の達成も不安だ。実体経済重視の金融政策を貫きたいのであれば、年央に利上げする理由は見当たらないことになる。
次回3月17日~18日やその次4月28日~29日のFOMCでどのようなニュアンスの声明を出すのか注目したい。おそらく、政策金利の引き上げを想定よりも後に延ばすような文言が含まれるだろう。
世界的な成長鈍化の持続により、資源高の修正は持続し、それが消費者物価の一段の安定やデフレをもたらすはずだ。昨年12月のユーロ圏消費者物価は前年割れとなり、日本も4月にはマイナスになるだろう。米国は1%以下の低空飛行となるなど、世界的に消費者物価の低下やマイナスがみられることになりそうだ。
石油ショックにより、各国の消費者物価は急騰したが、長期の前年比伸び率をみれば1974年や1980年をピークとした左右対称を形作っており、1980年代以降のトレンドは長期低下基調にある。主要国の中央銀行はこうした現実に目を向けず、高目の物価目標を掲げている。実際の伸びよりも高く設定された物価を前提にすると、政策金利の変更は遣り難くなる。FRBの金融政策の言い回しの変化などにより、円ドル相場は円高ドル安に方向転換する可能性が大きくなってきた。