ナショナリズムが経済を脅かしている

投稿者 曽我純, 4月23日 午後4:09, 2017年

原油価格が前週比6.7%も下落したため、CRB指数は同3.1%低下し、昨年9月19日以来約7ヵ月ぶりに低い水準だ。商品市況が悪化するということは、需給が緩み、原材料取引が不活発になってきているからである。最終需要が弱含みとなり、企業は原材料の手当をすこし減らしているのだろう。4月のユーロ圏PMIは6年ぶりの高い水準だが、米国のPMIは7ヵ月ぶりの水準に低下し、ユーロ圏と米国の景況は対照的だが、金利の動きには変化がない。商品市況の下落だけが目立つ。
主要国の3ヵ月物の短期金利にも変化はみられないし、10年物国債の利回りは低下気味である。利上げした米国でさえ国債利回りは昨年末を下回っており、長短金利差は縮小している。通常の景気拡大では短期資金需要の高まりによって、短期金利が長期金利よりもより早く上昇するため長短金利差は縮小するけれども、今は、短期金利は一定で長期金利の低下によって長短金利差は縮小している。
ユーロ圏の景気がよいのであれば、そのことが為替相場にも表れてきてもよさそうだが、対ドルのユーロ相場は過去数ヵ月、小幅な動きに終始しており、大きな変化はない。ユーロには景気よりも23日投票のフランス大統領選が大きく影響しているのだろう。イギリスの離脱に加えてフランスも同じ道を選択することになれば、EU(欧州連合)は危機的になるだろう。そして、ユーロの急落は避けがたいものになるはずだ。
100年ほどの間に2度の悲惨な戦争で欧州は破壊されたが、こうした惨状を2度と繰り返さないためにEUは通貨統合までこぎつけることができた。だが、イギリスは離脱を決定した。イギリスの離脱もEUを弱体化させるが、フランスがそうなれば、イギリスよりもそのインパクトははるかに大きい。
第1回のフランス大統領選の投票では過半数を獲得する候補者はでず、5月7日の第2回投票で決まるだろう。当面、為替相場はフランス大統領選の帰趨を睨みながらのナーバスな動きが予想される。離脱が優勢になればユーロは間違いなく売られ、ドル高、円高が急激に進行するだろう。また、ユーロ経済の悪化が予想され、世界的に株式は値下がりし、国債は買われるのではないだろうか。
米国では自国第1主義のトランプ大統領が登場し、トルコは改憲派が勝ち、エルドアン大統領が独裁色を強めるだろう。日本では安倍政権が共謀罪を成立させようとしているが、内閣支持率は50%を超えている。フランスでも右翼が勢力を拡大させるなど、世界的にナショナリズムの台頭が顕著になっている。
ナショナリズムが行き着くところは北朝鮮であり、極端な排外主義である。そこまで進まなくても、ナショナリズムは自国優先を強めるわけだから、他国との摩擦は増すことになる。日本も戦前、国際連盟を離脱し、独りよがりに陥り、大戦へと突き進んだではないか。
自国だけが良くなればよいというのでは国際関係はぎくしゃくし、とげとげしくなるだろう。もちろん自国がよくならなければならないのだが、まず自国で良くなる方法を探し出さなくてはならない。各国それぞれ多くの問題を抱えており、それらの問題に真摯に取り組み解決していかなければならない。
日本などは共謀罪といった問題にはならない問題を問題にするという愚かな政治に時間を取られている。特定秘密保護法や安保法なども憲法を蔑ろにするものであり、国家が戦争するという最大のテロ行為を容認する法である。教育勅語の使用を認めることも憲法の否定に繋がり、安倍政権の戦前の国体への回帰姿勢がますます強まってきている。
日本は難問山積だが、安倍政権の最大の関心事は憲法改正である。戦後70年以上曲がりなりにも平和に過ごせてきたのは戦争放棄を明記している平和憲法のおかげといえる。このなにの問題もない憲法を変えることで安倍政権の縛りを解き、戦前の皇国史観を実現したいのだ。国民の基本的人権は制約を受け、息苦しい社会になるだろう。為政者にとっては自分たちの立場をより強固にし、独裁体制の構築を目指すことができる。
さまざまな課題を抱えているが、そうした問題などそっちのけで、安倍政権は平和を壊す改憲をいかに成すかに傾注している。真の問題に取り組まず、安倍政権は歪んだ思いを実現するという偏狭な考えに没入しているのだ。
世界的にナショナリズムが広まり、日本でも安倍政権という戦後最大のナショナリズムが日本を支配している。平和が維持できるかどうかの瀬戸際にあるけれども、安倍内閣支持率は依然高く、国民の政治への関心は薄い。テレビにスマートフォンやパソコンが加わり、ニュースは世界中に瞬く間に行き渡るが、眼や耳から入ってきているだけなのだろうか。なにの不安や疑念も起こらないのだろうか。いくらニュースが発信されたとしても受け手に受け止める力がなければ、「猫に小判」なのである。
世の中が大きく変わるかもしれない状況下にあるのだから、マスコミも主義主張をはっきり打ち出し、世論を盛り上げる報道をしなければならない。どちらともとれる曖昧な報道では政治に負けてしまう。曖昧な姿勢を採ることは、自らの存在意義を否定することでもある。

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