二進も三進も行かない金融政策

投稿者 曽我純, 7月20日 午後5:38, 2014年

円ドル相場は小幅な変化にとどまっているが、ドルユーロ相場はドル高ユーロ安に向かいつつある。5月のユーロ圏鉱工業生産指数は前月比1.1%低下し、輸入は昨年11月以来の前年割れとなった。7月のZEW景気期待指数は27.1と2.7ポイント前月を下回り、これで昨年12月をピークに7ヵ月連続減だ。ユーロ圏経済の牽引車であるドイツの思わしくない指標の発表により、ドイツ国債の利回りは過去最低水準に低下、ドイツ国債の利回り低下がユーロの魅力を削いでいる。さらにウクライナとロシアの問題もユーロ経済に深く結びついているためユーロの立場を弱くしている。

円ドル相場も動きは鈍いとはいえ、週末値では昨年11月第4週以来の円高ドル安だ。4-6月期の日本経済は大幅に前期を下回ることになるが、米国経済も6月の小売売上高や鉱工業生産の伸びは弱く、先行き不透明である。実体経済の低い成長下で株式が過去最高値近辺に位置していることの恐怖が、ドルの頭を押さえているのだ。

FRBの金融政策はのらりくらりし曖昧なままである。米国経済はデフレではなく、不振であった1-3月期の名目GDPでさえ前年比2.9%成長している。2013年では名目3.4%、実質1.9%伸びているが、ゼロ金利のままである。実体経済と金利があきらかに異なっているが、FRBはゼロ金利を止めない。経済状態次第だという。すでに政策金利をプラスにしなければならないのだが、ゼロ金利で押し通す。株高や住宅価格の上昇というかたちで、歪みが大きくなる。ゼロ金利の長期化でそうした歪みがバブルとしてあらわれるのである。

金融政策を実体経済だけをみて決めるのは片手落ちである。金融経済が取るに足らぬ規模であれば、無視してかまわないが、巨大金融機関が跋扈し、金融・資本市場が膨張した今日では、金融指標が金融政策を決める重要な要因になる。2008年の金融危機のときも、2007年までの株式急騰があった。株式の暴騰、暴落は実体経済を混乱させる。そのようなことは1929年の株式暴落で骨身にしみているはずだが、活かされていない。2008年の金融危機も過去のことになっているように思う。

FRBは経済情勢により金融政策を決めると言うが、彼らの関心事は金融部門の機嫌を取り、収益の拡大を図ることなのだ。改革するといっても金融の実態ではなく表面的な取り繕いですますのだ。

いまでも金融機関は決して本来の姿に戻っているわけではない。6月の米商業銀行の不動産貸付は3.59兆ドルとピーク(2009年5月)から0.26兆ドルしか減少していない。総貸付に占める不動産貸付は低下したとはいえ46.9%を占めており依然高い。6月の貸出は前年比5.0%増だが、預金は7.8%も伸びているため現金保有は2.84兆ドルと過去最高を更新している。総資産に占める現金比率は19.4%に上昇し、過去最高を更新した。

 商業銀行保有の現金は準備預金として大半FRBに預けられ、これを元に、FRBは債券を購入しているのである。FRBは今秋には債券購入を止めると言うが、残高はそのまま維持するだろう。FRBは新規の債券購入を打ち切るが、そうなれば新規購入資金も必要ではなくなる。だが、預金が貸出の伸びを上回る状態が続けば、商業銀行の余裕資金はどこに向かうのだろうか。貸出が伸びなければ、国債購入に向かう以外に使い道はない。総資産比率で債券と現金はほぼ同じになったが、これからは債券比率が上昇し、現金比率が低下することになるだろう。ただ、緩やかだが金融が引き締められることになるので、国債利回りも上昇することになる。そうした過程では国債を保有すれば損失が発生する。損失の発生を抑えるために、FEBはゼロ金利からの離脱をほのめかしながらも、なかなか利上げに踏み切らないのではないか。

 ゼロ金利や国債購入といった金融政策では実体経済はよくならないことが証明された。金融部門のなかではそれなりの効果はあったけれども、非金融部門にその直接の影響はさほど及んでいない。資金は金融部門の内部だけの循環にとどまり、非金融部門には流れていかないからである。成長しない国では資金需要がでることはなく、成長はしていても先行き不透明であれば、資金需要は弱い。

資金コストが低下したからといって、資金需要が生まれるわけではないのだ。金利はそのような調整力を持たないのである。高い収益を期待できれば、それ以下の金利であれば借りるはずだ。要は国内で高い収益が期待できる分野が見当たらないから、金融政策ではどうすることもできないのである。そもそも経済が右肩上がりを続けることなどできない。経済も生き物であるから、頭打ちになったり、衰退することもある。そのような経済であれば金融政策では二進も三進も行かないのである。

PDFファイル
140721_.pdf (383.53 KB)
Author(s)