安倍首相の政策は小泉政権の踏襲にすぎない。過激な言葉で印象付け、国民に幻想を振りまく手法だ。「改革なくして成長なし」と米英の市場主義を借りて、あたかも日本経済がよくなるように触れ込んだ小泉政権を髣髴させる。「日本経済再生本部」を立ち上げ、名目3%成長を目指すというが、09年まで政権を担当し、深刻なデフレ経済に陥らせた自民党が、再登場したからといって、どうなるものでもない。名目3%のような高い成長が可能であれば、小泉政権のときに実現できている。それができなかったのは、すでに、日本経済に成長する力がないからである。成長力がないことに加え、需要をなくす政策を推進したのも自民党なのだ。
名目経済成長率3%超を見つけるには21年前の91年度まで遡らなくてはならない。バブルの余熱が覚めやらぬころである。それほど過去のことなのである。その当時に戻ることなど夢の夢である。まさに幻想、舌先三寸なのだ。言葉ではなんとでもいえる。が、日本経済ははっきり下降経路を辿っており、過去20年以上も経験していない3%成長をなにの根拠もなく放言する。政治家の周りに取り付く人がそれをさらに煽る。原発の安全性を妄信したのと同じことが政治、経済でも行われているのである。
成長など夢物語の戦略を説いてなにになるのだろうか。国民を騙す人気取りでしかない。マスコミも右から左へ「成長重視へ転換鮮明」(朝日、1月8日)と報じる。過去の日本経済をすこし振返れば、成長など謳うこと事体おかしいと気付き、しっかりしたコメントを加えなければならない。
9週連続の株高、円安ドル高とバブル相場の真っ最中。すべて外人の仕掛けであり、いつ崩壊してもおかしくない。業績など無視した投機相場であり、ファンダメンタルズから乖離している。日銀を責めることで円安が進行しているが、円安で物価が上がれば、今の家計の状態では消費を絞り、輸出増を相殺する以上に景気に悪影響するだろう。
今年度4月~11月の貿易統計によると、輸入が輸出を4.8兆円上回っている。2012年上半期の貿易取引通貨別比率をみると、輸出は米ドルが42.1%、円が40.4%に対して輸入は米ドル73.7%、円22.0%と輸入のドルの影響が大きく、物価上昇圧力を受けやすい。輸入額が輸出額よりも大きく、輸入のドル建て比率が高いことは、かつてのように円安ドル高が輸出を増やし、景気を良くすることよりも、物価高という悪い側面でやすい。円安ドル高は今までとは異なる影響を日本経済に及ぼすことを安倍首相は肝に銘じてもらいたい。
過去10年間で最も高い成長は2010年度の1.3%であり、しかも4回はマイナスであった。もはや日本経済は拡大ではなく縮小段階に入っているのである。なにしろ人口減と高齢者急増、所得不平等の拡大によって、消費は減ることはあっても増えることはないのである。
消費を増やすには所得が増えなければならない。所得が増えるにはものが売れなくてはならない。だが、買う人が減っており、しかも若者は減り年寄が増えているので、食品にしても人口の減り方以上に減少することになる。衣食住すべてにわたって、今年よりも来年、来年よりも再来年の消費需要は減退していくのである。
日本経済の問題は縮小していくなかで、いかに満足の得られる生活を送ることができるかなのだ。米国型の大量生産大量消費を真似てきたが、そのような自転車操業の使い捨て経済では日本はもたないのである。より少ない生産・支出で満足の得られる経済といえば、よい商品を大切に長く使うことなのだ。昔に比べ今は長く乗るようになったが、1年でも2年でも車を長く乗れば、それだけ支出を減らすことができる。自動車は売れなくなるが、他の支出に回せるし、資源の浪費を抑えることにもなる。
家庭外支出を抑制し、家庭内に取り組む必要がある。GDPは少なくなるが、中身は充実することになる。徐々に日本の身の丈に合った、欧米の物真似ではない経済構造に転換することが大事なのである。われわれの生き方に工夫を凝らし、日本独自の生き方ができるかどうかが問われているのだ。このままずるずるいままでの生活を続けていくのか、すこしでも主体性を表に出していくのかである。
所得格差が大きくなればなるほど、消費は不振になる。消費が落ち込むだけでなく、社会が不安定化していく。「まじめに働く人が報われる社会」と政治家はいうが、正規と非正規の違いでとんでもない所得格差が生じ、これではまじめに働く人が馬鹿を見ることになる。同じ仕事をしていながら正規、非正規という雇われ方だけで、所得格差が生まれ、派遣会社が儲かる制度を改革しなければならない。
日本企業の社員拘束時間は長く、決められた就業時間で退社できる社員は少ない。依然だらだらと仕事をし、長く働いているような人の評価が高いのである。有給休暇も取得率は低く、職場環境は休暇を取りにくい。制度はあるがまったく機能していないのだ。育児休暇も導入が進まず、導入していても取りずらいのが実情だ。企業内部に休暇を取りにくい雰囲気が満ちており、社員同士が互いに牽制し合っている。最後には「追い出し部屋」に追い遣られ首を切られるというのに。なんと企業は情けないことをしているのか、これでは企業は自滅するのみである。日本経済が悪くなっている要因のひとつに、企業経営が経営といえる水準まで到達していないことを挙げることができる。普通のことを普通にできなければ、それ以上には進めないのだ。
人口減、所得格差拡大は自民党によって作り上げられたのである。所得税の累進性を緩め、法人税率を引き下げ、非正規労働者を生み出し、原発を推進し、財政赤字を垂れ流し、バブル経済による不良資産の山をこしらえた自民党が今の経済を築いたのである。
原発推進に舵切る自民党は、原発の不良資産の山をますます大きくし、原発不良資産が日本経済を押しつぶすだろう。原発を動かせば動かすほど核廃物は溜まり、永久に保存しなければならない核廃物増える。日本経済は核廃物というごみで身動きが取れなくなる。核廃物の捨て場もないのに、原発を動かす、子供でも分かることが、総理大臣には分からないのである。
福島原発の廃炉費用にいくら掛かるかわからない。90年代以降、金融機関を始め家計、企業は巨額の不良資産を抱え、これの償却に四苦八苦し、日本経済を根底から揺さぶった。それでも不良資産はゼロまで減価することはなかった。最悪、紙切れにはなったが、それ以下になることはなかった。だが、原発はそうではない。マイナスにしかも兆単位のマイナス資産になる。福島原発の崩壊した4基を処理するために、とほうもない金が掛かるはずだ。
東電のバランスシートをみると、2012年9月末の原発設備は7,241億円、事故以前の2010年3月末よりも563億円増加している。核燃料が熔けている4基以外もすべて止まっているが、原発設備は増えているのである。一時的な停止で資産価値をそのままに据え置くという非常識な会計処理が平然と行われている。原発施設以外では、核燃料(8,348億円)、使用済燃料再処理等積立金(1兆740億円)が計上されている。
東電所有の原発設備の価値は、総資産(15.5兆円)を超えるマイナスの不良資産になるはずだ。2011年度の東電の売上高は約5.3兆円、当期純損失は7,816億円である。すでに巨額の赤字に陥っている東電が、これから発生する損失を穴埋めすることは不可能である。結局、電気料金と税金で何十年もの長期負担していかざるを得ないのだ。当事者のだれが責任をとることなく。東電は東電がしなければならないことを国民に負債として被せるのである。
毎年、兆円単位の金が溝に捨てられていく。マイナス資産の穴埋めに、このような無駄な金が延々と使われ、消えていくのである。1990年代の不良資産よりもたちの悪い、放射能を撒き散らす毒物のために、国民の貴重な稼ぎが消滅する。原発不良資産処理のために日本経済はまっとうなところへ回せる資金が吸い取られ、日本社会の足枷になる。それでもまだ自民党は原発を新設し、動かしたいのだ。地震列島日本に50基以上の原発が稼動し、過酷事故が起これば、日本は壊滅するリスクがあるにもかかわらずに。
そのように危険極まりない原発、安全といえない原発など即刻止めるべきだ。電気は火力発電だけで十分にまかなえる。原発はあるだけで管理、保守など下請け労働者の犠牲の上に成り立っている。今も福島原発で何千人の人が働いているが、東電社員はわずかなはずだ。大半は下請けであり、東電社員は手を汚さないのである。
東電が事故を起こしても、東電社員だけではどうすることもできないのだ。自分で自分の後始末もできない原発にいまだに固執する東電。放射能汚染で広大な土地を住めなくしても、まだ原発に執着する東電。どれだけの事故を起こせば原発を諦めるのだろうか。第2次大戦末期の原爆投下の凄惨な事態と同じことが起きているが、それでも原発を止めないことは、日本全体を道連れにしたいからなのだろう。