11月30日、日米欧の6ヵ国・地域の中央銀行がドル資金供給の拡充を打ち出したことから金融株を中心に株価は大幅反発した。中央銀行はリーマン・ショック直後の08年9月18日にも同じような資金供給策を発表したが、効果は数日しか持たなかった。金融危機のときには、実体経済から発生する資金需要は減少し、必要とするところは危ない金融機関に限られるので、淘汰されるべき金融機関が生き残る。へまをすれば倒産し経済から排除される資本主義経済の機能が働かなくなると、経済が不良資産を抱え込み、非合理・非効率がまかり通り、経済がなかなか好転しないことになる。
中央銀行の金融政策は危機を一時的には鎮めることができるけれども、抗癌剤と同じで副作用がきわめて大きく、死に至らしめる劇薬だということを頭に刻み込んでおかなければならない。日銀がゼロ金利、資金供給や資産買取を10年以上も続けているが、日本経済は良くなるどころか悪くなっており、そのことは中央銀行の無力さをなによりも物語っている。日本経済は効きもしない抗癌剤を飲まされている癌患者のような運命を辿ろうとしている。金利機能がほとんど働かなくなっているところへ、さらに資金供給を増やすことになれば、資金はろくでもないところに回るだけだ。資金コストが低下すれば投機資金が株式や商品に流れこみ、金融危機が収まらないうちに、またマネーゲームが高じることになる。米株式や商品相場をみているとそのような思いを抱かざるをえない。
欧州の債務危機の原因は、欧米の住宅バブル破裂による急激な経済の後退である。節度を失った金融機関の住宅貸付が住宅バブルを惹起し、経済全体をユーフォリア状態へと導いた。住宅価格の値上がりで個人も企業も浮かれ、消費や設備投資の拡大に走った。その結果、2006年のユーロ圏の実質GDP成長率は前年比3.1%と2000年以来の高い伸びとなった。米国では2002年以降3年連続で伸び率は上昇、2004年には3.5%も成長し、06年までは高い成長を維持していた。だが、住宅バブルの破裂は一気に経済をマイナス成長へと萎ませ、負債はそのままの状態で、巨額の不良資産を作り出した。経済全体のバランスシートは著しく傷ついたが、その修復速度は遅々としており、健全な経済状態に戻れるかどうかわからない。
というのは、日本の土地価格はいまだに下がり続けており、バブル以降購入した土地所有者の土地価値は購入価格を下回り、かつ土地価値<購入価格は拡大しているからだ。日本不動産研究所の『市街地価格指数』によると、今年9月末の全国市街地価格指数(全用途平均)は55.1(2000年3月末=100)と1991年9月末(148.0)をピークに、一度も前期比プラスになることなく、下落し続けている。ピークからの下落率は62.8%に達し、なかでも商業地は76.1%も下落してしまった。9月末の全用途平均価格は1973年3月末以来約38年、商業地については1970年9月末以来41年ぶりという驚くべき昔の低い水準に後戻りしてしまった。9月末の六大都市全用途平均価格は68.2とバブル崩壊後最低だった05年3月末を下回り、1980年3月以来と都市部でも底無しの様相を呈してきた。
9月のS&Pケース・シラー住宅価格指数(20都市)は前月比-0.6%の139.49と5ヵ月連続でバブル崩壊後の最低を更新し、03年4月以来8年5ヵ月ぶりの低水準に落ち込んだ。06年4月(206.65)のピークから32.5%下落し、同じ期間で比較した場合、日本の下落率(6大都市住宅地、49.0%下落)よりも小幅だが、ピークからの経過年数が5年5ヵ月であり、米公的機関が巨額のモーゲージを抱えているなど、住宅市場は正常な状態に復しておらず、短期間で米住宅価格が底打ちするとは考えにくい。
日銀の金融政策は不良資産のパニック的な投売りを抑えたけれども、40年以上の長い時間のなかでじわじわ売りが出てくるような働きをしたといえる。90年代の後半にかけていくつかの金融機関の破綻はあったが、当局の介入が随所にみられ、曖昧な倒産や合併が多々あり、実情はわからないままである。むにゃむにゃで終わってしまえば、歴史的事実が後に残されず、またしても失敗をおかしてしまう。日本の官僚はそのようなやり方で責任の所在を曖昧にして、自らの地位を保持しているのである。
欧米の中央銀行はバブル崩壊後の日銀の金融政策を参考に、ゼロ金利や資金供給を実行している。が、日本はいまだに地価の下落が止まらず、実体経済も改善していない事実に鑑みるならば、日銀のゼロ金利さらにいえば金融政策では、資産バブル崩壊後の深い痛手から日本経済を回復させることができないのがあきらかだ。借金の金利負担は低下するが、貸出金利は政策金利のように低下せず金融機関の利益が増えるだけであり、借り手の恩恵はそれほどでもない。ゼロに近い利息しか手にできない預金者としてみれば、ゼロ金利は家計部門には割に合わない。公的資金を注入し、存続している金融機関が蜜を吸い、資金の出し手である家計が蜜を吸い取られているのははなはだ理不尽なことだ。金融機関の経費を厳しく査定し、必要最小限の利鞘しか認めない仕組みを作らなければ、ゼロ金利は家計から金融機関への所得移転の役割を果たすことにとどまる。
FRBやECBもむやみやたらに金利を引き下げ、買いオペに精を出しても、投機家が活躍するだけで、実体経済の建て直しには役立たない。卸の資金コストが下がり、プロの金融機関が利するだけである。ゼロ金利の長期化は、投機がはびこりやすいが、そうした弊害を取り除くためにも、金融取引への課税を早期に決めなければならない。
資産崩落を金融政策では直すことができないことは、残された手段は財政政策しかない。その財政が縛られているのであるから、欧州経済は激しい景気後退に陥るだろう。かつて欧州で通貨の維持が難しかったことが、国債で起こっている。強い国の通貨(国債)は強く、弱い国の通貨(国債)は弱い。当面、EFSFで国債を買い取り、資金供給をしている間に、経済を立て直すしかない。一度に大量の資金を投入し、プラス成長に引き上げる必要がある。日本のようにならないためにも。