企業は太り、国は細る

投稿者 曽我純, 6月16日 午前10:25, 2014年

2012年12月16日の総選挙で圧勝した自民党安倍政権はこれまでにない強権を振りかざし、「戦前レジーム」へ驀進している。要は強いもの勝ちの世界を構築したいのだ。2012年12月の比例代表制の自民党得票数は1、662万票、有権者総数の16.4%にすぎない。小選挙区比例代表並立制に以降してから最低の得票数なのである。小選挙区でも2,564万票であり、前回得票数を下回っている。こうした低得票数で衆議院の294議席を獲得しており、この絶対安定多数という力が、安倍政権をここまで強気にさせているのである。低投票率や野党乱立といった要素が強く働いたが、それでも獲得得票数からいえば、自民党は謙虚になってもよいのではないか。まさに今の政治は覇道である。多数の国民に喪失感を与える政治が良いとはとうていいえない。

 13日の経済財政諮問会議で決めた素案によれば、法定実効税率を20%台に下げるという。国民からは消費税を引き上げ、取れるところからは取る姿勢を強めている半面、法人には減税して株式の高評価を期待したいのだ。そもそも法人の約7割(2012年度)は欠損法人で法人税を払っていない。しかもさまざまな優遇税制が採られており、実質的な税負担は少ない。それでもまだ法人税減税に拘るのだ。企業の利益が増えれば経済が良くなるという単純な思考に囚われている。経済は企業だけで成り立ってはいないのだ。しかも、マイナス成長の時代であるから、国内の設備投資の分野は限られており、資金需要は弱い。厚く分配すべき部門は最終需要の6割超を占める家計である。家計の消費需要が弱いことが、さまざまな矛盾を引き起こしている。名目GDPの25.6%(2013年度)も公的部門に頼らなくてはならないことも家計消費が少ないことに起因している。企業だけをいくら優遇しても日本経済は需要が減少しているため、資金は海外に向かうだけであり、経済がよくなるわけではない。

経済成長するために法人税減税が必要だというが、すでにこれまで法人税減税過程をみれば、減税と経済成長には逆相関が成り立っていることがわかる。法人税は1986年の43.3%をピークに2012年には25.5%(中小法人は19.0%)に低下しているが、この間、経済成長率は低下の一途を辿り、マイナスに転落してしまった。つまり、法人税減税は経済に活力を与えるのではなく、活力を削ぐ効果しか認めることができない。成長するには需要増が不可欠だが、需要を喚起するような政策は採られず、需要を萎縮させるような政策が採られたからだ。ずいぶん前からわかっていた生産年齢人口の急速な減少による経済に及ぼす衝撃を和らげる措置(たとえば65歳までは雇用しなければならない)もとらず、一気に生産年齢人口が減少する事態に突入してしまった。こうした経済を支える構造が大きく変わっていくなかでは、経済のデザインが必要なのだが、経済財政諮問会議とやらの官僚の振り付けにすぎない策では如何ともしがたい。1990年代のバブル崩壊で財務省の能力のなさが露呈したが、その反省もなく、米金融危機、原発崩壊等に見舞われ、またしても官僚の無能に安倍政権・日銀によるマネー依存経済が加わり、日本経済のリスクは高まり、経済構造に軋みが生じるのではないだろうか。

『法人企業統計』によると、1-3月期の全産業営業利益は15.5兆円と1-3月期では2007年に次ぎ過去2番目である。売上高は約13%も今1-3月期が少ないが、売上原価の削減率が大きく営業利益を遜色ない水準に押し上げた。2007年に比べれば、人件費は3.5兆円減少しているほか支払利息等1.2兆円減、減価償却費2.8兆円減などコストは大幅に削減されたことにより営業利益は高水準に引上げられた。営業利益・売上高比率は4.5%と2007年よりも0.4ポイント高く、1990年4-6月期の4.6%に次ぐ高収益を確保した。これほど営業利益が高水準にありながら、法人税の減税をすることは政治と企業の結びつきを一層強固なものにし、安倍政権の原発再稼動、集団的自衛権といった政策を経済界に後押ししてもらいたいからだ。

安倍首相は最終的には憲法第9条を改憲し、自衛隊を軍隊へ変え、徴兵制の導入へと突き進むだろう。集団的自衛権は彼のプランの入口にすぎない。政権を離れたくない公明党は自民党に擦り寄り、閣議決定することになるだろう。NHKや原子力規制委員会など重要組織には安倍首相のお気に入りの人間を配置し、思うままに組織を動かすことができる。戦後、これほどの独裁政権はなく、戦後最大の政治危機に直面しているといえる。

戦後の平和憲法を180度変えようとしている政権だが、内閣支持率は50%を超えている。駆け込み需要と円安によって名目GDPが1-3月期、前年比3.0%伸びていることが内閣支持率を支えているのだろうか。経済が良くなれば、平和憲法の礎となっている9条などどのようになろうがかまわないのだろうか。だが、4月に消費税率が引き上げられ、消費者物価が前年比3.4%も上昇し、勤労者世帯の可処分所得は実質7.0%減と9ヵ月連続の前年割れとなるなどとても経済が好転しているとはいえない。これでは家計消費の減少は避けられず、早晩、経済の化けの皮が剥がれ、今年度後半になれば、元の木阿弥になり兼ねず、そうした恐れから安倍首相はこの時期を逃しては、集団的自衛権行使の閣議決定も覚束なくなると躍起になっているのではないか。

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