公的部門の拡大と円安の結末

投稿者 曽我純, 2月3日 午後4:04, 2014年

日経平均株価は4週連続安、昨年末比では8.5%の下落となり、5.3%減のNYダウを上回る。日本の株価は米株の動向に左右されるが、米株が下げるときはそれ以上に下げる。新興国の通貨不安がドルや円に逃避し、円高に向かうと、すかさず日本株が売られる。為替と日本株は依然連動している。日本株にしろ為替にしろ、主たるプレーヤーが外人であることが、為替や日本株の変動を大きくしているのである。

特に、日本株の下落率が大きいのは、バブル化し舞い上がっていたからだ。安部政権の無謀な金融・財政政策に乗じて、外人が日本株買いを進めた結果、あっという間に急騰してしまった。昨年11月末の日経平均株価は前年比65.8%と1980年代のバブル期を上回る上昇率を記録した。年末でも56.7%上昇していたが、1月末では33.9%に縮小した。NYダウは過去最高値を更新したが、それでも昨年末26.5%の上昇にとどまり、日経平均株価に比べれば穏やかなものだ。1月末の伸び率は13.3%に低下している。

FRBは先週のFOMCで債券購入額を100億ドル減らし650億ドルにすると発表した。次回以降年内7回開かれるFOMCで650億ドルの債券購入額はなくなるだろう。いままでこのFRBの債券購入を拠り所に米株は買われていたので、これがゼロになることのインパクトは侮れない。米株式・債券市場だけでなく、昨年からすでに顕著になっている新興国の通貨、株式、債券などを揺さぶることになる。今年はFRBのこの巨額の債券購入終了が相場へどのように影響するかが、市場参加者の最大の注目点となっている。

住宅バブル、金融危機を起こした米国は2008年、2009年の2年連続でマイナス成長に陥ったものの、2010年以降はプラス成長を続けている。2011年の実質GDPは15兆ドルと2007年を上回り、過去最高を更新した。ドイツ経済も2009年には大幅に落ち込んだが、その後回復しており、実質GDPは2011年には過去最高を更新し、その後も拡大している。

 昨年10-12月期の米実質GDPは前期比0.8%増の15.9兆ドルと過去最大を更新した。名目では17.1兆ドルで日本の3.6倍の規模である。伸びの背景は個人消費支出が0.8%と2010年10-12月期以来3年ぶりの高い伸びになったからだ。財が前期よりも伸びたほか、これまで低迷していたサービスが改善したことが、GDPを底堅いものにした。ただ、民間設備投資は前期よりも伸びが鈍化し、企業の設備投資マインドは強くはない。成長を支えたのは輸入よりも輸出が伸び純輸出が拡大したことや引き続き在庫も増加したことによる。

翻って、日本はどうか。実質でも依然ピークを下回っているが、名目では昨年7-9月期はピークよりも36兆円も少ない。これだけGDPは減少しているが、国は2009年度以降年40兆円以上、2011年度などは54兆円も国債を発行し、財政を拡大している。国の一般会計予算の約半分は借金であり、これだけ国が支出をすることで日本経済は維持されているのである。479兆円の名目GDPのうち約1割に当たる50兆円が国の借金に当たる部分だ。もし、国が借金をゼロにしたとすれば、GDPは429兆円に減少することになる。GDPが1割縮小することは、失業者も600万人程度増加することになり、おそらく800万人を超える失業者が町にあふれ出ることになる。日本経済は公的部門に依存している割合が高いばかりでなく、財政規模の半分は赤字に頼っていている特異な経済であることを忘れてはならない。

GDPに占める公的部門の比率は昨年7-9月期、25.7%と1994年以降では最高となった。金融危機以前の2007年1-3月期の22.3%を底に上昇を続け、いまでは日本経済の4分の1を占めるまでになった。このように公的部門依存度が高い国は、国の経済に及ぼす影響は大きい。だが、国が持続的に経済に影響し続けることは不可能だ。外人は国の影響が期待できるときに日本株を買い進めた。が、影響力が薄れてくれば、いままで買ってきた日本株を売り始めるだろう。

円安ドル高は輸入額が輸出額を上回っているときには、輸入額が一層大きくなることで貿易赤字が膨らむ。2011年から貿易赤字に転落したが、2012年11月以降の急激な円安により赤字額急増している。2011年の赤字額は2.5兆円だったが、2012年には6.9兆円、昨年は11.4兆円へと拡大した。金額でも昨年の輸出は9.5%と3年ぶりにプラスになったが、数量では1.5%減と3年連続のマイナスである。原発のかわりに火力を使用しているため原油、液化天然ガスの輸入が拡大し、これが赤字の原因になっているとよく言われているが、数量でみると、昨年の原油等は前年比-0.6%、液化天然ガスは0.2%とほぼ横ばいであった。円安ドル高が原油や液化天然ガスの輸入額を前年に比べて大幅に引き上げることになった。一部の企業にとっては円安の恩恵を受けるけれども、総合的にみれば、円安は日本経済にマイナスに作用しているのである。

貿易赤字の急増だけでなく、輸入原材料価格の上昇は企業コスト増となり、商品価格に転嫁できなければ、利益減となる。日銀の製造業投入産出物価指数によると、昨年12月の投入物価は前年比5.4%だが、産出物価は3.4%と投入物価よりも2ポイント低い。投入物価でも輸入は18.5%も上昇しており、これをコスト増の主因に挙げることができる。

長期の円ドル相場と大企業製造業営業利益を比較してみても、円高局面のときが営業利益は拡大しており、円安では縮小している関係が読み取れる。円安は一見企業利益拡大に結びつくように考えられているが、逆の場合が多いのだ。今、利益が改善しているからといって、向こう1年、利益拡大が続くかといえばそうともいえないのである。円安は日本経済全体にコスト増としてボディーブローのように効いてくると思う。

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