不気味なダウ最高値更新

投稿者 曽我純, 1月8日 午後5:35, 2017年

トランプ氏の政策に期待して米株価は過去最高値を更新している。ウォール街はトランプ氏と相性がよいのだろう。だが、古き米国の西部開拓時代を彷彿させるような「いかつい」人物がこれからの米国の舵を取る。はたしてうまくいくだろうか。これまでの言動から判断するならば、オバマ大統領とは180度異なり、プーチン大統領や習近平主席のような専制政治、破綻したリーマン・ブラザーズ元CEOリチャード・ファルドのような強欲さを具現していくのではないだろうか。ワンマン政治といってもよいだろう。日本の安倍首相もワンマンといえるが、彼らはもっともっと凄みのある怖い政治屋なのである。歴史は繰り返すと言われるが、トランプ氏の登場や日本では憲法改正を視野に入れた政治活動が活発になろうとしており、時代は大きく右に旋回しつつある。

不気味な、なにか不安を感じさせるような時代に株価が上昇するのは正常ではない。トランプ氏の登場によって何かが変わるという予感がそうさせているのかもしれない。だが、冷静に考えるとトランプ氏のこれまでの発言からは、自国重視の姿勢しか見えてこない。自国に閉じ籠り、公共事業に精を出す。法人税を軽くし、金融規制を緩める。思いついたまま色々な政策を表明しているだけである。過去のレーガン政権、ブッシュ政権のときとそれほどの違いはない。

安倍政権が大胆と言われる金融・財政政策を打ち出したが、日本経済はほとんど変わっていない。理論的に説明できない教義を現実に応用するのだから、うまく行くはずがない。首相や大統領が変われば同じ政策でも効果の現れ方が違うのだろうか。そのようなことはない。大統領の言うことをそのまま受け入れ実行することは、独裁政権と同じである。議会も共和党が抑えているので、ますますトランプ氏のやり方がそのまま議会を通ることになる。

エコノミストも甘い汁をすうために政権に靡き、無益な政策をあたかも効果があるように吹聴することになる。レーガン大統領やサッチャー首相の市場優先政策が今の超格差社会や金融肥大化を招くことになったが、財務長官などにゴールドマン・サックス出身者が起用されるなど、トランプ氏の政策遂行は決して貧困層ではなく、富裕層に手厚く、さらに格差は拡大するだろう。

トランプ政権が始動し、しばらく経過すれば、もともと反トランプ勢力が強いだけに、さまざまな対抗勢力が形成されるだろう。トランプ氏の経済政策に新味はなく、失望感が漂うことになろう。オバマ時代を懐かしむ声が方々から聞こえてくるのではないか。

今の米国経済に株価が過去最高値を更新するような中身があるとは考えられない。期待だけで上昇しているように思う。株価を一株当たり利益で割った株価収益率はS&P500ですでに26倍を超えている。中央値に比べると2倍に近く、明らかに株価は実体経済から乖離しているのだ。

主要国の株価は上昇しているけれども、国債利回りは依然歴史的超低水準のままである。米国は2015年末を幾分上回っているが、その他の利回りは下回っており、株式とは対照的な動きをしている。短期金利についても同様であり、マイナス金利から抜け出せない国が多い。国債利回りの動きからみれば、今年も世界経済はほとんど変化しないように見受けられる。米国やユーロ圏経済は1%台の低成長で推移するだろうし、日本はより低い成長にとどまるだろう。

日本経済は人口減と高齢化が著しく、消費が衰えるのは避けられない。『労働力調査』によれば、日本の15歳以上の人口は過去10年、ほぼ横ばいである。就業者と失業者を加えた労働力人口も昨年(1月から11月まで)は6,647万人と2005年(6,651万人)と同じである。昨年(1月から11月まで)の就業者は6,437万人であり、第2次安倍内閣発足の2012年(6,270万人)比167万人増である。これを男女別にみると、男は22万人、女は145万人と増加分の86.8%を女性が占めている。男の就業者数は2012年より多いが、2010年以前と比較すると下回っており、第1次安倍内閣が誕生した2006年比では97万人減なのである。雇用が増加したのがもっぱら女性だということは、非正規雇用の増加が圧倒的であり、だから給与は伸びず、ひいては消費意欲も振るわないのである。

企業は人件費を抑えるために非正規を増やしているのだが、人件費を抑えたことが、結局、企業が作ったものが売れない原因になっているのだ。企業は少なくとも、売上高や利益の伸びに応じて給与を払うべきだ。そうしなければ、自分で自分の首を絞めることになる。

米国の雇用も日本と同じように給与を抑える雇用形態を取っている。ショートタイムがフルタイムの伸びを上回っているのだ。昨年12月のフルタイムとショートタイムを金融危機前の2008年8月と比較すると、フルタイムの3.9%に対してショートタイムは9.0%も増加している。また、昨年12月の就業率は59.7%と持ち直しているものの、ピーク(2000年4月の64.7%)を大幅に下回っており、こうしたことが、米個人消費が盛り上がらない要因になっている。

それでも米失業率は4.7%に低下しており、雇用が物価を引き上げる力を付けてきたといえる。だが、FRBの政策金利引き上げに、ゼロ金利に慣らされていた米国経済が耐えられるかどうかは疑問だ。トランプ氏の気まぐれな政策と金利上昇という難題に米国はどう立ち向かうのだろうか。

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