4月5日、トランプ大統領はまたもFRBを攻撃した。トランプ大統領はよほどFRBのこれまでの利上げが気に食わないのだ。なにがなんでもFRBに利下げさせたい。「FRBは本当に景気の足を引っ張った。インフレはまったくない」、「足元、量的緩和であるべきだ」ともいう。これにFRBはどう応えるのだろうか。トランプ大統領とFRBの関係はこれまでになく緊張している。トランプ大統領の息の掛かった理事をFRBに送り込もうとしており、FRBは日銀のように政権の傀儡になろうとしている。
米雇用統計によれば、3月の失業率は3.8%と前月と同じであった。昨年、9月と11月は3.7%と1969年12月以来約49年ぶりの低水準を記録したが、3月はそれより0.1ポイント高いだけである。25歳以上の大学卒に限れば2.0%であり、米国経済はほぼ完全雇用であり、まれにみる好雇用環境にある。
雇用者をフルタイムとパートタイムに分けてみると、今年3月のフルタイムは1億2,996万人と2009年12月の底から1,941万人増加している。他方、パートタイムは3月、2,693万人と54万人の減少だ。その結果、パートタイム・フルタイム比率は24.9%から20.7%に低下しており、米雇用はその中身も改善しているのである。
2月の米消費者物価指数は前年比1.5%と4ヵ月連続で伸びは低下しており、食品・エネルギーを除くコア指数も2.1%と安定した状態を保っている。ただ、住宅だけは2.9%と比較的高い伸びを示しているが、過去3年の上昇率に変化はない。
雇用が拡大すれば物価は上昇するというような関係は経済史のなかでの一コマであり、過去60年の米国経済を見渡してみても、物価上昇は2回の石油危機をピークにした釣鐘型である。雇用が拡大したからといって、物価が上がることはないのである。1990年代後半からの半期のCPIコア指数の前年比伸び率は最高でも2.7%だ。ITバブルや不動産バブルの時も2.5%前後であり、安定していた。金融崩壊後では2.2%が最高である。もはや、物価は経済問題ではなくなってしまったのである。
雇用の悪化は物価を押し下げるけれども、雇用の拡大は物価の上昇を引き起こすほどではない。労働組合の力はますます衰えている一方、経営者の力が強大になっているからだ。雇用が拡大しても賃金の引き上げ幅は抑えられている。昨年10-12月期の名目GDPは前年比5.2%増だが、賃金は3.3%とGDPを1.9ポイントも下回っているし、1月と2月の可処分所得は4.4%とやはりGDPよりも低い。
所得格差の拡大が1980年代以降顕著になっていることも、購買力の拡大に歯止めを掛けている。所得上位者の所得は増加する一方、中位から下位にかけては実質では横ばい状態になっており、そのことが需要の盛り上がりが欠ける理由のひとつだと思う。
このように物価が激しく上がらなくなっていることをトランプ大統領は見抜いているのだろう。インフレではないので利下げしろということなのだ。だが、実体経済はインフレでなくても、NYダウは過去最高値に接近してきており、前年比ではプラス9.4%である。トランプ大統領にとって、ダウは高ければ高い方がよいのである。バブルになろうがそのようなことにはお構いなしなのだ。ダウが過去最高値を更新することが、大統領選の勝利に繋がると信じているのである。
先行き不安な統計もある。2月の米小売売上高は前月比-0.2%と2ヵ月ぶりのマイナスだ。前年比では2.2%に低下しており、昨年5月の7.0%をピークに失速状態にある。2月の非軍事資本財受注(航空機除く)も前月比-0.1%と冴えない。前年比では昨年7月の10.3%をピークに今年2月は1.9%と小売売上高と同じように鈍化している。トランプ大統領が仕掛けた中国との貿易戦争の火の粉が自らに降りかかってきているのだ。減税効果も剥げてきており、米国経済は向かい風に直面している。
4月30日からのFOMCに向けて、トランプ大統領のFRBへの圧力は一層増すはずだ。利下げし、経済がどうなるかということよりも、金融緩和そのものが目的なのである。トランプ大統領は、すべてにわたって米国のリーダーシップを取りたいのである。FRBなどに自由にさせてなるものか、唯我独尊を地で行く大統領なのである。