円ドル相場、膠着状態から抜け出せるか

投稿者 曽我純, 7月13日 午後4:34, 2014年

機械受注(船舶・電力を除く)が過去最大の減少をしたが、日経平均株価は前週比1.8%の低下にとどまった。実質の給与が大幅に前年を下回り、消費も落ち込んでいることが明らかになっているところへ、設備投資の冷え込みが加わってきた。輸出も昨年12月をピークに弱含みであり、伸びているのは公共事業だけである。特殊要因が剥げることにより年内、日本経済は沈んでいくだろう。国債利回りはじりじり低下し、昨年4月以来の低い水準である。これを下回れば2003年4月の過去最低以来となる。国債利回りが示しているのは、経済の回復ではなく経済の悪化なのである。日銀の巨額国債購入が国債相場を支えているというが、本当のところは、期待成長率がマイナスの日本経済を映したものといえる。

 これだけ弱い経済指標がでれば、為替相場は円安ドル高にぶれてもよさそうなものだが、そうはならないのは、米国経済は依然本調子ではなく、金融政策で支えられているという事情があるからだ。企業の収益力がよわいにもかかわらず、米株は過去最高値を更新していることは、ゼロ金利によって嵩上げされていることを示唆している。

 利用可能な1954年7月以降のFFレートとNYダウのグラフをみると、FFレートは1981年7月の19%をピークに左右対称の形をしており、FFレートの上昇過程では株価の足取りは重く、きわめて緩やかである。半面、第2次石油危機によるインフレが沈静化するにつれ、FFレートは一時的な上昇は認められるが、トレンドは右肩下がりである。しかも、すでに6年近くゼロに据え置かれているという過去にない異例の状態にある。長期的なFFレートゼロによりNYダウは鰻上りに上昇、過去最高値を更新する勢いをみせている。

 FFレートが過去最高を付けた1981年7月までの27年間のダウ上昇率は2.74倍であったが、1981年7月以降の27年間ではダウは11.95倍も上昇している。同じ27年間でも1981年7月を境にこれだけの違いがでている。今年6月までの33年間ではダウは17.67倍へと上昇しており、ゼロ金利の株価押し上げ効果は一層強まったといえる。金融危機で急落していたダウはゼロ金利への引き下げとともに反発、昨年3月には過去最高を更新した。その後も勢いは衰えず、ダウは17,000ドルを突破、上昇期間は5年を超えている。

 長期成長率が低下しつつある経済環境のなかで、株式の長期強気相場が持続しているが、FRBの国債購入は10月に終了し、来年にはゼロ金利も引き上げられるだろう。引き上げ幅は実体経済次第だが、名目成長率の水準を目指すことになるだろう。短期間のうちに政策金利は3%から4%に引き上げられるのではないだろうか。6年以上の長期にわたりゼロ金利に浸っていた株式は、資金コスト上昇による痛手を被ることになるのは避けがたい。  政策金利の引き上げは株式や国債相場だけでなく商品相場にも多大な影響を及ぼすだろう。さらに設備投資マインドや耐久消費財の購買意欲を冷やすなど実体経済にも悪影響がでてくるはずだ。今回の金融政策の変更は過去にない影響を金融・実体経済に及ぼすと予想されることが、単に金利の上昇という側面だけに目を向けてドルを買うわけにはいかない背景になっている。日本経済よりも米国経済の行方により注意を払いながら、円ドル相場は動いていくように思う。

『短観』などでも今年度の設備投資は拡大すると予想されているが、5月の『機械受注』をみると、とても堅調に推移するとは思えない。民需(船舶・電力を除く)は前月比19.5%も減少し、昨年1月以来1年4ヵ月ぶりの低い水準に落ち込んだ。代理店はわずかに伸び、官公需は22.4%増と2ヵ月連続で大幅に拡大したが、外需が4月急増の反動減が大きくあらわれ、総受注額は30.5%も減少した。

3月までの前倒し受注により異常に伸びたため減少するのは当然のことだ。そもそも国内消費需要は伸びないので、国内で設備投資が増えることはない。2006年度をピークに民需(船舶・電力を除く)は2009年度まで3年連続減、その後は緩やかに回復していたが、2012年度は弱く、2013年度になって2桁増となった。それでも2013年度は2006年度との比較では16.6%も下回っている。特に、製造業の回復力は弱く、2013年度は10.2%増加したけれども、2006年度よりも33.1%も少ない。一方、非製造業(船舶・電力を除く)は2013年度まで4年連続増となり、2006年度をわずかだが上回った。

民需(船舶・電力を除く)が減少に転じたのは、素材や製品価格が上昇していることも影響している。6月の国内企業物価は前年比4.6%と2008年9月以来、約6年ぶりの高い伸びとなった。前回の消費税引き上げ後の1997年6月は前年比1.5%上昇したが、これがピークとなり低下していき、早くも1998年3月には前年割れしている。今回の上昇率は前回よりも3.1ポイントも高く、企業は受注を控えるだけでなくキャンセルする事態も発生するのではないだろうか。

民需(船舶・電力を除く)がある程度の民間設備投資の先行性を有するならば、今秋にかけて民間設備投資は相当弱くなるだろう。財政赤字や超過輸出が一定とすれば、民間設備投資の減少は企業業績を悪化させることになる。民需(船舶・電力を除く)の2ヵ月連続の大規模な減少は、今期企業業績を不安にさせるには十分な材料である。株式の反応は鈍いが、いつまでもファンダメンタルズを脇において置くことはできない。なにかの弾みで一気に売りに拍車が掛かるかもしれない。

PDFファイル
140714_.pdf (6.4 MB)
Author(s)