企業に甘い政策が日本経済を潰す

投稿者 曽我純, 6月26日 午後8:34, 2016年

6月23日、イギリスのEU残留見通しから円安ドル高にぶれていたため、24日、離脱が濃厚になるにつれて、円が急伸し、一時1ドル=99.00円まで上昇した。その後は行き過ぎの反動があらわれ102円台で取引を終えた。それでも前日から約4円も上昇したのだ。相場はまさにジェットコースターのように激しく揺れた。

24日の1日でポンドの対ドル相場は8.1%も下落した。一時、31年ぶりの安値を付けたが、終盤に戻した。ただ、ポンドが急落したわりには、英株式(FTSE100)の下落率は3.1%とNYダウ(3.4%)よりも小さかった。一方、24日の日経平均株価は7.9%も沈み、DAXは6.8%も急落するなど、離脱国をはるかに上回る下げに見舞われた。昨年末比、日経平均株価とDAXは21.4%、11.0%それぞれ下落しているが、FTSE100は1.7%しか下回っていない。

ポンドは売りを浴びせられたが、英株式の下落率は日米よりも小幅であった。ポンド安で輸出が伸びると期待されたからであろう。イギリスの財・サービス収支は1998年以降赤字続きであり、しかも赤字額は1998年の75億ポンドから2008年には464億ポンドに拡大、2015年も366億ポンドの赤字だ。特に、財の収支は2015年、1,252億ポンドの赤字であり、その70.8%に当たる886億ポンドの赤字はEU取引で発生している。ポンドの対ドル、ユーロ相場が下落するならば、こうした財の収支は改善される可能性がある。貿易収支に金融収支などを加えた英経常収支は2015年、962億ポンドの赤字となり、3年連続で赤字額は過去最高を更新している。

イギリスのEU離脱で人、物、金の流れが悪くなり、世界経済の成長がさらに足踏みするという見通しから、主要国の国債利回りは低下した。商品市況も大幅に下落し、CRB指数は3週間ぶりの低い水準だ。

日本は円急伸により、輸出が一段冷え込み、企業収益が悪化すると予想され、株式は売り一色となった。政府・日銀が誘導してきた円安ドル高と株高が反転していたところへ、円高ドル安と株安のビッグニュースが伝わったことが、相場の振幅を一層大きくした

円安・株高政策は政府・日銀の徒花ともいえる。異次元緩和などと大それた触れ込みではじめた政策は、単に、日銀と金融機関の資金やり取りにとどまり、非金融部門に資金が流れ出なかった。そもそも、家計も企業も資金は十分にあり、借りる必要がないのである。実体経済の動きは鈍く、新たな資金を必要とする分野は限られている。しかも手持ち資金は豊富であり、企業はむしろ貸したいくらいだ。資金需要が弱いときに、日銀が国債買い取り額を増額しても金融機関から企業や家計に金は流れない。こうした、あたりまえのことが、日銀ではあたりまえではないのだ。だから、延々と国債買いを続けているのである。2%の物価目標という幻を追いながら。

貯蓄・投資バランスからみれば、貯蓄は政府に流れてバランスしている。経済が縮小しながらも、貯蓄が存続するならば、政府部門に流入する可能性が大きい。良い悪いということではなく、必然的にそういう関係が成り立つのである。日銀が巨額の国債買いを実施しなくても、ほかに資金を必要とする部門がなければ、貯蓄は政府部門に流入する。

マネーストックによれば、5月の預金通貨(平均残高)は前年よりも37兆円も増加している。経済の足取りが重いなかでも、これだけの巨額の預金がされているとは驚きである。保険や年金関係を加えれば貯蓄額はさらに膨らむ。給与が増えない状況でも貯蓄を続ける国民性が政府の巨額債務を支えているのである。

5月の預金通貨(平均残高)は前年比6.8%も伸びている。M3は前年比3.8%の47兆円増である。このような高い伸びが続く間は政府の資金調達に支障は生じないだろう。だが、預金が伸び悩み、さらには前年比プラスが維持できなくなれば、政府の国債発行による資金調達は難しくなる。貯蓄額の多い富裕層の年齢は高く、さらに高齢になれば、貯蓄の取り崩しが起こるだろう。

政府・日銀の梃入れによる円安・株高は完全に崩れ去った。イギリスのEU離脱に関係なく、円高ドル安と株安は進むだろう。輸出(季節調整値)は2015年1月をピークに減少し続け、5月は2013年3月以来3年3ヵ月ぶりの低迷だ。一方、輸入は輸出のピークの10ヵ月前の2014年3月にピークを付けている。5月の輸入額は5.3兆円だが、ピーク比2.4兆円減だ。これほどの輸出、輸入の落ち込みは2008年の金融危機以来であり、日本経済は相当病んでいるといってよい。

企業に甘く、家計に厳しい政府の政策が現在の経済状況を招いた。企業利益の源泉である非正規や女性の低賃金労働者の供給など戦前の貧しい農村出身者、戦後の集団就職と基本的には変わっていない。いつの時代もそうした低賃金労働者の犠牲によって企業利益は生み出されてきたのである。だが、そうした企業寄りの政策では、企業は太るけれども、家計は痩せ衰え、肝心の消費が衰退していくことになる。企業と家計の分配の歪みが日本経済の力を削いでいる。

PDFファイル
160627).pdf (387.3 KB)
Author(s)