分配の偏りによる巨額配当金

投稿者 曽我純, 12月7日 午前8:58, 2020年

米株の過去最高値更新が外人の日本株買いを促し日本株も続伸、これで日経平均株価は5週連続高。11月の外人の日本株(東証1部)買い越し額は約1.5兆円に達している。外人による日本株の大幅な買い越しは円買いドル売りを伴い、1ドル=103円台の場面も見られた。

対ドルでユーロが約2年8カ月ぶりの高値を付けたことから、原油価格は強含み、金は持ち直しつつある。10年債利回りの米独格差は米利回りの上昇により、緩やかだが開きつつある。さらに、11月のユーロ圏PMI総合指数は45.3と57.9の米国を大幅に下回っているが、ドル安ユーロ高である。米国で新型コロナ感染者や死亡が増勢傾向にあるからだろうか。ワクチンや経済対策への期待を背景に、大相場を続けている米株とはドルユーロ相場は対照的である。

11月の米雇用統計によれば、非農業部門雇用者数は前月比24.5万人と前月の半分以下となった。増加は6月の478.1万人をピークに5カ月連続で低下し、11月の前月比増加数は今年2月を下回った。失業率は6.7%と今年4月の14.7%から下がり続けているが、非労働力人口は前月比56.0万人増加しており、労働参加率は61.5%、前年比では1.7ポイントも低い。失業者数は1,073.5万人、前年よりも492.4万人多いが、前年比500万人弱の非労働力人口の増加を加味すれば、実態はさらに多いことになる。

11月28日までの新規失業保険申請件数は71.2万件、前週の78.7万件よりも少なくなったが、高止まりしている。11月のISMは製造業、非製造業共に前月よりも低下し、米国経済の回復の足取りは重くなってきている。こうした米国経済の不透明性がドル売りユーロ買いに結びついているのだろうか。

10月のユーロ圏失業率は8.4%と7月の8.7%をピークに低下しつつある。上昇する前の4月(7.2%)に比べて最大でも1.5ポイントの上昇にとどまったことが低下を緩やかにしている。10月のドイツは4.5%とユーロ圏よりも4.0ポイントも低く、8月以降3カ月連続の横ばいだ。今年1月(3.4%)と比べても1.1ポイントの上昇にとどまっている。一方、南欧のスペインとイタリアは16.2%、9.8%とユーロ圏を上回っており、フランスも8.6%とドイツとの格差は大きい。

ユーロ圏経済は再下降しつつあり、失業率も米国より高いが、ドル安ユーロ高なのである。先行きの米国経済や米株高に対するヘッジとしてユーロ買い、ドル売りに出ているのだろうか。あるいはFRBが追加緩和策を打ち出すとでも予想しているのだろうか。

10月の日本の失業率は欧米を下回る3.1%である。ただ、男は3.4%と8月から0.4ポイント上昇し、2016年8月以来4年2カ月ぶりの高水準である。今年1月の2.4%に比べれば1.0ポイント上昇し、男の失業者数は130万人、2016年2月以来4年8カ月ぶりの高失業となっている。

年齢階級別では15~24歳は5.6%、前月比1.6ポイント、24~34歳は4.6%、-0.3ポイント、55~64歳は3.4%、0.2ポイント、35~44歳は3.3%、0.6ポイントである。35歳未満の失業率が高いが、45歳未満も前月より大幅に上昇しており、新型コロナによっては急速に上昇しかねない。

10月の就業者数は前年比93万人減と今年4月以降前年割れが続いているが、減少は最多となった。中でも、宿泊・飲食業が43万人と引き続き多く、雇用形態別では、正規は前年比9万人のプラスだが、非正規は85万人減と解雇のすべては非正規にしわ寄せしている。

低賃金の非正規労働者の失職は、直ちに生活できるかどうかの瀬戸際に追い込まれる。2013年の非正規雇用比率は36.6%だったが、2019年には38.2%に上昇する一方、正規は63.4%から61.8%に低下した。今年4月以降の非正規の減少により、10月の非正規雇用は37.4%に低下している。

非正規雇用の拡大により、人件費を抑制することなどで企業は過去最高の当期純利益を叩き出しているのだ。『法人企業統計』によれば、2019年度の人件費を2012年度と比較すると、2.7%しか伸びていない。第2次安倍政権以降も人件費はほとんど伸びていないのだ。20年前の1999年度比では0.1%ともっと酷い。こうした人件費等を抑制することによって、売上総利益率を引き上げており、2019年度では25.0%、2012年度比1.5ポイントの改善である。こうした粗利益率の向上により、2018年度の営業利益は67.7兆円と過去最高を更新した。2019年度は減益になったけれども、55.1兆円と2012年度の40.0兆円をはるかに上回っている。営業外収益の拡大などで税前当期純利益は2018年度81.8兆円と過去最高を更新、法人税等は19.6兆円と税前当期純利益の24.1%に低下し、当期純利益は62.0兆円に拡大した。法人税等・税前当期純利益比率は2000年度には59.3%だったが、2012年度には38.9%に低下し、2019年度は29.0%である。法人税等の過去最高はバブル絶頂期の1989年度の20.9兆円、その翌年度も20.5兆円と高水準だったが、次に20兆円を超えたのは2007年度(20.1兆円)であり、その後は一度も20兆円を超えていない。

法人税率の低下が当期純利益を引き上げており、社内留保は2017年度(38.1兆円)、配当金は2018年度(26.2兆円)に過去最高を更新している。2019年度は減少したとはいえ、配当金24.3兆円、社内留保20.5兆円と高水準を維持している。因みに、1989年度の配当金と社内留保は4.1兆円、12.9兆円であり、現在の水準がいかに高いかがわかる。

第2次安倍内閣発足の2012年度から2019年度までの8年間の累計配当金と社内留保は161.1兆円、200.9兆円と異常な儲けぶりを示している。現在の預金利率は普通預金で年0.001%、定期でも年0.003%とゼロに近く、利息はなきに等しい。それに対して、2019年度の配当金は24.3兆円、国民一人当たり20万円弱となり、先般の給付金の2倍の規模なのだ。もし、2019年度までの8年間の累計配当金を国民に分配すれば、一人128万円になり、消費を刺激することになるだろう。だが、これだけの巨額配当金は一部の富裕層の懐を潤すだけで、庶民には縁がないのである。だから、富裕層の資産はますます豊かになるが、消費支出の拡大を伴わないので経済には寄与しない。寄与するのは株式などのマネーゲームの世界だろう。ゼロ金利の罪は重い。

配当金や社内留保ではなく従業員の給与を手厚くすることが経済の好循環には欠かせない。従業員給与・当期純利益比率は分子の停滞と分母の拡大によって、2017、2018年度には2.54に低下した。2007年度の5.8や2012年度の6.2に比べれば、最近の分配は利益に偏っている。2019年度は3.4と上昇しているが、それでも過去の数値よりは低く、こうした分配からも企業の力が著しく増し、我が世の春を謳歌していることが分かる。

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曽我 純

そが じゅん
1949年、岡山県生まれ。
国学院大学大学院経済学研究科博士課程終了。
87年以降証券会社で経済・企業調査に従事。
「30年代の米資産減価と経済の長期停滞」、「景気に反応しない日本株」(『人間の経済』掲載)など多数