ロシアがウクライナへ侵攻してから1カ月半経過した。STOXXユーロ600の前週末値は侵攻した2月24日比4.8%上昇しており、日本や米国の株式と同じような動きをしている。過去1カ月半でなにが変わったかと言えば、米10年債利回りが2.82%へと86ベイシスポイント(bp)上昇し、CRBとWTIが16.0%、15.2%それぞれ急騰したことである。これに付け加える大きな変化は円ドル相場であり、ドルユーロ相場の3.4%のドル高ユーロ安に対して円ドル相場は9.5%もの円安ドル高なのである。ドルルーブル相場でさえも、一時は1ドル=139ルーブルまでルーブルは急落したが、今では80.75ルーブルと4.9%のドル高ルーブル安まで戻しており、対ドルでは円の下落が最大なのである。こうした株式、為替の動向から、市場関係者はロシアの侵攻を報道されるようには深刻に捉えていないようだ。
ロシアが資源国であることが、短期的には対ロシア制裁などが商品市況を攪乱させるけれども、ロシアが資源輸出を止めることはないだろうし、欧州もとうていロシアからの原油やガスの輸入を断つこともできないのである。エネルギーに関しては、欧州はロシアとの関係を断絶することは不可能であり、この相互依存関係が互いを抑止するように作用しているように思う。
2月のユーロ圏の失業率は6.8%と米国や日本に比べれば高いが、新型コロナ前の水準を下回り1998年の統計開始以来最低を更新した。ドイツは3.1%、前年同月から0.8ポイント低下し、避難民が大挙して押し寄せているポーランドは3.0%とドイツよりも低く、こうした稀に見る良好な雇用環境が避難民の受け入れを可能にしているのである。昨年第4四半期のポーランドGDPは前年比7.6%とユーロ圏の4.6%を3ポイントも上回り、好調を維持している。
先週末、米10年債利回りは2.82%、前週比12bp上昇し、2019年12月以来3年4カ月ぶりの高水準である。これだけ債券利回りが上昇しているにもかかわらず、米株式は深押しすることもなく底堅い。FRBは大幅な利上げを示唆しているが、もし、株式が暴落の兆しをみせれば、即座に、救いの手を差し伸べてくれることを期待しているのかもしれない。
3月の米CPIは前年比8.5%と前月よりも0.6ポイント伸び率は高くなった。エネルギー・食品を除くコア指数も前年比6.5%だが、前月よりも0.1ポイントの上昇にとどまり、年央にかけて上昇率はピークに達しそうだ。コアから新車と中古車を除くと4.5%になり、インフレは一部のものに限定されている。今回の物価高は急激な解雇と雇用が賃金の思わざる上昇を引き起こし、さらに生産や物流などのさまざまな分野で混乱が発生したことによる。だが、いつまでも混乱が持続することはなく、近いうちに、元の状態に戻り、米物価は落ち着くだろう。3月の米鉱工業生産によれば、自動車生産は前月比12.5%、前年比では4.1%まで回復してきており、自動車の需給は改善に向かっているのではないだろうか。
米債券利回りの上昇期待が円安ドル高の進行要因だが、ロシア侵攻による経済への影響が大きいユーロよりも円が弱いのはなぜか。最大の要因は日銀の金融政策に変化はなく、ゼロ金利が修正されることはない、と市場参加者の大半が想定しているからだ。ECBは今年第3四半期に債券の購入を終了し、その後、しばらくしてから利上げに踏み切り、緩やかだが金融が引き締められる局面が予想されている。そうした金融政策の違いが為替相場にあらわれているのだ。
マスコミは物価を騒ぎ立てているが、3月の東京都区部CPIは前年比1.3%であり、コアは-0.4%と過去1年マイナスである。原油価格の変動幅は大きく、実需に基づいた値動きではない。だが、いずれの影響による価格付けにせよ、価格をみながら消費や生産行動を取らざるを得ない。価格が上がれば、消費を控えるなり、代替品で間に合わすことになる。こうした行動を取れば、需要が前よりも少なくなるので生産量が変わらなければ、価格は下がることになる。少しの節約でも価格に与えるインパクト大きい。パンが高くなれば米を食べることで、大幅に小麦の消費量を減らすことができる。原油はバレル100ドルもしているのだから、24時間営業のコンビニや町を走り回っている宅配、ネオンなども見直さなければならないはずだ。自動販売機などはすべて撤去すべきではないか。遅くまで煌々と電気のついている霞が関も一部を除き早期退庁し、エネルギーを節約しようではないか。ほとんどの原油を輸入に頼っていながら、値上がりすればなんとかしてくれといったご都合主義では、いつまでたっても原油高の翻弄から逃れることはできない。
日銀は2%の物価目標を達成できないため、金利を上げることができない。3月の東京都区部コアCPI(2020年=100)は99.8、2017年平均98.5と比較しても1.3%の上昇にすぎない。2021年の名目GDPを5年前の2016年と比較すると0.45%の微増、家計最終消費支出(持家の帰属家賃を除く)に至っては3.0%減である。長期ゼロ金利下でも消費は減少する有様なのだ。都銀の貸出もこのところ前年割れと冴えない。このようにお金は動かず、逆に金融機関に戻ってきている。これで金利を上げれば、金融機関の貸出は一層酷い状態になるだろう。今でも家計は貯蓄に熱心だが、金利が上がれば、さらに貯蓄意欲は高まることになる。そして、金融機関は預金の使い道に四苦八苦することになる。利上げは間違いなく消費の減少と企業の借入を縮小させ、日本経済にマイナスの影響を及ぼすことになるはずだ。
15日、総務省が発表した『人口推計』(2021年10月1日現在)によれば、総人口は1億2550万人、前年より64.4万人減少した。2020年の40.9万人減を上回り、5年連続で減少数は拡大し、過去最高を更新。島根県の人口(66.5万人)に匹敵する規模である。新型コロナの影響もあるのだろうが、出生数は83.1万人と6年連続で減少する一方、高齢化により死亡者数は144万人へと増加し、自然減は60.9万人に拡大した。それにしても、出生数の減少は加速しており、5年間で(2021年-2016年=)17.3万人も減少しているのだ。その前の5年間(2016年―2011年)では7万人減、さらにその前(2011年―2006年)は1.7万人減であった。このペースで出生数が減少すれば5年後の2026年には60万人台に低下し、自然減数は80万人を超えることになりかねない。まさに異常事態なのである。
こうした目の前で起きている日本の極端な人口減には、だれもが不安に駆られるのは至極当然のことである。市場参加者でも気にかけないわけにはいかないはずだ。国の礎となる人口は2011年以降減少し続けているが、過去数年、出生の減少と死亡の拡大で人口減は加速してきている。総人口に占める15歳未満の割合は11.8%と人口4,000万人以上の国のなかでは最低であり、65歳以上の割合28.9%を上回る国はない。日本は世界の少子高齢化のナンバーワンなのである。日本の急速な人口減と少子高齢化は、為替相場に少なからぬ影響を及ぼしているはずだ。
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