ウォールストリートジャーナルが報じる前から0.75%の利上げ予想が広まっており、FOMCの結果公表にはなにの意外感もなかった。6月7日、2.98%の米10年債利回りは14日までの5営業日連続の上昇で3.47%に急騰した。同様に、NYダウは14日まで5営業日連続の下落だ。0.75%の利上げショックを和らげるためにFRBはプロパガンダに熱心だが、これではFOMCは分かり切ったことを事後承認しているにすぎない。これまでもしばしばみられたことだが、FRBの市場におもねる姿勢が一層強くなってきている。
FFレートは1.5%に引き上げられたが、5月の消費者物価指数(CPI)の前年比8.6%に比べれば7.1ポイントも低い。コア指数と比較しても4.5ポイント下回っており、1990年代以降のFFレートとコアの伸びをみても、依然、異常な格差が続いていることがわかる。FOMCの予測によれば、今年末のFFレートは3.1%~3.6%、個人消費支出(PCE)物価指数コアは4.2%~4.5%と1ポイント程度物価が上回る見込みだ。4月のPCEコアは前年比4.9%と2カ月連続で低下しており、FOMCの予測に近づいている。
FOMCは年内後4回開催され、4回とも0.5%の利上げであれば年末3.5%に上昇する。そこまで上がれば、リーマンショック以前の2007年12月以来ということになる。利上げはこれからの経済や物価の行方だけでなく、1年5カ月ぶりに3万ドルを割ったNYダウなどの株式が今後どの程度下落するかによって、FRBの金融政策は変わってくるはずだ。先週末のナスダック総合指数はピーク比33.4%も下落しているが、政策金利の上昇はさらに株式の魅力を低下させることになる。11月には中間選挙を控え、FRBの最大の使命はいかに株式を軟着陸させるかに尽きる。
FOMCの予測によれば、2022年の実質GDPは1.5%~1.9%(3月予測は2.5%~3.0%、第4四半期の前年比)へと引き下げられた。2022年へのゲタは2%あり、2022年10-12月期の伸びがFOMCの予測に収まるならば、2022年の実質GDPは3%近く伸びることになる。今年1-3月期は前期比0.4%減少し、もしこの水準が向こう3四半期続いたとすれば、2022年のGDPは1.6%になる。だが、今年1-3月期の実質GDPは前期比マイナスとなったが、個人消費支出は0.8%、民間設備投資は2.2%いずれも前期を上回り、米国経済の主力部門は高い成長を続けているのだ。マイナスになったのは在庫の減少と貿易赤字が大幅に拡大したからである。5月の小売売上高は前月比0.3%減だが、自動車・同部品を除けば0.5%増加しており、賃金の伸びが持続していれば、個人消費支出は簡単に腰折れすることはないのではないか。政策金利は大幅に引き上げられるが、米国経済は底堅いと予想されている。2021年までの10年間の実質GDPの年率成長率1.7%を上回る拡大となるからだ。
5月の失業率は3.6%だが、FOMCの今年末の予測は3.6%~3.8%と現状からの改善はない。だが、賃金の高い伸びが続いていることは、労働需給の逼迫は改善されておらず、供給側が有利である。5月まで3カ月間、失業率は3.6%の横ばいであったが、これからも雇用は拡大し、失業率はさらに低下するだろう。
FRBの経済見通しは前年比2%台の成長を見込むが、失業率のさらなる改善は予想せず、物価は緩やかに低下していくというシナリオである。賃金高と原油高によるインフレを政策金利の3%程度の上昇でどこまで抑えることができるだろうか。言い換えれば、利上げによって、モノやサービスの需要を低下させ、経済を冷やすことができるかだ。
だが、過去の利上げとGDPの関係を検討すれば、利上げがGDPに及ぼす影響をはっきり認めることは難しい。例えば、2018年12月に2.25%まで引き上げ、2019年6月まで2.25%を維持したが、景気が悪化したのは新型コロナが発生してからであり、経済はそれまで変わることはなかった。
利上げは直ちに経済活動に影響を及ぼすのではなく、ゆっくりじわじわと効くのだが、これから利上げを継続し、年末に3%程度に上昇したとしても、その影響は来年以降になるだろう。実体経済に関すれば、利上げは設備投資を抑制すると言われているが、潤沢な余裕資金を保有している企業にとって、利上げはどれほどの制約となるのだろうか。今年3月末の非金融法人純資産は30.1兆ドルと2018年末比8.3兆ドルも増加している状況では、金利の設備投資に及ぼす影響は限られる。2021年の民間設備投資額は3.05兆ドル、純資産の約10%でしかない。金利が高い時にわざわざ債券を発行し、金融機関から資金を借りるだろうか。
非金融法人の負債に占める債券と借入の比率は27.3%、19.1%だが、13年前の2009年3月末比、前者の割合は3.6ポイント上昇し、後者は3.1ポイント低下している。当該期間、純資産は1.87倍に拡大し、名目GDPの1.67倍よりも高い伸びみせている。企業は豊富な資金を保有しており、金利の上昇に対して厳しい判断を迫られているわけではない。
5月のCPIは8.6%だが、生産者物価指数(PPI)は10.8%とCPIよりも上昇率は高い。PPIがCPIの伸びよりも高くなったのは2021年1月以降であり、その後、この格差は継続している。最初の格差は0.3ポイントと小幅だったが、格差は拡大し、昨年11月には3ポイントに広がった。今年に入り、格差は幾分縮小し、5月は2.2ポイントである。上昇の初期ではPPIをCPIへの転嫁は進まないが、上昇が高くなれば、転嫁せざるを得なくなる。そうしなければ、コスト増をそのまま被ることになり、収益が悪化するからだ。PPIは5カ月連続10%強上昇しているが、ほぼ高止まりする一方、CPIの上昇によって企業の収益条件は改善しつつある。
企業収益が前年を上回っていれば、労働需給の逼迫もあり、賃金の伸びも期待できる。物価が上昇しても、必需品であれば、大幅に数量を削減するわけにもいかない。賃金の増額が期待できる状況では、物価上昇による需要の減少などたかが知れている。需要に決定的な影響をおよぼすのは、先行きの景気が相当深刻になりそうだという見方が広まることである。そういう見通しが一般化すれば、消費よりも貯蓄重視となり、消費は冷え込み、経済は減速していくことになる。
景気の見通しを変える大事な要因は株式である。ゼロ金利により、最大の恩恵を受けたのは株式だが、利上げ局面では株式は逆風に晒されることになる。利上げの実体経済の影響はなかなか表れないが、株式は直ちに反応する。
今年3月末の米株式価額は75.6兆ドル、昨年12月末よりも4.4兆ドル減価した。それでも昨年末の次に当たる過去2番目だ。3月末の株式価額・名目GDP比は3.1倍と前期よりも0.23ポイント低下したが、依然3倍を超えており、株式と実体経済との乖離幅は異常に大きいままである。1951年第4四半期以降で3倍超は2020年第4四半期以降6四半期だけなのだ。今年6月末の株式価額・名目GDP比は2.6倍に低下するだろう。継続的な利上げによって、今年末には2倍程度になるのではないだろうか。先週末のS&P500は3,674だが、年末には3,000への大幅下落が予想される。