やはり消費税率引き上げの経済に及ぼす影響は大きい。『短観』などの企業側の見通しは楽観的である。6月の大企業製造業の業況判断は3月比5ポイント悪化したが、先行きは改善するようだ。だが、消費支出の低下が止まらなければ、到底、業況が上向くことにはならない。国内でものやサービスが売れなければ、企業は稼働率を引き下げざるを得ない。稼働率の低下は原価率を悪化させ、収益率を低下させるだろう。昨年度は円安ドル高、駆け込み需要、日銀の金融政策等の特殊要因により、収益は嵩上げされたが、今期はそのような要因が出尽くし、あるいは反動に見舞われ、企業収益は減益になるはずだ。だから、米株式が過去最高値を更新しても、日本株の反応は鈍い。
5月の鉱工業生産指数は前月比+0.5%と2ヵ月ぶりに増加したが、予測を下回った。出荷指数は-1.2%と4ヵ月連続のマイナスとなり、ピークの1月から7.3%も低下し、前年比でも昨年8月以来のマイナスだ。出荷が減少し続けていることから、在庫指数と在庫率指数は上昇し、いずれも前年水準を上回った。企業の予想以上にものが売れなくなり、在庫が増加していることが窺える。
特に、資本財(輸送機械を除く)の生産と出荷は大幅に減少しており、出荷指数は1月から12.3%も落ち込んだ。出荷の急減から在庫は4月、5月と2ヵ月連続で著しく積み上がり、前年を9.6%も上回っている。これだけ在庫が増加すれば、資本財の生産調整は避けられず、資本財部門の収縮が経済全体に及ぶことになるだろう。
1月の資本財出荷は前年比22.2%と急増したが、5月は3.2%に低下した。前年を20%も超えることは稀であり、過去の例をみると、その後は急低下している。設備投資が長い期間拡大を続けることはできないからだ。需要が減少している状態では設備投資する分野は限られており、拡大後の設備投資は低迷期間が長期化するはずだ。
昨年度の資本財出荷は前年比5.6%伸び、年度末の3月の指数が駆け込みの影響で高かったため、今年度のゲタは10.4%と高く、今年度も前年比でみればそれほど悪くならないかもしれないが、資本財の出荷と生産は見掛けとは相当異なる展開になるだろう。
『短観』によると今年度の大企業の設備投資(ソフトウエア含む、土地除く)は前年比8.3%と2013年度を上回ると予想されているが、資本財の在庫水準から判断して、そのような伸びは考えにくい。例年のことだが、6月調査の設備投資計画は高く、実績は6月調査を大幅に下回っている。今年度も下方修正され、6月計画とは似ても似つかないものになるだろう。
住宅をはじめ建築関連は駆け込みの反動減が大きくでている。新設住宅着工件数は5月、前年比-15.0%と3ヵ月連続減、床面積では4ヵ月連続減で5月は19.4%も前年を下回った。相続税対策等で貸家はまだプラスだが、持家と分譲住宅は22.9%、27.1%それぞれ落ち込んだ。非居住用を含む全建築物(床面積)も前年比16.4%も減少、季節調整値では2012年3月以来2年2ヵ月ぶりの低い水準となった。消費税率引上げも公共工事だけは消費税に無関係であり、前倒し執行のためか5月の公共工事請負金額は前年比21.1%も伸びている。
家計消費は激しく減少している。5月の実質消費支出指数(2人以上の世帯)は92.5(2010=100)と2000年以降では最低を更新し、3月から16.1%も減少した。消費者物価は前年比3.7%も上昇しているが、給与の伸びは1%に届かず、5月の実質賃金は前年比3.6%減である。このように実質賃金のマイナスが続けば、当然、消費は切り詰められる。来年3月まで消費者物価は3%台の伸びを持続するため、消費の冷え込みは続き、経済は下降するだろう。
7月1日、政府は「集団的自衛権」を閣議決定、他国で戦争ができるように9条を解釈改憲した。人口減で若年層が著しく減少する半面、高齢者の急増、財政赤字の拡大等海外へ出掛けて戦争をする余裕はまったくない。福島原発の廃炉に夥しいかねを注ぎ込まなくてはならない等個別的自衛権の行使をする前に内部崩壊するような要因をいくつも抱えている。
安倍政権は国内の行き詰まりを打開するために海外に目を向けるという方法を採っているのだろう。拉致被害者もそうだ。原発事故で国内でも8万人もの住民が自宅を追われ、人が住めない放射線管理区域に平気で住まわせるなど、国内問題さえも「国民の命と平和」を踏みにじっている政権が、なぜ海外での戦争に踏み出すのだろうか。しかも憲法9条を飛び越えて。
昨年末、国家安全保障会議の設置法と特定秘密保護法が成立。防衛装備移転三原則、政府の途上国援助の見直しと軍需産業国家へと舵取る。まさに軍事国家を目指しているのだ。このようなあからさまなやり口がまかり通るところが、今の日本人の愚かさを象徴しているといえる。長い物には巻かれろの習性がいまだに日本人の基底に流れているのだろうか。思慮分別なく政権の言いなりになる官尊民卑の思想も根深く蔓延っているのだろうか。一体、日本の学校はどのような教育をしてきたのか。大学は企業への労働力供給機関に堕落してしまい、集団的自衛権が閣議決定されるような人間を作り上げてきたといえるのではないか。
69歳以下が戦後生まれでありながら、戦後の平和憲法を踏みにじる政権を擁立したのである。終戦直後は食糧難で苦しい生活を強いられたが、その後の経済成長により、衣食住をはじめ教育・文化も充実してきたが、政府の暴走を止める対抗勢力を育むことはできなかった。高等教育進学率が50%を超えているが、他国に戦争に出掛けることを是とする判断がなされる。平和憲法を学んできたが、学んだだけで、血肉にはなっていなかったということだ。
考える力を養う教育をしてこなかった付けが集団的自衛権だけでなく、あらゆる分野にでてきている。一見、賢そうなのだが、深く考える習慣がなく、大事なことでも大勢に流されてしまう傾向がある。従順な企業戦士を養成することは首尾よくいったが、考える力に乏しく、本質を見抜くことや全体像を掴むことに不得手であることが、いまの企業、大学などの組織を劣化させているのである。
結局、日本の個人や組織は戦前となんら変わるところがないのだ。高等教育が充実してもしなくても、「考える力」は付かないのである。福島原発事故を経験しても電力会社は原発を稼動させるという。福島原発事故などなかったかのように、原発推進派は勢力を取り戻してきた。これは論理もへったくれも無い、良いか悪いかではなく自分の縄張りを守る、組織を守るためには原発を動かさなければという思いだけなのだ。国の将来を考えるなどということは微塵もない。軍隊が暴走することとなんら変わらない。
説明不能な日銀の金融政策と公共事業のばら撒き政策のリスクに加えて、集団的自衛権の行使容認で、日本は政治的にもリスクの高い国になる。一部の政治家によって、国民の望まないことが、推進される政治的状況がリスクとみなされるだろう。国民の誤った政治選択によって、日本は戦後最大の危機に陥ろうとしている。