11月21日、ムーディーズがフランス国債の格付け見通しに言及したことにより、フランス国債の利回りは上昇、さらに、23日にはドイツ国債の入札が不調となり、利回りは急上昇し、週末、ドイツの10年物国債は2.26%と週間で0.29%も高くなった。格下げされたベルギーをはじめ欧州各国の国債は軒並み売られ、各国の資金調達コストは大幅に上昇することになる。国債売りの余波は日本にもおよび週末には11月1日以来の1%超となった。ただ、23日のドイツ国債の不振に対して、米国国債は買われ、利回りは低下した。
ドイツの国債まで売られだしたことから、ドルユーロ相場は週末、1ユーロ=1.324ドルと今年1月第1週以来のユーロ安ドル高となった。ユーロ圏からみればユーロ安ドル高はドル建て資産が割高となるので、米株式やドル建ての商品は売られ、NYダウとCRBは10月7日以来の安値を付けた。欧州投資家の株式や債券市場への影響力は大きくユーロ安がさらに続けば、年初来安値を更新中の日本株だけでなく欧米株も一段安となるだろう。
10月の米鉱工業生産指数は前月比0.7%と3ヵ月ぶりのプラスになったが、伸びに寄与したのはエネルギーや素材であり、ハイテクは0.1%増にとどまった。10月の小売売上高は前月比0.5%と悪くはない。ただ、家電、建築・ガーデニングや食品小売業等に伸びが偏っており、伸びが持続するかどうか疑問だ。10月の住宅着工件数は62.8万戸、前月比0.3%減少したが、一戸建ての動向には大きな変化はなく、低水準で推移するだろう。10月の個人消費支出は前月比0.1%と低い伸びにとどまり、小売売上高が示すようには消費は強くない。可処分所得の伸びは9月よりは高くなったが、それでも0.3%増と低く、消費支出が本格回復するには力不足である。景気先行指数は10月、前月比0.9%伸び、9月の0.1%を大幅に上回ったが、ディフージョン指数は90.0%にまで上昇したことや景気一致指数のディフージョンが100%を付け、景気拡大が経済全体に波及したことをあらわしており、米景気はこれ以上に良くはならない局面に到達している。
7-9月期のユーロ圏GDPが前期比0.2%と4-6月期と同じ低い伸びとなり、景気後退のリスクは高まっている。9月のユーロ圏鉱工業生産指数は前月比-2.0%と3ヵ月ぶりのマイナスとなった。特に、ドイツは-2.9%と2ヵ月連続で前月を下回り、ピークアウトした可能性が高い。7月のドイツの鉱工業生産指数は前回(08年4月)のピークに近い水準まで回復しており、日米が依然前回のピークを大幅に下回っているのとは対照的である。
景気により敏感な製造業新規受注(ユーロ圏)は9月、前月比-6.4%と大きく落ち込んだ。指数は106.5と5月のピークから7.5%低下し、昨年10月以来約1年ぶりの低い水準だ。なかでもドイツの新規受注は3ヵ月連続減と失速しつつあり、ユーロ圏の最強国であるドイツの設備投資の冷え込みがユーロ圏経済の足を引っ張るようになってきた。
ユーロ圏経済が冷え込みつつあるときに、欧州委員会は国債が売り込まれた国を中心に財政規律を一層厳しく査定する方針を打ち出している。だが、これでは景気下降を後押しするようなもので、欧州経済は急坂を転げ落ちることになるだろう。経済が悪化すれば、歳入は減少することになり、財政赤字がますます拡大することは必至だ。米国の住宅や雇用は回復とはとてもいえない状況にあり、米国も政治のリーダーシップを発揮することができなくもがいている。
日本はまったく能天気な政治家ばかりで、原発ひとつでさえ政治家は踏み込めず、従来の支配者がいまだに舵を取るありさまである。東電の統治は会社任せであり、リストラは進展せず、いまだに上場しているという不思議な国である。為政者は原発から目をそらせるためか、次から次へと国民に注文を突きつける。政治家や官僚の責任逃れや情報の隠蔽等により、原発問題を正確に把握できず、問題の核心に近づくことができないため、莫大な時間と金の無駄がでてくるだろう。日本は原発と放射能に貴重な資産、資源を吸い取られてしまい、経済の衰退に拍車をかけている。
ユーロ圏には政府の財政赤字はGDP比3%以内、債務残高は同60%以内という財政協定があるが、非常時にはこれを弾力的に運用する以外には対処方法はないのではないか。1993年以降、ユーロ圏全体で債務残高60%以内が守られた年は一度もないのである。そもそも破られ放しの協定など協定といえるのだろうか。
財政赤字はGDPの伸びと逆相関の関係にあり、成長率が低下すれば、財政赤字は上昇する。短期的には成長率が高い年もあれば低い年もある。経済が悪化したときには財政の出動により、悪化を緩和することができる。経済が好調なときには財政を緊縮的にしなければならないが、不況のときと変わらぬ財政規模を維持していたことが債務を膨らましたのである。
だが、長期的には成長率は低下傾向を示しており、成長率の低下と政府の役割が重くなるのは資本主義経済の定めといえる。日本の戦後の経済成長率の段階的低下は顕著だが、欧州についても同じことがいえる。ユーロ圏の実質GDP成長率は1960年代の10年間平均は5.3%であったが、70年代(3.4%)、80年代(2.4%)90年代(2.2%)2000年代(1.1%)という具合に逓減傾向がはっきりでている。
90年代は、1990年10月のドイツ統一や1991年末のソビエト崩壊といった歴史的出来事が起こったが、成長率の低下に歯止めは掛からなかった。東側が西に組み入れられ、新たな需要が発生したが、それでも成長率の上昇は起こらなかったのである。IT革命による新製品やサービスが飛躍的に伸びた時期でもあるが、0.2ポイントの成長率縮小にとどめる程度の影響しかなかった。
第2次世界大戦の大破壊後の復旧復興に伴う大規模な設備投資が、欧州経済の高成長を実現させたが、社会のインフラが整ってくると、設備投資の規模は小さくなり、消費性向も徐々に低下し、成長率は低下していく。人間が年を取るにつれて活力が衰えるのと同じように、経済社会も成熟していけば、かつてのような高い成長はできない。経済に占める民間の割合が低下し、政府部門が拡大していくのは、資本主義経済の避けられない道なのである。