円ドル相場は103円台が定着しつつある。12月16日公表のFOMC声明では、「委員会は当面、2%をやや上回る程度のインフレ率の達成を目指す。達成されるまで緩和的な金融政策の姿勢を維持する」と言う。ゼロ金利が向こう数年期待できることから、円高ドル安の地合いは継続するだろう。日本の貿易収支も11月まで5カ月連続して黒字が続いていることも円高要因だと考えられる。輸出は前年割れが続いているが、原油安で輸入が輸出以上に落ち込んでいるからだ。米株高とドル安により、最近の原油価格は値を戻してきているが、昨年末を約20%下回っており、コロナ禍で世界経済の足取りがおぼつかなくなっている状態では、原油価格のさらなる上昇は抑えられるだろう。米金融緩和継続期待、輸出は振るわないけれども、国内需要の低迷と原油安で黒字基調が持続できれば、円高ドル安は進行するのではないだろうか。
FOMCの2021年物価予測(PCE)は1.7%~1.9%、コア1.7%~1.8%としているが、今年11月のPCEは前年比1.1%、コア1.4%と来年の目標以下だ。11月の米小売売上高は前月比-1.1%と2カ月連続のマイナス、前年比でも9月の7.9%から2.5%に減速、消費をより広く捉える個人消費支出は11月、前年比-1.3%とマイナス幅がやや拡大してきた。非農業部門の雇用増加は鈍化し、政府からの移転所得は4月をピークに減少している。11月の移転所得は4月から43.6%も減少、ただし、前年比では18.0%増である。政府支援金の減少によって、可処分所得は2カ月連続の前月比減となり、こうした可処分所得の先行きへの不安などが消費にあらわれてきている。可処分所得に占める貯蓄の割合は低下しているが、11月は12.9%と依然2桁を維持しており、消費者は先行きに強い不安感を抱いているようだ。
米国経済の原動力である消費があやふやな状態から抜け出すことができなければ、経済の体温は上がることはない。FRBが目標とする2%は、日銀と同じ幻を追い求めているようなものだ。なぜ2%に拘るのか、2%以下ではなぜだめなのだろうか、理由は定かでない。11月のPCEは前年比1.1%だが、伸び率が低下していけば、需要が増加して、価格は下げ止まることになるはずだ。だが、先行きの所得の見通しが立たなければ、価格の下げだけでは需要は回復しない。なによりも購買力の源の所得を確実に手にでき、将来にも不安がないという条件下でのみ、消費は活発になるのである。ゼロ金利や国債購入策はすでに実施してきたことであり、いまさらこうした政策が実体経済に活を入れる力はないのだ。富裕層でない多数の国民の懐を温かくできるかどうかに、米国経済の行方は掛かっている。
米国の物価は低下傾向にあるが、日本はデフレというマイナスの領域に再度入った。それでも日銀は相も変わらず、2%目標を掲げる。現実を現実として受け止めようとしない依怙地を通す。現実を直視し、把握し、政策を立案するという機能が完全に失われている。中央銀行が腐りきっているのだ。政治よりももっと酷い。
11月の消費者物価指数(総合)は前年比-0.9%、2013年3月以来、7年7カ月ぶりの下げ率である。11月の失業率は2.9%、前月比0.2ポイント、有効求人倍率も0.02ポイントそれぞれ改善したが、消費を刺激するほどの影響力はない。11月のスーパー売上高は1.2%とプラスを維持しているが、百貨店とコンビニは14.3%、2.2%それぞれ前年を下回った。住宅着工件数も前年割れが続いており、物価を引き上げる要因は見当たらない。
11月の消費者物価指数は前年比-0.9%と2カ月連続のマイナスだが、生鮮食品を除くは、緊急事態宣言が出された4月以降ほぼマイナスであり、マイナス幅は拡大しつつある。雇用の不安、賃金の減少など物価低下要因ばかりで、物価上昇要因は見つからない。1990年代のバブル崩壊以降、日本の物価は上昇力を失ってしまったのだ。2度のオイルショックは例外とみなさなければならない。物価の長期低下趨勢が覆ることはないだろう。消費の決定要因である人口や人口構成がいずれもマイナスに作用するからだ。人口減、超少子化・高齢化はこれからますます消費減を加速させることになる。
今年度予算は最近決まった第3次補正を加えると一般会計は175.3兆円、2019年度比67.6%増である。公債金は112.4兆円、歳入の64.1%を占める。これだけの国債を発行し、資金調達をしても日本の7-9月期の名目GDPは前年比-4.6%と3四半期連続のマイナスである。7-9月期の公的支出は33.5兆円、前年を1.1兆円上回っているだけだ。その前の4-6月期では0.5兆円増にとどまる。第2次補正まででも約160兆円の巨額予算だが、この予算に計上された金はどこに消えてしまったのか。
21日に閣議決定された2021年度政府予算案によれば、予算規模は106.6兆円、今年度の補正後に比べると、68.7兆円減である。翌年度回しの部分もあるのでこれほどは減少しないが、それでも公的需要が大幅に減少することは間違いない。民需の回復は覚束なく、公的需要の落ち込みがデフレを一層深刻にするだろう。
物価の下落は売上高を引き下げ、企業業績に打撃を与える。資本設備が多く、借入金の多い企業の貸借対照表は実態から乖離することになり、不良債権が問題になってくるかもしれない。モノの値段が下がることが社会に広まることになれば、消費は控えられるだろう。一方、お金の価値は物価下落分だけ上昇することになり、お金への選好は強まることになり、お金をさらに溜め込むだろう。市中に出回るお金が少なくなることは、取りも直さず経済活動の低下となる。
米株高で世界的に株式は堅調だが、デフレ下での日本の株高は異常現象である。過去の消費者物価と株価の関係を振り返ってみても、両者の関係は極めて密接であることがわかる。消費者物価の前年比伸び率が底を打ち上昇していく過程では、株価も上昇し、消費者物価が低下しているときには株価は下落する傾向を読み取ることができる。
物価が上がることは需要が強く、売上も伸びており、物価が軟調なときには、需要が弱く、売上も低迷しているからだ。こうした関係がいまは成立していないのである。2018年初をピークに物価上昇率は低下しつつあるにもかかわらず、株価が上昇しているのだ。ゼロ金利の持続、過去最高値を更新している米株、それに伴う外人買い、さらに日銀の上場投信買い等の要因によって、デフレ下での株高現象が起こっている。だが、デフレ下では企業収益の悪化は必至だ。コロナ禍の収束に数年を要することになれば、企業の体力も落ち込み、収益は大幅に収縮するだろう。そのような見通しが徐々に拡大していくことになれば、投機家たには、手のひらを返したような行動を取らないと言い切ることはできない。常に、株式は期待という不確かな要因を頼りにしており、綱渡りをしているようなものなのである。来年も綱渡りが続くのかどうか、目を凝らしていきたい。
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