安倍首相の今年の総仕上げは普天間移設・辺野古埋め立てと靖国参拝であった。右へ右へと舵を切っているが、来年はさらに右の本丸へと踏み込むのだろう。こうした安倍首相の行動に対して、世界からブーイングを浴びせられていることや、近隣諸国とのギクシャクなどおかまいなく株式は年初来高値を更新。昨年末からの上昇率は55.6%になった。年間では1972年以来41年ぶりの伸びになりそうだ。一方、円ドル相場は105円台を付け、約5年3ヵ月ぶりの円安だ。円安だから株高になる連鎖がまだ生きている。だが、いつまでこの関係が保たれるかはわからない。円の信認が崩れれば、為替だけでなく、株式や国債も売られることになる。首相の右への驀進で世界との信頼関係が揺らぎ、日本が孤立化することになれば、円は消費者物価の上昇に基づく値下がりから、より深刻な事態に向かうことになるだろう。
財政・金融政策を総動員しての株高に満悦しているようだが、そうした高揚のなかに、崩壊の萌芽がみられる。安倍首相が強引に進めてきた政治・経済政策のなかに墓穴を掘る因子が含まれているといってよい。秘密保護法や靖国参拝などは政権が行き詰まる最大の要因だと思う。「米国政府は失望している」といわれたことは、安倍首相に首相として相応しくないといったも同然なのだ。
米国に「失望している」といわれれば、円安ドル高は止まらないことになる。食料・エネルギーを除く消費者物価は11月、前年比0.6%と1998年8月以来15年3ヵ月ぶりの高い伸びなり円の貨幣価値は下落している。政治と経済がともに円の価値を失墜させており、デフレ脱却を目的していた円安とは、次元の違う円安に向かっているといえる。
能天気な株式市場参加者は円安による株高に酔っているが、ことはそれほど単純ではない。いつまでもそのような良好な関係など続くわけがない。円の価値が低下していることの重大さに気付く必要がある。過去1年ほどは円安株高だったが、1995年や2000年を起点とする円安ドル高では株式は激しく値下がりした。おそらく来年はそのような年になるだろう。
消費者物価指数(総合)は今年6月に前年比0.2%とプラスに転じてから毎月伸び率は上昇し、11月は1.5%と2008年10月以来の高い伸びとなった。持家の帰属家賃を除く総合は前年比1.9%上昇しており、勤労者世帯の消費支出は名目では0.3%とプラスだが、実質では1.6%減と2ヵ月連続のマイナスだ。可処分所得は1.4%減と4ヵ月連続のマイナスとなり、消費者物価上昇率に可処分所得の伸びが追いついていない。
対ドルで円が24%(11月末の前年比)も安くなれば輸入物価もそれだけ上昇することになり、消費者物価に影響するのは当然である。消費者物価が高くなれば、今までのように消費者はものを購入しなくなり、ものは売れなくなる。需要が落ちれば価格をできるだけ抑えようとするだろう。供給者の利益は出にくくなる。
為替相場を操作することで輸出産業の収益を底上げすることができても、すでに輸入額が輸出額よりも多い状態では、円安は日本経済にとってはマイナスなのである。円高のほうがいまの日本経済には恩恵が大きい。日銀は安倍首相に擦り寄った結果、日本に不利益な円安政策に突っ走ってしまった。日本全体を考えることなく、一部の輸出企業だけを潤す政策である。日銀の円安・物価高政策はまさに愚策だ。
消費税率が8%に上がれば、前年割れになっている実質可処分所得の減少幅はますます大きくなり、実質消費支出はいまよりもさらに落ち込むことになる。耐久消費財への支出増でやっと実質消費支出はプラスを維持できているが、来年4月以降、耐久財需要は急減し、消費不況に陥るだろう。
消費が冷え込むことになれば、貯蓄が増加することになる。貯蓄の増加に見合う支出がなければ経済は収縮することになる。世界経済の足取りは依然緩慢であり、円安による輸出増だけでは超過貯蓄を吸収することはできない。
公的需要に頼らなければ経済の低迷を止めることはできないが、2014年度の一般会計予算案は95.8兆円と今年度補正後の98兆円を下回る。消費税率の3%の引き上げにより、来年度は家計から公的部門へ約8兆円の所得が移転するが、この8兆円を公的部門が消費しなければ経済は縮小することになる。