米株式はトランプ大統領の米中通商交渉に期待し、これで8週連続高である。米株高はドル高円安、日本株高へと波及しているが、米株に比べて日本株の戻りは極めて緩やかである。日本株の戻りがたどたどしいのは円安ドル高には振れているが、その勢いが弱いからだ。そして対ドルでユーロが売られていることも円ドル相場に影響している。米10年債利回りは一昨年末よりは高いが、それでも26ベイシスポイント上回っているだけである。日本やドイツの10年債利回りは一昨年を下回っている。このように長期金利が異常な水準で推移しているようでは、そのような通貨は魅力に欠ける。
ただ、直近の米経済指標によれば米国経済も楽観できない。昨年12月の小売売上高は前月比-1.2%と約9年ぶりの大幅減となり、前年比でも1.4%と伸びは急低下した。Auto・Gasを除くは前月比1.4%も下落しており、消費マインドは悪化してきている。昨年12月の鉱工業生産指数は前月比0.1%だったが、今年1月は-0.6%と昨年5月以来8ヵ月ぶりのマイナスとなった。特に、1月の耐久消費財の自動車は前月比14.4%も落ち込み、前年水準も1.3%下回った。自動車などの不振により、消費財は2ヵ月連続の前月比マイナス、前年比では横ばいとなり、鉱工業生産からも消費にブレーキが掛かってきていることがわかる。こうした低調な消費や原油価格の下落を反映して、消費者物価指数は昨年11月以降、3ヵ月連続の前月比横ばいである。
昨年10-12月期のユーロ圏GDPは前期比0.2%と前期と同じ伸びであり、引き続き低空飛行のままであり、先行きマイナスに陥るリスクもある。特に、ユーロの盟主ドイツはゼロ成長となり、前期の-0.2%からは改善したとはいえ、リセッションの状態に陥っているといえる。ドイツ経済はユーロ圏の約3割を占めており、ドイツ経済が浮上しなければ、ユーロ圏経済も確かな足取りを取り戻すことはできない。フランスは0.3%増だったが、イタリアは-0.2%と2四半期連続のマイナスとなり、景気後退局面にある。
昨年12月のユーロ圏のユーロ圏外への輸出は前年比-2.5%と昨年9月以来のマイナスになり、輸入も1.9%に鈍化した。ユーロ経済は貿易依存度が高いため、輸出入の低迷の経済に与えるダメージは大きい。米中貿易戦争が長引くことになれば、ユーロ経済は一段の苦境に陥ることになるだろう。
世界貿易の不振は日本にも及んでいる。昨年10-12月期のGDP統計によれば、実質前期比0.3%と2四半期ぶりにプラスになった。7-9月期が0.7%減少したことから、半期ではマイナス0.2%になる。1-6月期は前期比0.2%であることから、日本経済の足取りは極めて弱いといえる。
10-12月期は前期比0.3%増加したが、寄与度をみると民需は0.5%だが、外需は-0.3%と足を引っ張っている。外需はこれで3四半期連続のマイナスの寄与だ。民需が伸び悩んでいることに加えて外需が弱いというのが日本経済の現状である。
10-12月期の実質GDPは前年比微減と2014年第4四半期以来4年ぶりの前年割れだ。2016年の低迷から這い出て、2017年第4四半期には2.4%まで回復したが、これをピークに成長は鈍化していき、昨年第4四半期にはマイナスに転落してしまった。
最も伸びているのは民間設備投資の前年比3.4%であり、最終消費支出は0.8%にとどまっている。GDP構成比が最大の最終消費支出が伸びなければ成長率は決して高くならない。なかでも家計最終消費支出(持ち家の帰属家賃を除く)は0.6%と低く、そのほか民間住宅や公共事業も前年割れが続いている。民需は前年比0.7%と前期よりは改善したものの、わずか0.2ポイントにすぎず、民需に力強さはない。
輸出は2017年第3四半期の前期比7.0%をピークに伸び率は下がり続け、昨年第4四半期には0.3%と僅かなプラスにとどまった。輸出の低迷と輸入増により純輸出の寄与度は2四半期連続のマイナスとなった。結局、外需のマイナスを内需で埋め合わせることができず、マイナス成長になってしまった。
民需が弱いことはデフレーターにも表れている。昨年第4四半期のデフレーターは前期比-0.1%と2017年第4四半期以降ほぼマイナスであり、前年比では-0.3%と3四半期連続のマイナスだ。景気が低迷した2016年第3四半期に前年割れになり、以降1年マイナスが続き、その後、ややプラスに戻ったが、再びマイナスに陥り、日本経済はデフレ化している。年ベースでも2017年、2018年と2年連続のマイナスであり、消費税率の引き上げによる上昇によってプラスになっただけであり、実質的にはデフレーターはマイナスから抜け出てはいないのだ。
2018年の実質GDPは533.8兆円、前年比0.7%の増加だ。民間最終消費支出は0.4%の低い伸びだが、民間企業設備が3.8%増加し、これだけでGDPを0.6%引き上げた。民間最終消費支出は2年連続のプラスだが、消費税率引き上げにより2014年から2016年までの3年間はマイナスだった。2018年と2013年の民間最終消費支出を比較すると、0.4%しか伸びておらずほぼ横ばい、家計最終消費支出(持ち家の帰属家賃を除く)に限れば1.2%減少している。消費税率の引き上げの消費への影響が大きかったことを裏付けている。
一方、民間設備投資は2008年の金融恐慌後の激しい収縮によって、2010年には2007年から16.6%も落ち込んだ。急激な減少の反動などから2011年以降持ち直し、2018年には2010年の底から28.9%拡大した。それでも金融崩壊以前の2007年比では8.2%のプラスにとどまっている。
最終消費支出の低迷と民間設備投資の回復によって、最終消費支出のGDPに占める割合は2012年の58.5%から2018年には56.2%に低下する半面、民間設備投資は14.5%から16.2%に上昇した。輸出入額のウエイトは30.7%から35.2%へと大幅に高くなっている。GDPの設備投資・貿易依存度が高くなっているときに、世界経済の減速に行き当たっているのである。日本経済の行方には厳しさが待ち受けている。