週末値では7週連続の円安ドル高だ。ドル高ユーロ安の進行にともない対ドルで円も売られ、08年8月第4週以来の円安水準に下落した。ドル高ユーロ安が進んだのは、米国経済が拡大を続けている一方、欧州経済は冴えないからである。Markitが発表した9月のユーロ圏PMIは前月を下回り、Ifoの景況指数も9月まで5ヵ月連続で低下し、ドイツ経済が下降を示唆しているからだ。日本も消費は思わしくなく、8月の消費者物価指数の伸びは前年比3.3%と5月の3.7%をピークに3ヵ月連続で低下している。
こうした米国と日本、欧州の経済の違いが続く限り、ドル独歩高は止まらないだろう。だが、ドル高がドル安に転換する要因もある。米株式と債券相場の急落だ。実体経済と金融経済の乖離拡大からその可能性は高まっているとみている。また、欧州の買い手にとっては、ドル高ユーロ安は米株式が買いにくくなり、これも米株安要因となる。
ドル実効相場は4年4ヵ月ぶりの高水準に上昇しており、ドル独歩高を裏付けている。OECDの景気先行指数の前年比伸び率を米国と日本、欧州を比較しても景気の違いを明らかに認めることができる。日米の景気を比較すると、2008年までは円ドル相場は景気の違いをほぼ反映していたが、金融危機の勃発によって、景気の違いを円ドル相場は反映しなくなった。2008年12月を底に、米国が日本の景気よりも好転している傾向を示していたが、米国の金融危機がどのようになるかわからず、円ドル相場は円高を強めていった。2010年4月を境に日本景気が相対的に良くなり、それまでの円高ドル安をさらに推し進め、2012年1月には76円台を付けた。2012年9月頃までは円は高値圏で推移していたが、自民党が圧勝するや、円安ドル高は加速、さらに黒田日銀総裁の国債買取拡大政策によって、101円まで急落した。2013年12月までの1年間は日本の景気が相対的に強くなったため円安に歯止めが掛かった。だが、今年に入り米国経済が相対的によくなり、円安ドル高が進む状況下にある。
過去10年ほどの米国、欧州経済とドルユーロ相場の関係は概ね相関している。米国が欧州経済よりも強くなれば、ドル高ユーロ安となり、逆もまた真なりである。2012年8月を境に欧州経済が相対的に良くなっていたが、今年3月以降は立場が変わり、米国経済が良くなり4月の1ユーロ=1.38ドルをピークに1.26までユーロは下落した。OECDの景気先行指数は7月分までしか公表されていないので、8月以降はわからないが、最近の経済指標をみれば同じ傾向が読み取れる。
欧州経済の核となるドイツの実質GDPは4-6月期、前期比-0.2%のマイナスになったが、9月までのIfoの急激な落ち込みなどを勘案すると、7-9月期もマイナスに陥りそうである。そうなればはっきりと景気後退となり、ユーロにとっても一段と売られることになるだろう。
4-6月期の米GDPの確報値が週末公表された。実質前期比1.1%と2次推計からわずかに上方修正された。1-3月期が0.5%のマイナスであったことを考慮すれば、1.1%増は決して高い数値ではない。しかも0.36%は在庫の寄与であり、中身のある成長とはいえない。個人消費支出も耐久財の寄与度が0.25%高く、サービスに至っては0.1%の寄与にとどまっている。
9月17日に公表したFRBの今年の経済予測によれば、10-12月期の実質GDPの前年比伸び率は2.0%~2.2%に下方修正された。が、予測に届くには7-9月期と10-12月期、前期比0.7%それぞれ伸びなければならない。2012年、2013年が2.3%、2.2%の低い成長であったことや足元の米国経済から判断すれば、2.0%~2.2%成長も難しいように思う。
米株式は最高値付近に高止まりしているが、4-6月期の税引後利益は前年比4.6%と昨年並みの伸びで推移しており、最高値を更新できるような収益を獲得しているわけではない。利益の伸びが緩やかであるにもかかわらず、8月末のNYダウが前年を15%以上上回っているのは、金融政策が功を奏しているからである。
2008年のNYダウは33.8%急落したが、その後、昨年まで年間上昇率は5年連続のプラスだ。今年も今のところ3.2%上回っており、6年連続増になるかもしれない。2年連続のマイナス成長から2010年にはプラス成長に持ち直したものの、2013年までの4年間の実質成長率は最高でも2.5%、平均では2.2%にとどまっている。金融危機以前の2007年までの4年間の平均2.9%よりも0.7ポイントも低い。だが、株式は過去最高値更新を繰り返している。
FRBのゼロ金利政策によりマネーコストが限りなく低くなっているために、その恩恵が直接に及ぶ金融経済が活況を呈しているのである。株式も債券もまさにマネーゲーム化している。FRBがゼロ金利を継続すればするほど、金融経済は膨れ、実体経済との乖離が大きくなっていく。歪な経済を正常化するには、FRBはなるべく早く利上げを行うほうがよい。