5月の景気先行指数は前月比2.6%の大幅上昇となり、これで6ヵ月連続の拡大である。指数は111.8と2007年10月以来、5年7ヵ月ぶりの高水準だ。一致指数も6ヵ月連続のプラスとなったが、指数の水準は高くなく、前年を下回っている。ディフュージョン・インデックスも先行指数は88.9%、一致指数は90.0%と景気拡大が経済全体へ波及していることを示している。
消費税率の引き上げを睨み、需要の前倒しが期待でき、景気指数の拡大は続くだろう。が、1997年4月の再引き上げのときは、1ヵ月後の5月をピークに景気は下降していった。1989年4月の消費税導入時はバブルで沸いていたため、景気のピークは1991年2月にずれ込んだが、景気の谷は深く長いものになった。
消費税の導入や再引き上げ後の経済を振返ると、引き上げ前には需要の先食いが発生し、引き上げ後には需要の減少が起こることは不可避だということである。まだ、政府は引き上げを決定していないが、このような景気動向指数を背景に引き上げに踏み切るはずだ。そして引き上げ直後に日本経済は激しい不況に陥ることになるだろう。
景気は拡大しているが、給与は増えていない。5月の現金給与総額(毎月勤労統計)は前年比横ばいだった。円安ドル高の恩恵を受けて上がっていてもおかしくない製造業の給与さえ-0.7%と昨年9月以降9ヵ月連続の前年割れである。今年1-3月期の製造業営業利益は前年比31.6%(法人企業統計)も伸びており、製造業の業績は好転しているが、給与は2.7%減と削っている。5月の『家計調査』によれば、2人以上の世帯の消費支出は前年比1.9%減であったし、6月の新車販売台数は前年比-15.8%の2桁減である。企業が利益を溜め込むばかりでは本格的に経済が良くなることはない。まさに景気は一時的な好転にすぎない。安部政権は経済政策が奏功し、景気が良くなったと言うが、消費税率引き上げ前では、良くなるのは当たり前で、安部政権の政策が効果を発揮しているのではない。
6月調査の『短観』が公表され、大企業製造業の業況判断の好転が強調されているが、「良い」と判断したのは大企業製造業でさえ15%と前回よりも4ポイント改善しただけであり、「さほど良くない」が74%を占める。中小製造業では「良い」は14%、1ポイントの改善にとどまる。マイナスからプラスに転じ、ずいぶん業況判断が良くなったように思うが、実はそれほどの変化はないのである。企業業績予想をみても、今年度の大企業全産業の経常利益は8.4%と昨年度を2ポイント上回る見通し。全規模では5.2%と2ポイント下回ると予想されている。だから、全規模の設備投資は5.3%とほぼ前年並みとなっている。
『法人企業統計』によれば、今年1-3月期の全産業設備投資は前年比3.9%減と2期連続のマイナスだ。年度でもマイナスとなり、『短観』とは違う。なにしろ売上高が1-3月期まで4期連続の前年割れとなり、これでは設備投資をする意欲は湧いてこない。むしろ、過剰資産が目立ち、固定資産を除却したいのではないか。売上高が大幅に減少しているときに、設備投資を企てる企業などいないだろう。
週末値で日経平均株価は6週間ぶりに1万4,000円台を回復したが、深追いは禁物だ。来年、消費の冷え込みによって景気が悪化することは間違いないからだ。今後数ヵ月後には完全に反落するだろう。今の株価水準を月末まで維持すると仮定すると、7月末の日経平均株価は前年比64.6%と80年代以降では最高となる。売買代金は一時よりは減少したものの、まだ一日当り2兆円もの商いを続けており、株式はあきらかに投機化している。投機が進行すればするほど、投機後の相場は凄惨なものとなり、それが実体経済にも及ぶことを忘れてはならない。市場関係者が煽るほど、その反動は彼らに跳ね返ってくるのだ。こうしたことを幾度経験しても、繰り返されることは、税制で縛るしかない。市場関係者だけが、バブル崩壊の被害を被るわけではなく、国全体に悪影響が及ぶからだ。
秋には米金融緩和の縮小も始まり、米株式・債券相場も大きく動くだろう。6月の米失業率は7.6%と前月と同じだったが、非農業部門雇用者は前月比19.5万人増加し、6月までの半年間の月平均増加数は20万人を超えている。これだけ雇用が改善していながら、巨額の資産購入を続けることできない。
だが、週平均労働時間は横ばいだし、時間当たりの賃金の伸びは緩やかであり、個人消費が本格化するほどではない。賃金の伸びが低く、個人消費に勢いがでなければ、米国経済の成長率は低い水準にとどまるだろう。FRBは今年第4四半期の実質GDPを前年比2.3%~2.6%と予測しているが、個人消費が伸び悩む状態では達成は難しい。
FRBの資産購入縮小観測により、米30年債利回りは週末、3.71%に急騰した。1ヵ月前比0.46%の上昇である。10年債も2.75%、同0.66%も上がり、耐久消費財の購入や設備投資意欲を低下させる。1-3月期の米名目GDPの前年比伸び率は3.3%に低下しており、30年債の利回りのほうが高くなってきた。債券利回りの歴史的低下が、金融恐慌によって打ちのめされた米国経済をここまで回復させたが、ここにきての債券利回りの急騰は、耐久消費財の販売に暗雲が垂れ込め、米国経済の先行きを不安にさせている。