週末値では7月第2週以降、13週連続で日経平均株価は16,000円台で引けている。年金マネーが買い、日銀が買っても売買代金(委託)の約7割を占める外人が売り越したのでは上値は重い。外人が売り越しているのは、円ドル相場と企業業績への不安があるからだ。米国経済は思うような成長軌道に乗れず、利上げすれば経済成長はより緩慢になるだろう。だから、FRBはなかなか利上げに動けないのだ。とすると、いま100円台の円ドル相場は90円台へと突入する可能性が高い。円高ドル安の進行は企業業績の下方修正に繋がり、日本株は売りとなるだろう。『日銀短観』はそうした日本株売りを暗示するような内容であった。
9月調査の『短観』(回答期間、8月29日~9月30日)によれば、大企業製造業の業況判断は6と6月比横ばい、先行きも変化なしである。製造業でもっとも好調なのは木材・木製品の41であり、悪いのは造船・重機等マイナス18である。一方、大企業非製造業の業況判断は前回比マイナス1の18、先行きは16とやや悪化すると予測している。それでも9月の非製造業は製造業を12ポイントも上回っており、通信、建設、不動産などは44、39、35ときわめて業況は良い。だが、これら好調な業種は金融政策や公共事業に依存している民需とはいえないセクターである。
規模別では中堅企業の製造業は3、非製造業は15と非製造業が製造業より12ポイント高く、大企業と同じ格差だが、中小企業は製造業マイナス3、非製造業1と4ポイントの開きにとどまっている。ただ、調査は1「良い」、2「さほど良くない」、3「悪い」から選ぶのだが(1+2+3=100%)、製造業で1の「良い」を選択したのは大企業15、中堅18、中小18と大企業が低いのである。業況判断は(「良い」-「悪い」)なので「さほど良くない」が少なく、「悪い」が多い中小企業の業況判断が悪くなる。本当は大企業でも「さほど良くない」ではなく「悪い」がもっと多いようにおもうのだが。調査企業数は10,832社だが、中小企業は5,686社と半数以上を占める。
企業業績は前回に比べて軒並み下方修正しており、大企業製造業の売上高は前年比1.7%減と2年連続の減収を見込む。上期の-3.5%に対して下期は0.1%のプラス予想だが、特に、輸出は上・下期ともマイナスになると厳しくみている。想定為替レートは前回6月の上期111.46円、下期111.36円から今回108.44円、107.42円にそれぞれ円高ドル安に変更している。が、実際の円ドル相場は8月以降100円に近い水準で推移しており、今回の円高修正は現実に追い付いていない甘い予想になっている。例えば下期、1ドル=100円だとすれば、予想レートとは7円以上も食い違うことになり、ドル建てで輸出している企業は約7%も手取りが少なくなる。大企業製造業の下期輸出は前年比1.4%減と予想しているが、上期並みの5%程度減少するのではないか。上期でさえ実際の円ドル相場は106円台であり、『短観』の想定レートよりも2円以上円高なのであり、上期の減収率はさらに下方修正されるだろう。
減収率が拡大すれば、今回の経常利益予測も大幅に下方修正されることになる。大企業製造業の経常利益は上期、前年比26.2%減に対して下期は0.7%とプラスを見込む。為替相場の甘い見通しが崩れれば、2桁減益は必至だ。為替相場と大企業製造業の利益との相関関係の強さが、為替相場の甘い見通しを出すことによって、株式の矛盾を曝け出す。予想為替相場と予想利益を比較するだけで、今の株価水準が現状にそぐわないことがわかる。これから、今年度上期の決算が発表されるが、輸出関連の製造業の業績は『短観』よりもさらに悪いのではないだろうか。
今年度の設備投資計画(ソフトウェア含む土地除く)は大企業製造業で前年比11.2%と3年連続のプラスとなっている。前回調査とさほど変わらず設備投資マインドは強い。大企業非製造業も6.5%増と2015年度の-0.1%の微減を除けば2011年度以降プラスと極めて堅調だ。大企業の土地購入意欲さらに強く、2012年度から4年連続のプラスであり、しかも2014年度までの3年間は2桁増である。特に、非製造業の土地取得は旺盛であり、なかでも建設や不動産などは日銀の大規模な国債購入の前後から土地購入にのめり込んでいる。今年度、大企業非製造業はマイナスの計画だがどうだろうか。マイナス金利という絶好の金融環境が続けば都心の土地取得はマネーゲームに最適と捉え、バブルは一層膨らんでいくのではないだろうか。