週末、野田政権は消費税増税を民自公で合意し、大飯原発の再稼動を決定した。野田首相はまったく社会情勢を見ることなく、戦前の軍部が戦争に突っ走ったのと同じように短絡的に結論を導いた。これらの決定は弱りつつある日本に追い討ちを掛けることは間違いない。すでに何度も指摘しているように、生産年齢人口の急減期に入っていることから、経済規模縮小の進行は、増税によりさらに加速することになるだろう。仕事はなくなり若者の失業率は上昇し、所得格差は一層激しくなる。ギリシャほどの悪化にはならないにしても、日本の同質社会では、経済悪化の許容度は高くなく、社会が荒みぎすぎすした状態になる可能性は高い。
原発再稼動は設置自冶体に金が落ちるとはいえ、生命や被爆の危険に晒される。地域の金と命の天秤だけでなく、原発は日本に住むことができなくなるという取れないリスクがあることを忘れてはならない。経済、企業活動という前に住むことができないのでは経済も企業も成立しないのである。これほど重大な判断をいともやすやす下されると怨念しか残らない。
税金を払っている人よりも税金で生活している人のほうが高い所得を得るという逆転を長期間放置している。生活保護世帯の増加が問題であるならば、公務員の高給はもっと問題なのだ。90年代に金融機関はほぼ破綻していながら、公的資金注入で生き延び、法人税を払ってこなかった。が、自動的に利鞘を稼げる仕組みにはそれ相当の税を課さねば公平を欠くことになる。為替や株式取引には取引税を導入し、博打のような超短期売買を抑制しなければならない。いままでの証券税制は資本・株式市場の遊技場化を促進しただけであり、本来の発行市場を育成するものではなかった。流通市場さえ活発であればそれで良しとしていた結果、いまだに日本株の底が見えない事態を招いた。
結婚や子育てにしても、日本企業の長時間拘束や有給休暇の低取得をみれば、先行きもはなはだ心もとない。夫の子育て休暇は強制的に1ヵ月以上の取得を法律で義務付ける。勤務時間を守る。全企業に対して有給休暇の導入と完全消化も法的に導入しなければならない。日本企業は弱っているが、その原因は、為替や法人税ではなく、長時間労働や相変わらずの情実人事、無能な管理職など企業の内部にあり、内部崩壊の進行と捉えるべきである。時間と金の無駄以外の何ものでもない新入社員の採用などをみれば日本企業はまったく変わっていないことが一目瞭然。問題を問題として捉えないことが、企業組織の長期劣化の最大の問題なのである。そうした日本企業の病巣を象徴しているのは、経団連の米倉会長ではないか。原発賛成、増税賛成、人よりも物、金を大事にする思想を全面的に採用している。人間としての全うな思考は止まってしまっているとしか言えない。
増税、原発再稼動によって経済衰退、所得格差拡大がより深刻になり、財政状況は今より一段悪化、貯蓄を食いつぶしながらの生活を余儀なくされることになる。本来、潰れるべき企業が政府の支援で生き延びていることは、国民の負担が増していることなのだ。何回も倒産した東電を生かし、事業をなお東電まかせにしていることは、国民負担がべらぼうに増えることになる。非効率な金融機関が存続していることは、やはり国民負担になっているのだ。資本主義経済といいながら、政治権力と結びつきの強い大企業は、窮地に追い込まれれば国が面倒を見ることになり、病の企業を生かしつづけ、それが日本経済を蝕む最大の原因になっている。
1989年末以降のバブルが弾ける過程で悪い企業が潰れていればもっとましな経済になっていたと思うが、大半の不良企業が生きながらえてきたことが、日本経済の再生を阻んだ。それを主導したのは財務省(大蔵省)であり経済産業省なのだ。官僚は日本のことなど少しも思っていない、自分の縄張りを守り、権益を固守することしか考えていない。税金で吸い上げた金なので痛みはないのだ。今回の増税、原発再稼動いずれも財務省と経済産業省の描いたシナリオであり、野田政権は彼らの神輿に乗ったに過ぎない。だから「国民生活を守る」など守ることなど出来ないことを平気でいうのだ。今守られていないことが、どうしてこれから守ることができるのだろうか。電力も足りないと脅すが、経済規模が縮小しているので、原発なしでやっていける。足りるといえば、原発再稼動が不必要になるので、電力会社は足りていても足りないというだろう。原油・ガス等の化石燃料が増加しているので電力料金を引き上げるともいう。原発による発電コストは安いといまだにいう。原発関連のすべてのコストを計上すれば、化石燃料の何倍にもなるだろう。核廃物の貯蔵地だって決まっていない。重要なことは決まっていなくても平気で原発を動かす。
本当に良心的な会社であれば、自ら進んで原発を廃炉にするはずだ。核廃物を企業ではどうすることもできないので、これ以上核廃物をふやさないためにも、即刻、原発を止めなければならないと思う。原発保有の9電力会社のうちどの企業も原発廃止を打ち出さない同質性。まさに不気味な存在であり、原子力村が存続している証でもある。東電が原発の廃止宣言をださないのは、福島の大事故によって発生した被害を深刻に感じていないからだ。経営者が責任逃れに終始する有様を見るにつけ、ますます東電をこのまま存続させることの恐怖を覚えるのは私だけではないはずだ。
こうしたトップが腐っている企業の存続がなにより、日本経済をだめにしているのである。1990年代以降の長期不況は、このような不良企業が淘汰されないことに起因していると言える。金融機関の不良債権は処理されたけれども、組織自体の不良化は是正されなかった。20年以上におよぶ不良企業の蓄積が日本経済をおかしくしてしまった。
4月のユーロ圏鉱工業生産指数は前月比-0.8%と2ヵ月連続のマイナス、なかでも資本財は2.6%も落ち込み、不況は深刻化している。景気の不振に金融機関の信用不安が加わり、ユーロ圏経済は悪化の度合いを強めている。金融機関が不良債権処理をいい加減にしていたつけが回ってきたからだ。日本の金融機関が不良資産額を過小評価し、実態と食い違った数値を発表し、決算のたびに不良債権処理の峠は越えたといっていたのと同じだ。不良債権処理が終わらないことは、マネーの流通は途切れ、正常な分野に回らず、経済は回復しないことになる。不良債権処理と不良企業の処理を中途半端にしておくと日本のように何十年もの長期不況に陥り、辛酸を嘗めることになる。