ユーロと『短観』の問題

投稿者 曽我純, 7月5日 午後5:29, 2015年

6月末、5月のユーロ圏失業率が公表されたが、全体では11.1%と前月比横ばいであった。低下しているとはいえ、ピークから約1ポイントの低下にとどまり、金融危機以前の水準よりもはるかに高い。一方、米国は6月、5.3%となり、ピークから約5ポイントも低下し、2桁のユーロ圏とは対照的である。今年第1四半期の実質GDPの前年比伸び率は米国の2.9%に対して、ユーロ圏は1.0%であり、成長率の格差は大きく、それが失業率にも現われている。

金融危機から6年以上経過しているが、ユーロ圏経済がこのように低迷しているのはなぜか。共通通貨ユーロに伴う金融政策と緊縮財政のふたつが、ユーロ経済の低迷の原因になっているといえる。政策金利は同じだが、長期金利は市場に委ねられ、各国の経済・信用状態を反映するため、長期金利には極端な格差がみられる。まさに経済・信用状態がそのまま映し出されているのだ。ユーロ圏の盟主であるドイツの10年物国債利回りは週末、0.79%だが、ギリシャは14.01%と途方もなく開いている。これでは強いドイツ経済は安いコストで資金を調達でき、ますます経済は拡大することになる。半面、ギリシャはこれほどの高コストの資金ではビジネスは成り立たない。富める国はますます富み、貧しい国はますます貧しくなるのがユーロ導入の現実なのだ。

5月のドイツ失業率は4.7%と米国を下回り、ユーロ圏では最低である。一方、ギリシャは25.6%とユーロ圏でもっとも高い。これだけ失業率が高く、経済が疲弊しているにもかかわらず、ゼロ金利の恩恵はまったく受け取ることができないのである。ゼロ金利の恩恵を受けているのはユーロ圏で最強のドイツ経済という皮肉な結果になっている。

ドイツはもともと財政規律にやかましい国であったが、そのドイツがユーロ圏に対しても同じような姿勢を貫いていることが、ユーロ圏経済の低迷の原因でもある。金融危機直後、直ちに財政出動した米国とそうした対策を採らなかったユーロとの違いが、今の経済にはっきりと現われている。

EUがギリシャに突きつけるのは緊縮財政である。失業率が25%を超えている国に財政規律を課すことになれば、経済はさらに悪化し、失業率も上昇するだろう。金融政策が機能しない状況下で、経済を立て直す手段は財政しかないではないか。その財政の手足が縛られるならば、経済の収縮速度は増すだろう。

共通通貨の導入は「豊かな国」から「貧しい国」への支援を前提にしなければ成り立たない。累進課税が必要なのである。すべての分野で異質なユーロ圏の国をあたかも同じように扱うことはできない。足りないところはみなで補い合うことで、纏めていくしかないのである。そうでなければユーロ共同体は成立しない。豊かな国が出し惜しみするようでは、ユーロ経済の将来はない。豊かな国が支出を渋ることになれば、延いては、豊かな国も有効需要の不足に見舞われることになるからだ。

 

7月1日、6月調査(回答期間は5月27日~6月30日)の『短観』が公表された。大企業製造業の業況判断は15と3ヵ月前に比べて3ポイント改善した。先行きは16と緩やかに改善すると予想されている。今期計画では売上高は0.9%と前年の伸びを下回っている。国内売上は0.1%、輸出は2.8%と3月時点よりも国内は下方修正、輸出は上方修正された。

『短観』の2日前の6月29日には『鉱工業生産』が公表された。5月の生産指数は97.1と前月比2.2%低下し、昨年8月以来9ヵ月ぶりの低水準となった。前年比では4.0%減少し、2013年6月以来約2年ぶりの減少率である。在庫は前月比0.8%減と4ヵ月ぶりに減少したが、在庫率指数は1.9%増加し、在庫は思うように減少していない。在庫を多く抱えているのは資本財(輸送機械を除く)であり、5月の在庫は前月比-0.6%と5ヵ月ぶりに減少したが、依然高水準にあることに変わりない。生産が減少し在庫が高止まりしている状況で業況判断が改善などするのだろうか。

大企業非製造業の業況判断は23と前回よりも4ポイント高く、製造業よりも水準は高い。だが、前期、今期の売上高は前年比0.8%、0.6%へとそれぞれ下方修正され、製造業売上高の伸びをやや下回る。それでも業況判断は製造業よりも良いのである。

大企業の業況判断は改善を示すけれども、中堅・中小はほぼ横ばいである。全規模全産業でみれば、「良」が「悪い」を7ポイント上回る状態が続く結果となっている。

業況判断は、1「良い」2「さほど良くない」3「悪い」の1から2を引いて求められる。1の「良い」だけみれば大企業製造業で6月、22%、先行き20%へと低下している。2が71%から76%に上がり、3が7%から4%に低下する。「良い」の比率が低下しても「悪い」の比率がより低下すれば、業況判断は改善するのである。

 鉱工業生産指数と大企業製造業の業況判断との相関性は強い。業況判断は鉱工業生産指数に沿った動きを示している。なぜこれほど生産に沿うようになめらかに変化するのだろうか、不思議な統計だと思う。

6月の大企業製造業の業況判断は15であり、5月の鉱工業生産指数は97.1であった。ITバブルのとき生産指数は108.7まで上昇したが、業況判断は10までしか上昇していない。今よりも生産指数は上昇したが、業況判断は現状よりも低い。しかも生産が低下傾向を示しているときにITバブル期を上回る業況判断がでるのはなぜか。いろんな疑問が湧いてくる。

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