ECBのドラギ総裁は6月27日、大規模緩和を微調整する可能性を示唆したことに続いて、カーニーBOE総裁の利上げに関する発言により、ユーロやポンドは急上昇した。それとは逆に円の対ドル相場は前週比1円強の円安ドル高に振れた。ECBやBOEとは異なり、日銀の金融緩和姿勢に変更はないからだ。ただ、日銀保有の国債残高は6月20日までの半年では15.9兆円増と目標の年間約80兆円の残高増を大幅に下回っている(その前の半年では37.2兆円増)。一方、ETF(上場投資信託)は昨年の7月、それまでの年3.3兆円の残高増から年6兆円へとほぼ倍増させ、6月20日までの半年で3.2兆円増加している。
日銀保有の国債残高は422.8兆円と国債残高の約4割に達しており、年80兆円もの購入は難しくなってきている。今は国債購入よりもETFの積極的な買いで株高を演出することに注力しているのだ。中央銀行やGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が資本主義経済を象徴する株式市場の主要プレーヤーに躍り出ており、日本の株式・債券市場は国家管理による価格付けがなされるという社会主義経済並みの体制下にある。国民はこうしたいんちき博打場には近づいてはいけない。
米国は6月14日、政策金利を年1.0%に引き上げ、さらに再投資を減らすことにより資産を圧縮する方針を打ち出した。4回の利上げで政策金利は1.0%上昇し、さらに引き上げる方針だが、米国の実体経済の体温は低下しつつあり、金融政策の変更を促すほどではない。
5月の米個人消費支出は前月比0.1%増にとどまり、前年比では4.2%に低下した。可処分所得は5月、前年比3.7%伸びているが、賃金・俸給に限れば2.9%と2月の4.3%から3ヵ月連続で低下しており、こうした賃金・俸給の伸び率鈍化が個人消費支出に影響しているように思う。
個人消費支出の低迷などにより、個人消費支出物価指数(PCE)は5月、前月比-0.1%と2ヵ月ぶりのマイナスだ。前年比では1.4%と3ヵ月連続の低下となり、FRBの今年の予測値(1.6%~1.7%)を下回った。食料・エネルギーを除くPCEコアも5月、前年比1.4%とFRBの予測値(1.6%~1.7%)以下となり、米国の物価はFRBが目標とする2.0%から下方に乖離しつつある。PCEが2.0%に近づくのではなく、2.0%から下方に動いていることは、利上げに対する圧力になるはずだ。
下落傾向にある原油を始めとする商品相場はこれから物価をさらに押し下げるだろう。FRBの2.0%の物価目標はさらに遠のき、政策金利を引き上げる理由を失うことになる。物価上昇率が低下すれば、個人消費意欲は後退し、さらに物価を下げるという循環に陥ることになる。政策金利の過去7ヵ月で3回の利上げが米国経済にボディーブローのように効いているのだろうか。米消費者物価指数(コア)は今年1月の前年比2.3%をピークに4ヵ月連続で低下し、5月は1.7%と1月から0.6ポイントも低下した。
ECBも金融政策の変更を示唆しているが、ユーロ圏のインフレ率は今年2月、目標としている2.0%に達したが、その後、軟調に推移し、6月は1.3%と4ヵ月で0.7ポイントも低下し、物価は米国と同じ道筋を辿っている。政策金利は引き上げられていないが、商品相場下落の影響がでてきているといえる。
日本の消費者物価指数(生鮮食品を除く)は5月、前年比0.4%と前月よりも0.1ポイント上昇した。これからエネルギーを除く指数は前年比横ばいと前月と変わらず、引き続き物価は安定している。商品相場下落の影響がこれから消費者物価にもあらわれ、物価は低下基調をたどるだろう。
『家計調査』によれば、5月の消費支出(二人以上の世帯)は前年比0.4%と昨年の12月以来5ヵ月ぶりにプラスになったが、前年を僅かに上回った程度であり、弱い基調に変わりはない。勤労者世帯の消費支出は2.8%のプラスだが、実収入と可処分所得はいずれも3ヵ月連続の前年割れだ。可処分所得がマイナスになったにもかかわらず、消費支出がプラスになったことで、平均消費性向は102.3と消費支出が可処分所得を上回った。
物価の現状は、日銀がいまだに目指す2.0%にほど遠く、これから目標とは逆の方向に動くだろう。日銀は物価2%に固執すればするほど身動きが取れなくなるばかりではなく、すでに歪められている金融資本市場さらに歪め、引いては課題山積の日本経済に一層負担を掛けることになる。
基本的には、日銀は東電のような経緯を辿るのではないか。東電はすでに国から9兆円を超える資金援助を受けている。1年当たり1.5兆円、廃炉に仮に今後30年を要するとすれば、45兆円の資金援助が必要になる。最終的に負担するのは税金と電気料金、つまり国民であり、東電関係者や東電に資金援助している原子力損害賠償・廃炉等支援機構ではない。
日銀も400兆円を超える国債を保有しているが、その原資の多くは国民の預金なのだ。国債価格が下落すれば、日銀のバランスシートは著しく損なうことになる。1990年代、バブル崩壊で金融機関が巨額の不良資産で行き詰まったが、日銀も同様の事態に直面しないとも限らない。そのときだれが日銀の面倒をみるのだろうか。国だろうが最終的には国民の税金が投入されることになる。日銀だからリスク管理は万全だと思ってはいけない。体質としては民間金融機関と差異はない。最後の最後までおしとよしの態度を貫くだろう。
福島原発事故ではいまだ東電のだれも責任は問われていないように、もし日銀が不良資産の山を築いたとしても、その責任は不問に付されると思う。だから、当てのない金融政策をいつまでもずるずる続けているのだ。責任を追及されるのであれば、怖くて巨額の資産購入などできはしない。