バブル期の遥か上空を行く日本株

投稿者 曽我純, 2月16日 午後5:24, 2014年

先週末、円ドル相場は12週ぶりに101円台で終わり、円高ドル安が続いている。昨年末比では3円49銭の円高ドル安だ。FRBが債券購入額を削減し、金融引き締めに転じているが、ドルは上昇しない。円安ドル高で日本株は買われていただけに、円高ドル安は外人の売りを誘い、日本株は5週連続安となった。財務省によると、外人は日本株を2月第1週まで3週連続で売り越しており、合計売り越し額は1兆円弱に達している。外人が売り越しに転じると、日本株はとたんに値崩れしてしまう。日経平均株価は昨年末比12.1%も下落してしまった。

昨年4月に発表した日銀の大規模国債買いに外人が飛びつき、日本株は急騰したが、実体経済は公共事業と消費税引き上げの駆け込み需要といった特殊要因に支えられているだけで、本質はなにも変わっていないことに外人も気付きつつある。また株高の最大の要因である円安ドル高も輸入超過国ではデメリットが大きく、円安は国内経済にマイナスになることも明らかになってきた。このような代わり映えのしない実体経済、経済を良くするのではなく悪くする円安ドル高では、日本株の魅力は失せる。

1月の『消費動向調査』によると、消費者態度指数は40.5と2ヵ月連続の低下となり、『景気ウオッチャー調査』の景気の先行き判断DIは49.0と2012年11月以来の50割れとなった。昨年12月の機械受注も船舶・電力を除く民需は前月比15.7%減と過去最高の減少率を記録、今年1-3月期も前期比2.9%減少する見通しである。昨年12月の経常収支は6,386億円の赤字となり、これで赤字は3ヵ月連続である。円安ドル高で輸入代金が急増し貿易収支が悪化しているからだ。

2013年の貿易赤字は10.6兆円と2012年の倍に拡大し、赤字は3年連続である。所得収支が過去最高の16.5兆円の黒字を計上できたため、経常収支は3.3兆円の黒字を確保することができた。経常収支は2007年、24.9兆円の過去最大を記録したが、その6年後には3.3兆円に激減してしまい、1983年(2.0兆円)以来30年ぶり小幅になり、今年の経常収支はさらに悪化するだろう。1983年の経常黒字・GDP比は1.8%だが、2013年は0.7%となった。

日本は2011年から輸入超過になっており、それが円安ドル高で拍車が掛かった。2011年上期の貿易取引通貨別比率によると、輸出ではドル47.4%、円42.2%、輸入ではドル72.1%、円23.2%であった。昨年下期のドル建て輸出は53.4%、輸入は74.1%である。輸入ではドル建て比率は上昇しており、円安ドル高の影響は輸入により大きく現れる構造になっている。

貿易収支悪化要員に液化天然ガス等の輸入増が挙げられているが、昨年の液化天然ガスの輸入量は前年比0.2%しか増加していない。が、金額では前年比17.5%増の7兆円に拡大した。2012年は数量の11.2%に対して金額は25.4%も増加している。過去3年ほど液化天然ガス価格は大きく変動していないが、円安ドル高により輸入額は異常に増加している。原油等の輸入量は昨年、0.6%減となり、2005年に比べれば15%もの減少だ。金額では昨年は14.2兆円、前年比16.3%増だが、08年の16.2兆円を下回っている。

貿易収支悪化の原因は化石燃料ではなく、円安ドル高と世界経済の足取りが依然不確かなことにある。昨年、輸出は69.7兆円と3年ぶりにプラスになったが、07年の過去最高(83.9兆円)を14.2兆円も下回っている。一方、昨年の輸入は81.2兆円と08年(78.9兆円)を抜き過去最大を更新した。輸出の主力製品である乗用車は昨年、金額では15.1%増だが、数量では前年を1.2%下回った。

トヨタをはじめ自動車メーカーの利益は急増しているが、為替要因によるところが大きい。昨年12月までの9ヵ月のトヨタの営業利益は1兆8,559億円と前年同期を1兆374億円上回った。が、この増益分のうち8,000億円は円安によるものである。他の自動車メーカーも押しなべて円安で潤っており、輸出が好調ということではないのである。いまのところ駆け込みで国内新車販売は好調だが、来期は反動減に見舞われ、業績は悪化するはずだ。好調といわれている自動車メーカーでさえ為替益を除けばありふれた業績になる。他は推して知るべしだ。企業業績の中身をみると、心細く先行き不安を抱かされる。株価を動かす最大の要因である期待収益で日本株は見切りを付けられているのかもしれない。

今年に入ってからも東証1部の売買代金は1日当たり3兆円を上回る日もあり、流通市場は依然活況を呈している。昨年の1日当たりの売買代金は過去2番目の2.6兆円であったが、それに近い水準を維持しており、実体経済と照らし合わせても、流通市場は異常に膨らんでいるといえる。

バブル期の1989年の1日当たり売買代金は1.3兆円であり、昨年はその倍の規模なのである。1995年以降、日銀は政策金利をゼロ近くに引き下げたが、それとともに売買代金は拡大し、04年には1989年を抜き、その後3年連続で過去最高を更新した。ピークの2007年には3兆円に膨らんでいた。2008年以降5年連続で減少したが、それでも2012年は1.23兆円と1989年に匹敵する規模であった。それが日銀の派手な金融政策により2013年は前年の2.1倍に急増し、過熱を来たしていることは間違いない。

 東証1部の売買回転率は昨年、代金で169.6%、株数で220.9%と代金では5年ぶりに、株数では8年ぶりに過去最高を更新した。株数では全上場株式数の2倍以上の規模の取引があったことになる。バブル期の最高である1988年(98.1%)と比較しても2003年以降の株式流通市場が、いかに異常な事態を続けてきているかがわかる。

売買代金・GDP比率といった株式市場と実体経済との関係をみても、現状は異常だというシグナルを発している。昨年の同比率は133.9%と2007年(143.4%)に次ぐ過去2番目であり、1989年(79.8%)をはるかに超えている。株式はいかに実体経済から掛け離れて舞い上がってしまっているかを示している。博打で経済が良くならないのと同じように株式が活況になることでは経済は良くならないのである。発行市場がお寒い状態では、株式売買がいくら盛んになっても経済に何も付け加えることができないからだ。

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