世界経済・株式の最大のリスク要因は米株高

投稿者 曽我純, 12月16日 午前8:28, 2019年

日経平均株価は2万4,000円を超えた。2018年9月以来約1年2ヵ月ぶりである。トランプ大統領の対中通商交渉合意という演出による株高である。これで日経平均株価も昨年末から20.0%上昇し、NYダウ(20.6%)と同じ上げ幅となった。S&P500やナスダック総合は26.4、%31.6%それぞれ上昇しており、NYダウを上回っている。株高に伴って原油価格も昨年末比32.3%も値上がりしている。米株式の過去最高値更新という要因によって、世界の主要株式も上昇しているように思う。米株が倒れればすべての株式が巻き添えを食うことになるだろう。トランプ大統領の株価操作がいつまでも続くはずがない。

通商合意の内容も曖昧であり、トランプ大統領のひとり相撲かもしれない。そもそも中国が今後2年間で2,000億ドルもの輸入を増やす、うち農産物を年平均400億ドル~500億ドルを輸入するなどとうていできる話ではない。2018年の米国の中国への輸出額は1,203億ドル、2017年でも1,303億ドルしかないのだ。米国の農産物の対世界輸出額は2018年、1,396億ドルである。これの35.6%に当たる500億ドル分の農産物を追加輸出することなどできるわけがない。あまりにも酷く、いい加減な、合意とは言えない合意ではないか。だから中国は合意内容をすべて発表していないのだ。

15日発動予定だった追加関税第4弾にはスマホやノートパソコンが入っており、これらは米国経済への影響力が大きく、トランプ大統領はこれを回避したいのが本音であった。中国にとってもスマホ等は重要な輸出品であり、合意するのが賢明だと判断したのだろう。

それにしても一方的で粗雑な合意を好感する株式関係者は頂けない。一気に8割も米国から中国への輸出を急増させることは不可能である。そのようなことは中国もできないし、米国もできない。互いにできないことを合意したのであれば、合意は破綻する。今回の通商合意(合意といえるものなのか)はトランプ大統領の人気取り政策であり、一時凌ぎにすぎず、早晩貿易戦争はより深刻化するだろう。

英保守党の大勝利でEU離脱が確実になったことやFRBの政策金利の現状維持は株式を引き上げる要因ではない。英国のEU離脱は人、物、金の流れを悪くし、EUの力を弱めることになる。英国も人、物、金の流れを再構築しなければならないという困難な長期に及ぶ作業を強いられることになり、経済は孤立し、停滞を余儀なくされるだろう。さらに今回は保守党が勝利したが、実際のところはEU派と離脱派は拮抗しており、国内での摩擦や衝突が起こるのではないか。国民投票が行われた2016年6月以降、EUからの英国への流入移民は減少しており、EUからの純移民は大幅に減少している。移民に依存している経済分野は痛手を被り、総人口の伸び率低下によって経済の停滞が強まるかもしれない。

FOMCのメンバーによる政策金利の予測によれば、2020年は13名が現状維持で4名が引き上げを示している。2020年の実質GDPは2.0%~2.2%と今年並み、失業率もほぼ同じだが、インフレは1.8%~1.9%へと今年よりも0.4ポイント上昇すると予測している。実体経済が同じ速度で進行しながら、物価だけ高くなるとみているのだ。だから、政策金利を今の水準よりも下げる必要はないと言いたいのだろう。

11月のCPIコアは前年比2.3%と前月と同じ伸びだし、PPIコアは1.3%と3ヵ月連続で低下し、昨年12月の2.9%から急低下している。製造業に限ればマイナス0.9%であり、ものの動きが鈍ってきていることが窺える。PPIの低下は少し遅れてCPIに及ぶはずだ。FRBが予測している物価情勢との食い違いがみられる。需要の弱さは小売売上高にもあらわれており、11月は前年比2.9%に鈍化した。

週末、12月調査の『短観』が公表された。大企業製造業の業況はゼロと9月より5ポイント低下し、2013年3月以来約7年ぶりの低い水準だ。これで4四半期連続の低下だが、2017年12月の25をピークに横ばいの時期があったもののほぼ下がり続けており、苦しい状況に追い込まれている。大企業製造業の業況は、先行きはゼロと横ばいだが、中堅、中小企業の先行きはさらに悪化し、中堅はマイナス、中小のマイナス幅は拡大すると予測されている。一方、大企業非製造業の業況は20と9月よりも1ポイントの低下にとどまり、製造業とは対照的である。業況がマイナス業種は小売だけであり、情報サービス、対事業所サービス、建設、不動産の業況は44、42、37、35と好調である。

変化の大きい大企業製造業の業況と株価には相関関係が認められる。だが、2017年12月をピークに業況は低下しているが、最近の株価は堅調である。業況がプラスからマイナスに転じたときには、株価すでに大きく値下がりしていることを、過去の関係から読み取ることができる。現在の株価は米株に引きずられており、いままでの経験則が通用しない異例の株高だといえる。

トランプ大統領にとってはこれからが正念場だ。これまではFRBへの圧力で利下げさせ、対中通商交渉も利用して株高を演出してきたが、実体経済から掛け離れた株式がいつ現実を直視し、暴れ出すかわからない。米株式がおかしくなると日本株は暴落するし、世界中の株式が売り一色となるだろう。米株が値上がりすればするほど世界の経済と株式リスクは大きくなる。

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