米株が好調である。S&P500とナスダック総合は1ヵ月で4.3%、6.0%それぞれ上昇し、過去最高値を更新した。昨年末比では22.3%、26.4%も高くなっており、異常な株高となっている。株高をもたらしているのは、FRBの利下げだ。10月30日、0.25%の小幅だが、予想通り引き下げを発表した。これで3回連続して引き下げられ、FFレートは1.5%~1.75%と2018年5月以来1年5ヵ月ぶりの低い水準となった。今後、さらに引き下げるかどうかは、経済がどうなるか、指標を丹念に吟味することによって決めるそうだ。
株式市場参加者は引き下げの可能性はあるけれども、引き上げはないと予想しており、こうした見方が広く認められていることが、米株高の最大の要因になっている。利下げは資金調達コストの低下によって、金融経済にお金がたくさん流れて来るという期待を生み(実際にはどうなるかわからないが)、そうした期待が強まることが自然に株式の魅力を高めているのだ。昨年末から20%以上上昇し、過去最高値を突破するという勢いも大衆を株式市場に巻き込んでいるのだろう。勢いがあれば大衆だけでなく機関投資家もそわそわし、ややもすれば冷静な判断が脇に追いやられ、高値掴みとなる。
昨年10月には3%を超えていた米10年債利回りは、今では1.71%に低下し、実体経済の伸びを大幅に下回っている。7-9月期の米GDPによれば、名目前年比3.7%の成長である。10年債利回りが2ポイントも低い、実物経済に資金を投入してもこの成長率を仮定すれば十分利鞘が稼げる。それでも設備投資は前期比減、前年比では2.3%に減速している。個人消費支出は3.9%伸びているが、企業経営者は景気の先行きを慎重にみているようだ。雇用も拡大を維持しているけれども、拡大のペースは鈍化しており、賃金の伸びも頭打ちとなってきた。
一見、米国経済には問題がないようにみえるが、金融経済の活況、バブル化という問題を抱えているのである。先週、NYダウは過去最高値を更新してはいないが、それでも過去3年で約50%も急騰している。株式価額・GDP比率は過去最高を更新し、株式は実体経済からますます掛け離れつつある。
7-9月期の名目GDPは前年比3.7%伸びたが、トランプ氏が大統領に当選した2016年第4四半期以来約3年ぶりの低い伸びなのだ。トランプ大統領が就任してから6四半期連続で成長率は上昇し、2018年第2四半期には6.0%も伸びた。だが、それをピークに今度は5四半期連続で成長率は鈍化している。実質でも同じでピークの3.2%から2.0%に低下しており、成長率が下がりながらも株式は最高値更新と強気なのである。
経済成長率が下がっている状況下では政策金利は引き上げられないだろう。FRBは経済を注視し、政策金利を判断するというが、すでに成長は相当鈍化しており、これから先、回復するような要因を今、見出すことはできない。経済指標にこだわれば、FRBはこれからも利下げを継続せざるを得ないのである。
昨年、米国経済が高い成長を遂げたのは減税を実施したからだ。2018年の個人所得は前年比5.6%伸びたが、所得税等が1.6%に留まり、可処分所得を6.1%も引き上げたことから、個人消費支出は5.2%の高い伸びを示した。個人所得の賃金・俸給は5.0%だったが、利子・配当などが9.3%も伸びたことが、個人所得を引き上げた。2019年(1月~9月)の所得税等は5.3%に拡大したため、可処分所得と個人消費支出は4.7%、4.0%へとそれぞれ減速している。
2016年第3四半期から2019年第3四半期までの3年間で名目GDPは14.5%増加した。所得税等が減税で11.7%と個人所得16.1%を下回ったため、可処分所得は16.7%増加し、個人消費支出は14.4%拡大した。GDPに占める個人消費支出の割合が高いためGDPは個人消費支出の伸びとほぼ等しくなる。
8月と9月の個人消費支出はいずれも前月比0.2%と低い伸びとなり、このような低迷が続けば、今年第4四半期のGDPの伸びはさらに低下するだろう。
10月の米雇用統計によれば、非農業部門雇用者は前月比12.8万人増加したが、前年比では1.4%と今年1月の1.9%をピークに低下しつつある。製造業は0.4%と2017年7月以来2年3ヵ月ぶりの低い伸びである。民間部門の賃金は10月、前年比3.0%と今年2月の3.4%を境に弱含みであり、賃金の伸びが鈍化すれば消費も抑えられるはずだ。
10月のISM(製造業)は48.3と前月よりも0.5ポイント改善したが、3ヵ月連続で50を下回り、製造業は収縮している。ものの輸出は9月まで7ヵ月連続の前年割れとなっており、トランプ大統領が仕掛けた貿易戦争が米国の輸出を苦しくしている。9月の輸出、輸入ともに資本財が6.3%、4.3%それぞれ前年を下回り、設備投資関連の不振は世界的な広がりをみせている。
米中の貿易戦争は長期化し、世界貿易の停滞は続き、米国の資本財部門に打撃を与えている。こうした資本財部門の不振が個人消費にも波及し、米国経済全体の動きを鈍くするだろう。個人消費支出物価指数は9月、前年比1.3%とFRBの予測を下回っており、目標の2%に近づくのではなく、遠ざかっている。予想以上に物価が弱いことは、実体経済の活動が弱いことを表している。物価が弱いことも利下げを後押しするだろう。FRBは利下げを続け、為替は円高ドル安に向かうのではないか。