政治屋の為替発言により、為替と株価は乱高下したものの、結局、円ドル相場は10週連続の円安ドル高に動き、日経平均株価も10週連続高となった。実体経済に変化がないなかで相場だけが極端に変動することは、それだけ相場が実体から掛け離れていっていることをあらわしている。日銀に2%の物価目標を無理やり掲げさせ、公共事業に金をつぎ込む。そのような腕力に任せた強引なやり方で経済がよくなるだろうか。公共事業に金をばら撒けば、景気は一時的にはよくなるけれども、線香花火のようにすぐに効果は消える。日銀への圧力や公共事業拡大は、いまだに成長を信奉する政治屋の足掻きだ。
円安株高だが、国債利回りは1月第1週までの5週連続の上昇から、2週連続で低下し、先週末0.75%で引けた。12月上旬には0.7%を下回っていたが、依然歴史的な低水準を維持しており、円安株高の影響はみられない。これだけ円安が進行すると、国債は売られ、利回りは上昇するが、国債相場は反応薄である。国債利回りが上昇しないことは、企業の収益率にも変化がないということである。安倍首相の経済政策では日本経済は良くならず、今の株高円安は一時的な現象であることを示唆している。
それにしても日本株の出来高は異常に増えている。東証1部の出来高は今年に入り、10営業日連続の30億株超である。売買代金は2兆円前後に急増している。まさにバブル相場である。急増以前は20億株にも満たなかったが、一気に超活況となった。
20億株前後の商いができていること事態が異常な出来高なのだ。1980年代後半のバブル期でも最高が1988年の10.2億株(1日平均)であり、バブルピークの1989年は8.7億株に減少し、1992年には2.6億株に落ち込んでしまった。それが、盛り返し2003年に12.5億株と過去最高を更新、その後も増え続け、金融危機後の2009年には22.7億株に膨れ、過去最高を更新した。今の出来高はそれをはるかに越えているのである。まず世界でもみられないバブル相場がいま起こっているといってよい。
NYダウは過去最高値に接近しつつある。だが、国債利回りは1.85%と実体経済の成長率に比べると異常に低い。NYダウが過去最高を付けた07年10月頃の利回りは4.6%であった。利回りはその3ヵ月前にピークを付け低下しつつあった。米国債利回りは07年7月をピークに長期低下基調にあり、株価もそれと同じような動きをしていたが、2010年8月頃から利回りは下がるが、株価は上がり、利回りと株価の相関関係は成り立たなくなってしまった。
国債利回りと株価の関係を断ち切ったのは、FRBの量的緩和(QE)である。特にQE2(2010年11月)では政策金利を長期間ゼロに据え置くと表明し、国債利回りの長期低下を主導した。昨年9月のQE3では2015年半ばまで政策金利を極めて低い水準に留める声明を出した。こうした長期的なゼロ金利継続宣言によって、国債は安心して買われ、利回りは異常に低い水準に低下してしまった。FRBは米国債相場を歪めてしまい、適正水準がわからなくなってしまった。
日銀の2%の物価目標など「百害あって一利なし」だ。物価が2%も上がっていけば、消費は一層削減され、経済は大幅に後退するだろう。経済が悪化することに、国債利回りの急騰が加わり、日銀を始め金融機関は巨額の損失を被ることになり、金融危機に陥る。
物価安定を損なうような目標を掲げることは、日銀は政策目標を放棄したことになる。政治屋の言いなりになるだらしない日銀が露呈してしまった。すくなくても経済的な論理に則り、政治屋の暴言には与しない姿勢を示してもらいたいものだ。
昨年末の日銀総資産は158.3兆円と2ヵ月連続で過去最高を更新した。07年央には100兆円まで縮小したが、5年半で58兆円も増加した。総資産のうち国債は08年末を底に拡大に転じ、4年で50兆円も増え、今や113兆円規模だ。06年央から始まった共通担保資金供給が30.6兆円ある。これだけ資金供給しても昨年7-9月期の名目GDPは前年比0.3%減とさっぱり実体経済には効いていない。
昨年12月の日銀券発行高は前年比2.8%増加しており、名目GDPの伸びよりも高く、実体経済に照らして日銀券を過剰に発行しているのだ。日銀はすでに必要以上にマネーを供給しているのであり、このような状況を続ければ、良からぬ分野に金が回り、逆に実体経済を痛めつけることになる。
過剰な金が行きやすいのは株式や為替などの投機市場である。株式や為替は糸の切れた凧のように、実体経済とはしばしば無関係に乱高下する。そして実体経済を振り回すことになるのだ。株が上がればなにか景気が良くなったかのような錯覚を与える。政治屋も経営者もマスコミもそのように触れ回る。なんと現象だけを追いかける軽率な人たちだろう。何度痛い目に合ってもまた同じ事を繰り返すのである。
日銀の過剰な資金供給はどこに向かっているのだろうか。銀行は貸出が伸びないので、国債の購入に走っている。昨年11月の銀行の国債保有額は162.9兆円、07年末の約2倍に急増し、政府の財政赤字の財源に使われているのだ。日銀の資金供給である買いオペといっても、つまるところ財政赤字の補填なのである。これからも日銀は資産買入額を増やすが、いくら増やしたところで、政府の歳入不足額の原資になるだけで、民間非金融部門には流れ出さない。
民間非金融部門で新たな資金需要が発生しない現下の経済では、日銀が買いオペをしようとしまいと銀行に預金が流入する限り、余剰資金は国債購入に投じられる。日銀が買いオペをしなければ、銀行は今よりももっと多量の国債を保有していただろう。設備投資や輸出超過額が一定であるならば、家計等からの銀行預金が増加し続ける貯蓄過剰経済では、過剰貯蓄は国の財政赤字に向かわざるを得ない。だが、預金残高が増加しなければ、銀行は国債を新たに購入することはできなくなる。もし、銀行預金残高が減少するような預金の純流出が起こることになれば、銀行は預金者に預金を返すために、保有している国債を売却するだろう。
日本のように縮小経済に陥っていると、超過貯蓄もいずれなくなり、その後、貯蓄取り崩しが起こる。『国民経済計算』によると、2011年末の家計の現預金残高は838兆円と5年連続増である。が、過去10年間に3回は現預金残高がマイナスになっており、今後の高速高齢化社会では現預金の取り崩しが行われるだろう。土地やその他の金融資産を加えた総資産から借入などの負債を差し引いた家計の正味資産は2,195兆円と過去10年で86兆円減少した。約2年後には団塊世代が65歳以上になり、貯蓄を取り崩すペースは速まるだろう。