NYダウは前週比+0.4%と7週間ぶりに上昇した。ハイテク関連企業が多いナスダックは下げ止らず、5週連続安となった。米国経済の減速によって国債利回りは3週連続3%を下回り、CRBは1月下旬以来4ヵ月半ぶりの低い水準に下落した。実体経済が減速しているなかで商品だけが上昇することは不可能であり、商品市況は一段下げるだろう。米国経済が弱くなれば、円高ドル安にぶれやすく、1ドル=80円を上回る円高が定着しそうな経済条件が整いつつある。
6月のNY製造業経営指数が昨年11月以来のマイナスに転落し、6月の消費者センチメント指数も前月を下回るなど、足元の米国の経済状況は悪化している。結局、雇用の改善の遅れが消費支出の拡大を妨げ、生産の伸び悩みの原因にもなっている。5月の商業銀行の不動産貸付は前年比5.5%減と過去最低を更新した。一方、商業銀行の現金保有高は1.67兆ドル、総資産の13.6%を占めるなど、商業銀行の経営指標はいずれも景気の回復とは程遠い内容を示している。
米鉱工業生産指数は5月、前月比0.1%伸びたが、4月は横ばいであり、生産はほぼ停滞している。自動車・同部品が2ヵ月連続のマイナスになったことが影響しているが、それを除いても0.1ポイント上昇するだけで、大勢に影響はない。前年比の伸び率は3.4%と昨年12月の6.8%をピークに5ヵ月連続の低下である。特に、消費財は今年に入ってほとんど伸びておらず、前年比では1.7%増にとどまっている。
5月の小売売上高は自動車、家具、家電、食品等の主要小売業が軒並み前月比マイナスとなり、総額では0.2%減少した。前年比では7.7%増加しているが、原油の値上りでガソリン販売が22.3%も拡大したため、これだけで前年比伸び率を2.3ポイント引き上げた。住宅着工が歴史的な低水準にとどまっているため、家具や家電は前年比0.4%、-0.3%といずれも低調である。実質ベースの可処分所得がほぼ横ばいになっているため、ガソリンへの支出増が他の分野の販売に皺寄せしているようだ。
|
5月の景気先行指数は前月比0.8%と2ヵ月ぶりのプラスになり、景気拡大の持続を期待させた。が、先行性の強い一致・遅行指数は0.2%低下し、2ヵ月連続の低下である。一致指数は過去3ヵ月、微増で推移しており、米国景気の先行きは不透明になってきている。
生産や販売が弱いにもかかわらず、5月の消費者物価指数は前年比3.6%と08年10月以来約2年半ぶりの高い伸びとなった。食品・エネルギーを除くコアも前年比1.5%と5ヵ月連続で伸び率は高くなり、昨年1月以来の高い上昇率だ。米国の物価はじわじわ上昇しており、ゼロ金利政策や国債買いオペの弊害があらわれてきている。
ゼロ金利下で物価が3.6%も上昇していることは、実質金利はマイナス3.6%となり、借手有利だ。長期国債の利回りも物価上昇率よりも低いため、実質的にはマイナスである。
ただ、いつまでもこのような状態が続くことはなく、早晩、国債利回りは上昇し、マイナスの実質金利は解消されることになる。6月末まではFRBは国債買いオペを実施するけれども、7月以降はFRBの買いが入らず、堅調な債券相場を維持することは難しくなる。本来、実質利回りがマイナスであれば、魅力がないはずだが、FRBの買いによって値上りが期待できるため、債券相場は上昇してきた。昨年11月以降、FRB保有の財務省証券は7,381億ドルも増加している。月平均900億ドル以上の財務省証券を購入してきた。7月からはFRBの買いは急速に萎み、債券利回りは現状の水準から、物価上昇率や名目GDPの伸び率に近いところまで上昇していくだろう。
米国経済は、一般物価水準は緩やかに上昇しているが、住宅価格は下落し続けているという難しい問題を抱えている。債券利回りが上昇すれば、下落している住宅価格を一層押し下げ、家計の資産を痛め、金融機関の不良債権増を招くことになる。ゼロ金利を維持すれば、投機が強まり、商品相場などが行過ぎることになり、一般物価水準の上昇に繋がる。政策金利を上げれば、投機相場は収まるけれども、住宅需要を弱め、住宅価格の下落はさらに強まるだろう。
FRBは6月末に総額6,000億ドルの買いオペは止めるが、ゼロ金利は継続するだろう。金利は下限に張り付いているのだから、次の手は引き上げしかないが、底這いを続ける住宅着工や下落する住宅価格をみると、現状維持以外には考えられない。政策金利と物価上昇率には矛盾する関係があるが、取り敢えずそのことについては目をつぶっておくというわけだ。
住宅バブル破裂により、米国経済は激しい収縮を経験したが、その後の回復を導いたのは、金融政策と財政政策の2本柱が大いに効果を発揮したからだ。大規模な買いオペは打ち切りとなるが、ゼロ金利は継続され、財政支出は拡大から縮小へと方向転換される。住宅バブル破裂後も住宅市場は超低空飛行を続け、いつ失速しても不思議ではない。ストックが毀損し、民間部門の足取りがたどたどしいときに、緊縮財政に踏み切れば、景気は後退に陥りかねない。こうした景気後退不安シナリオが消えない限り米株式はときに激しく売られるだろう。
株式を実体経済との比較でみても、いまだに株式が実体を上回る速度で伸びていることが分かる。株式価額・名目GDP比は2011年第1四半期、161.5%と株式価額がGDPを大幅に上回っている。09年第1四半期には1995年第2四半期以来の100%割れとなったが、その後上昇し、2011年第1四半期には07年第4四半期以来の高い水準に戻った。
株式価額・名目GDP比は、1990年代半ばまでは30%台から高くても100%程度の範囲に収まっていたが、90年代後半からは急上昇し、2000年には200%超まで上昇するなど変動が激化しながらも概ね100%超が常態化している。つまり、株式が実体経済を上回る速度で拡大し続けているのである。だが、株式が実体経済から乖離した状態が持続するとは考えられない。
|
株式の実体経済からの遊離は、異常な金融政策が大きく影響している。それによって不良資産を公的部門が抱え、顕在化させず、表面を繕っているが、保有している限り経済は健全ではなく、米国経済は不安定な状態から抜け出すことは難しい。株式は経済の鏡と言われているのであれば、遅かれ早かれ実体経済に収斂していくだろう。