先週、対ドルで円は一時79円台に上昇し、3月半ば以来の円高となった。一方、トリシェECB総裁が6月も政策金利を据え置くことを示唆したことから、ユーロは1.43ドル台に下落した。バブル化していたところに銀取引の証拠金引き上げやユーロ安が加わったことが原油をはじめ銀、小麦など商品全体の売りを加速させ商品市況は急落、5日のCRBは4.9%も前日を下回った。週末のCRBは337.35へとさらに下落し、2月半ば以来の低い水準に戻った。
4月末のCRBを昨年末と比較すると、11.3%上昇しており、NYダウの上昇率を上回っている。不安定な中近東情勢が影響しているとはいえ原油価格の24.7%もの上昇は尋常ではない。1-3月期の米実質GDPは前年比2.3%と2四半期連続の低下となり、経済がスローダウンしている状況を勘案するならなおさらである。経済成長が緩やかになりつつあるときに、原油価格が急騰することはあきらかにバブル化が進行していることを物語っている。
経済成長率の低下に伴い米債券利回りは急低下している。週末には3.15%と昨年12月初旬以来5ヵ月ぶりの低水準だ。債券利回りは景気の強弱をあらわしており、通常、利回りが低下しているときには、株式は売られやすい。米債利回りの低下に伴い主要国の利回りも低下し、日本国債は1.14%に低下した。
1-3月期の米実質GDPは前期比581億ドル増加したが、そのうち在庫増が276億ドルも占めている。設備投資は63億ドル増と伸びは落ち、政府部門は345億ドル減と2四半期連続減となり、成長は持続しているものの成長の中身は健全とはいえない。設備稼働率が依然低いことから、市場経済を動かす本源である設備投資が本格的に拡大することは期待できない。拡大した政府部門を今後、縮小するため、政府部門は成長のマイナス要因になるだろう。
4月の米非農業部門雇用者は前月比24.4万人増と7ヵ月連続のプラスとなった。民間部門は26.8万人増と06年2月以来の高い伸びとなったが、政府部門は2.4万人減少した。政府部門の雇用はこれで6ヵ月連続の前月比マイナスとなり、民間部門とは対照的だ。特に、政府部門雇用者(2,216.6万人)の64.1%を占める地方政府のマイナス幅が大きい。地方財政の逼迫から雇用削減を進めているが、これから財政支出を一段絞り込めば、地方政府の雇用は厳しさを増すだろう。民間部門も全体に先行する傾向のある契約社員は4月、3ヵ月ぶりに前月比減となるなど、民間部門の増加を喜んでばかりいられない。
FRBは今年の実質GDPの見通しを下方修正した。FRBの見通し(2011年10-12月期に前年比3.1%~3.3%の伸び)を実現するには4-6月期以降、3四半期連続前期比0.9%程度伸びなければならない。これまでの回復の過程でもそれほど伸びていないので、達成はかなり厳しいといわざるを得ない。
名目GDPは前年比3.9%伸びているが、やはり2四半期連続の鈍化であり、実体経済のマネー必要量は少なくなってきているといえる。マネー需要量の伸びは低下してもゼロ金利の継続によって、マネーの借入コストは下がったままである。
FRBは4月27日のFOMC終了後の声明で、異例の低い政策金利を今後も続ける意向を示していることから、ドルを調達しやすい状況に変わりはなく、少しでも有利な資産を求めてドルが跋扈し続ける仕組みは保たれる。ドル同様、円も入手容易な通貨であり、投機家が低コストで調達し、利鞘追及の道具となっている。低コスト資金が調達できる状況では、常に、マネーがマネーの増殖のためにのみ蠢くことになる。
円ドル相場は週末、80円60銭で引けたが、これほど日本経済が弱く、ハイリスク国でありながら、なぜ円が強いのか。単に、FRBがゼロ金利を続け、ドルが潤沢だという背景があるからだろうか。
大震災による日本の生産、消費の落ち込みは過去最大となり、容易に元の水準に戻らない。「浜岡」原発は全面停止を要請したが、すべての原発を廃止すべきだ。過疎地に振り分けたが、国土の狭い地震多発の日本では原発のリスクは低下しない。電気が不足すると脅すが、原発がなくてもやっていける。不足することになれば、供給能力が伴うまで我慢するしかない。放射能を撒き散らし、修理もできないモンスターはいらない。ひとつ間違えば東京がお陀仏になるかもしれない国の通貨が上昇するとは為替はどんな原理で動いているのだろうか。
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2011会計年度の米財政赤字は1.6兆ドルを超える見通しであり、これをファイナンスするためには、ゼロ金利を継続し、国債利回りが上昇しないようにする必要がある。さらに国債利回りの低下は期待収益率が一定であれば、設備投資を刺激することになる。財政赤字額と経常赤字額の合計額は2004年以降、07年を除けば1兆ドルを超えている。09年以降は財政支出の拡大によって、1.7兆ドルを超え、2011年には2兆ドルを突破するだろう。こうした過去最高のドル散布が、日本経済が著しく弱体化しているにもかかわらず、円高を持続させているのである。
米経常収支の赤字と財政赤字による巨額のドル散布は、需要増と流動性の増加を世界経済にもたらしている。経常赤字は米国の財やサービスの超過輸入額であるから世界経済に寄与するけれども、急増するドル散布は実体経済の回復スピードをはるかに上回っており、実体経済の分野で吸収できる限度を超えている。だから、投機市場へドルが流入しているのだ。無駄な為替投機が無駄な電気を使っている。為替取引に取引税を導入し、コストを課せば取引は減少し、為替取引は今よりは正常になるだろう。
原油、金、銅、大豆等の商品はドルで表示されているため、ドル安になればなるほど安く入手できるので、ドル安になれば自動的に買われ、市況は高騰することになる。なかでもドル市場で最大の規模を誇るのは米株式である。昨年末の時価総額は23.2兆ドルである。保有構造は個人とミューチュアルファンドの合計で57.1%を占めており、外人は13.3%持っているにすぎない。一方、財務省証券の規模は9.3兆ドルであるが、外人が46.9%を保有しており、株式とは異なる。いずれにしても、ドルと米株式・米債の長期トレンドはドル安と株・債券高の関係を示している。ドルは安くなってもドル資産は増価する仕組みになっていることは重要である。
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米国の抱える双子の赤字問題が取り上げられてから久しいが、これが原因で米国経済が破滅的な危機に陥ったことはない。株式や不動産の実体経済から掛け離れた高騰が破裂した衝撃は大きかったが、赤字は深刻な事態を引き起こしていない。赤字がこれほど巨額になっても米国経済は日本などに比べてはるかに強い。世界経済にドルが強固に組み込まれ、ドルなくしては世界経済は成り立たないからである。
米国は基軸通貨ドルの強みを活かした経済運営ができる。ドルが基軸通貨であるからこそ巨額の財政赤字や経常赤字をファイナンスできる。入超で支払はねばならない必要なドルは刷ることで事足りる。同時に財務省は国債を発行し、ドルの受け皿を作る。米国にとっては赤字のファイナンスなど朝飯前だ。
たとえ景気が悪化しても政府部門の拡大によって、景気の落ち込みを和らげることが可能だ。今回の金融危機でも素早い財政出動により、景気の落ち込みは日本よりも軽かった。米国は市場経済を標榜しているとはいえ、公的部門の雇用者数は非農業部門の16.9%(4月)と高く日本の倍以上である。ウォール街が米国経済を象徴しているように捉えられているが、公的雇用がこれだけの比率を占めていることは、米国経済は非市場の割合が想像以上に高く、市場部門が悪化しても、非市場部門で悪化を補うことができるのである。米国には非市場部門といった重要な側面があることを忘れてはならない。