侮れないFRBの利上げの影響

投稿者 曽我純, 12月18日 午後8:06, 2016年

FRBは14日、FFレートを0.25%引き上げ年0.5%にした。1年ぶりの利上げとなり、来年は1.1%~1.6%へとさらに引き上げられると予想されている。米政策金利の継続的な上昇観測によって、ドル高はさらに強まり、対円では118円台まで上昇し、対ユーロでは2003年1月以来のユーロ安となっている。政策金利の上昇期待によって米国債利回りは週末、2.59%と1ヵ月で38ベイシスポイントも上昇し、7-9月期の名目GDPの前年比伸び率2.8%に近づいてきた。本当に、米国経済が力強さを取り戻してきているのであれば、国債利回りはさらに上昇するだろう。だが、そうでないのなら、利回りの上昇は頭打ちになるはずだ。

FRBが利上げを公表した14日、11月の米小売売上高や鉱工業生産指数が発表された。小売売上高は前月比0.1%と2ヵ月連続で伸び率は低下し、鉱工業生産指数は-0.4%と2ヵ月ぶりのマイナスとなった。11月の消費者物価指数は前月比0.2%と引き続き落ち着いており、過去数ヵ月で米国経済が大きく変わったところは見当たらない。

実体経済が変わらないまま金利だけが上昇していくことになれば、民間設備投資は抑制され、今よりさらに冷え込むだろう。金利に敏感な自動車、家電、家具等の耐久消費財や住宅はゼロ金利政策によって、米国経済を支えていたけれども、金利の上昇がこうした耐久財需要に悪影響を与えることは間違いない。

金融危機以降の米国経済は耐久消費財のGDP寄与率が大きく、2015年までの5年間の年平均では23.5%であった。金融危機以前の2007年までの5年間では17.9%であり、耐久消費財の需要拡大が金融危機後の米国経済を支えていたことがわかる。

米国債利回りと耐久消費財の関係をみると利回りが低下するときには耐久消費財が伸び、上昇期には伸びが鈍化する傾向を明らかに読み取ることができる。長期の10年物国債利回りの推移をみれば、上昇したとはいえ2%台は最低水準に近いといえる。だが、わずかの上昇が思いもよらぬ影響を米国経済に及ぼすかもしれない。

今年の米国債利回りは月末値では10月まで1%台という異常に低い水準が10ヵ月も続いていた。7-9月期の実質耐久消費財は前年比6.1%伸びたが、サービスが2.4%にとどまり、個人消費支出では2.7%増となった。住宅は1.6%伸びたにすぎない。耐久財だけでは米国経済を以前のような高い成長に回復させることは難しいのである。

過去最低に国債利回りが低下しても米国経済は正常な姿には戻ることができなかった。金利の低下だけでは経済は回復力を取り戻すことができないのである。回復力を取り戻すことができない経済状況下で、利上げをすれば、資金コストが増大することになるので、家計も企業も支出を見合わせるだろう。2008年末から2015年末までの7年間もの長期間ゼロ金利であったため、小幅な利上げであっても、経済への影響は侮れないのではないだろうか。

トランプ氏の登場により期待だけで株式、債券、為替が大きく動いている。だが、期待だけで株価が上昇を続けていくことは不可能だ。期待が高い確率で実現されそうにも思われない。トランプ氏は民主的な手続きを重視する政治ではなく、力に頼る政治を志向している。金融危機により、強欲な行動を少しは規制してきたが、元に戻そうとしており、強いものがますます強くなる社会を作り上げようとしている。

金融危機後、米国経済が思うような成長経路に戻ることができない最大の要因は所得・資産格差の拡大である。トランプ氏はおそらく格差拡大に対して歯止めを掛けるような政策は採らないだろう。むしろ、格差拡大に向かうような弱肉強食社会に突き進み、個人消費支出をいま以上に低迷させるように思う。一部の金持ちの消費だけでは経済は拡大していかないのだが。

格差が縮小したとしても、所得の増大に伴って消費性向は低下し、貯蓄は増加することになる。これは経済が発展していけば起こる不可避のことなのである。この有効需要の不足は政府支出か純輸出かで補われなければ、経済は縮小していく。所得格差が是正されたとしても有効需要の不足は起こるのであるから、トランプ氏が所得格差是正策など採らず、格差拡大が一層激しくなれば、米国経済は自壊していくことになるだろう。

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