前週に続き、米株式は過去最高値を更新した(S&P500は昨年末から20.5%上昇したが、TOPIXは5.5%にとどまる)。トランプ大統領の執拗なFRBとパウエルFRB議長への攻撃が利下げを確実なものにしたからだ。後の関心は、利下げ幅が0.25%か0.5%のどちらになるかくらい。0.25%ではいかにもインパクトは小さく、実際に実体経済に及ぼす効果はほとんど期待できないし、0.25%ではトランプ大統領を満足させることはできず、再び、FRBを激しく罵るだろう。FRBはトランプ大統領に迎合し、0.5%の利下げに踏み切るのではないか。
7月30日~31日のFOMCで利下げが実施されるが、これで打ち止めにならず、9月以降のFOMCでも利下げの決断に迫られるはずだ。パウエル議長は「製造業、貿易、投資は総じて世界的に低調」と指摘するが、秋になれば一層、世界経済は低迷している可能性が高いからだ。
6月の米CPIは前年比1.6%と2ヵ月連続で伸び率は鈍化し、昨年7月の2.9%をピークに低下しつつある。エネルギー・食品を除くコアは2.1%だが、過去1年ほど2.0%~2.2%の狭い範囲にとどまっており、米国の物価は非常に安定している。過去10年をみてもコア指数はリーマンショック後には0.6%まで低下したが、最高でも2.4%の伸びである。PPIについても6月は前年比1.7%と2017年1月以来2年5ヵ月ぶりの低い伸びであり、昨年7月の3.4%を最高に上昇率は明らかに低下してきている。米輸出入物価も5月、前年比-0.7%、-1.5%といずれもマイナスだ。輸入は昨年12月以降、ほぼ前年割れしており、昨年央をピークに大幅に下落している。こうした物価の伸び率鈍化やマイナスは、実体経済の勢いが衰えている証拠である。
ユーロ圏のHICPは6月、前年比1.2%と前月と同じ伸びであったが、昨年10月の2.3%をピークに大幅に低下しており、ECBの目指す目標からは遠ざかる。食品関係の指数も昨年10月の前年比2.7%から今年5月は1.6%へと低下しており、小売売上高が5月、前年比1.3%に鈍化していることなどの影響があらわれているのかもしれない。
日本でも6月の企業物価が前年比-0.1%と2016年12月以来2年半ぶりのマイナスだ。昨年8月には3.1%も上昇しており、米国の物価と同じような傾向を示している。需要段階別に見ると素原材料、中間財、最終財とすべての段階でマイナス、特に素原材料は-5.3%とマイナス幅が大きく、今後、その影響が最終財に向かっていき、さらに、消費者物価にも波及するはずだ。
5月の生鮮食品を除くCPIは前年比0.8%、さらにエネルギーを除くコアは0.5%にすぎない。消費税率の引き上げで2014年度のコア指数は前年比2.6%に跳ね上がったけれども、2015年度には1.0%、2016年度は0.3%へと一段低下し、こうした低空飛行から脱却できないでいる。
日銀は頑なに2%を目指しているが、なぜこのような目標を掲げているのかわからない。コアが0.5%伸びている物価の状態は極めて好ましいのではないだろうか。名目GDPが前年比5.1%(1-3月期)も成長している米国でさえ、コア指数は2.1%なのだ。1.0%のたどたどしい足取りの日本経済では、いかに旗を振ろうが、ゼロ前後で推移するのが関の山ではないか。
達成が不可能な目標にいつまでも固執するなど遇の骨頂だ。日銀は戦前の日本軍の理不尽な突撃精神の精神を後生大事にしている。日銀の過ちを修正しない姿勢は多くの日本の企業や組織にも見える。なんの理論的な裏付けもなく、特攻隊のように突き進むのみ、これでは進歩できるはずがない。物事を突き詰めて考えようとしない曖昧な習性が、日本の衰退の原因のひとつではないだろうか。
第2次安倍政権が発足してからも日本の一人当たり名目GDP(per capita GDP)の順位は下がっている。安倍首相は野党を貶すが、民主党政権下での世界順位は2009年17位、2010年14位、2011年14位、2012年12位であった。だが、円安ドル高の影響もあり、2013年19位、2014年19位、2015年20位、2016年18位、2017年20位、2018年23位と最低を更新している。経済規模は世界第3位だが、per capita GDPでは23位に後退してしまった。1996年までは3位だったが、バブル崩壊に伴い、労働生産性は著しく低下し、いまも改善の兆しはみえず、順位はさらに落ちるだろう。
ITやAIなどが賑わいをみせているが、日本の労働生産性にはほとんど貢献していないのではないか。2010年までの10年間のper capita GDPの年率はマイナス0.6%、2018年までの8年間では1.25%とプラスだったが、2000年までの10年間をやや下回っている。なぜこうも生産性が上昇しないのだろうか。ITやAIはいままでのところ「遊び道具」として使われているからだ。『第3次産業活動指数』によれば、今年第1四半期の第3次産業統合は106.7(2010=100)と8年3ヵ月で6.7%伸びた。情報通信業は111.8と全体よりも拡大しているが、そのなかではゲームソフト(143.9)やインターネット関連(173.3)の伸びが抜きんでている。
2018年の米per capita GDPは世界第5位だが、1994年も6位と長期間高い順位を維持している。1990年から2018年までの28年間の日本のper capita GDPの年率成長率は0.6%だったが、米国は3.5%と日本の6倍の速さで成長した。大量の移民を受け入れ、複雑な社会構造でありながら、米国の労働生産性は日本よりもはるかに高い。
日本社会は日銀のように思考が凝り固まって、まったく融通が効かなくなっているのだろう。間違いを間違いと正さず、間違っていてもなんとかなるだろうと放置する。だが、間違いを放置すると雪だるま式に問題が膨れ上がり、どうすることもできなくなる。バブル崩壊のときも理屈が通用しない、現実を直視しないでたらめな対応がまかり通っていた。福島第1原発はバブル崩壊の教訓がまったく活かされることなく、デブリ取り出しなどという不可能な仕事に邁進している。核の廃物処理のために巨額の無駄な支出が、日本社会を痛め続けるだろう。第2次大戦もそうだが、自らの決断で間違いを止めることができないのだ。破壊されつくされて、やっと考え直す程度なのかもしれない。
日本のper capita GDPの世界順位の低下は、多分に日本の組織は、依然、現実や理屈に基づかない方法で仕事をしているからだと思う。論理的でないから仕事の仕様も定まらず、会議を開いても情動的になりやすく、時間の浪費となる。30年後には人口が約1億人になる日本は労働生産性を今よりも何倍も高めなければ、経済規模は縮小してしまう。そうなれば、生産年齢人口が非生産年齢人口を養うことができなくなる。ひもじい社会に成り兼ねない。