まやかしの景気判断

投稿者 曽我純, 10月5日 午前11:20, 2014年

米非農業部門雇用者が前月比24.8千人増と予想を上回ったため、ドル独歩高は一段進んだ。特に、ユーロの下落は激しく、これに追随して円なども売られた。ユーロの大幅安により、商品市況も値崩れしていった。WTIはバレル90ドル割れとなり、昨年の4月以来の低い水準だし、金は1,200ドル割れで、昨年末を下回った。10月1日に大幅安となったNYダウは反発したが、米債券相場には影響しなかった。

米国経済は緩やかに成長している半面、欧州は低迷、日本は悪化していることが、為替相場にあらわれている。9月のユーロ圏消費者物価指数は前年比0.3%と前月を下回り、デフレといってよい状況にある。物価が下落すれば消費が回復するというが、下落期待下では消費は増加しない。消費が増加しないから物価がさらに低下するという悪循環に陥っているのだ。だから、失業率も8月まで11.5%が3ヵ月続き、米国が9月、5.9%と2ヵ月連続で低下し、2008年7月以来約6年ぶりの低い水準へ低下したのとは対照的。

米失業率は9月、前月比0.2ポイント低下したが、これをそのまま歓迎することはできない。9月の失業者は前年比194.1万人減少したが、仕事探しを諦めたりした人が188.9万人増加しており、非労働力人口比率は上昇している。民間部門の時間当たりの平均賃金は前月比微減、前年比では2.0%の伸びだ。週当たりの平均労働時間も前月比横ばいであり、米国経済に力強さはまったく感じられない。しかも、7月のS&Pケース・シラー住宅価格指数は前月比-0.5%と3ヵ月連続のマイナスとなり、中国の不動産不況が米国にも飛び火したかのようだ。

9月の『日銀短観』が公表され、大企業製造業の業況判断指数DIは13と6月調査から1ポイント上昇した。12月の見通しも同じ13である。4-6月期の大企業製造業営業利益は前年比3.3%減と1-3月期の24.1%増から7四半期ぶりの減益となった。だが、おかしなことに業況判断DIは変わらないのである。大企業非製造業の営業利益は1-3月期の32.8%から4-6月期には19.1%日に鈍化しただけで、業況判断DIは19から13に低下、先行きは14である。増益を持続している非製造業の業況が悪化し、減益に陥った製造業がわずかだが改善するというちぐはぐな結果となった。

 大企業製造業は7-9月期の営業利益が増益に回復する自信があるのだろうか。鉱工業生産指数などをみれば、8月の生産は4-6月期よりも悪くなっており、営業利益が増益に転じることはなさそうだ。8月の鉱工業生産指数は前月比-1.5%と1月のピークから8.1%も落ち込んでいる。4-6月期と比較しても7-8月は2.4%低下している。8月は前年比でも-2.9%と2ヵ月連続のマイナスだ。9月の生産予測は前月比6.0%の大幅増となっているが、在庫が8月まで4ヵ月連続増となるなど、意図しない在庫が積みあがっており、生産が拡大するような状況ではない。

 『短観』によると、今年度の設備投資(ソフトウェアを含む、全規模合計)は前年比6.1%と2013年度を0.8ポイント上回る。これも時間の経過に伴って下方修正される性質を考慮すれば、6.1%増は最終的にはかなり引き下げられるだろう。

鉱工業生産の資本財出荷(輸送機械を除く)は8月、前月比7.9%も減少し、前年比では1.8%に低下した。今年1-3月期の資本財出荷は前年比16.8%、4-6月期は8.1%と低下しており、『短観』が示すような高い設備投資の伸びを望むことはできない。昨年度の資本財出荷は5.6%と『短観』の5.3%とほぼ同じであることからも、今の低下傾向を踏まえるならば、今年度の計画は過大になっている。

 長期の大企業製造業営業利益(前年比、法人企業統計)と大企業製造業業況判断指数DIの関係をみると、後者は前者に遅行していることがわかる。1980年代のバブル経済のときには、営業利益の伸び率は1988年1-3月期にピークを付けたが、業況判断DIはその5四半期後の1989年6月にピークをつけているのである。ITバブルのときには、営業利益のピークは2000年4-6月期であったが、業況判断DIは2000年の9月、12月にピークをつけた。大企業製造業の業況判断DIは先行きも9月と同じだが、ピークを過ぎて下降に入るときは、たいてい先行きを楽観視する傾向があり、気象庁の長期予報と同じように当たらない。

生産が低下しているのは消費が縮小しているからだ。『家計調査』によると、8月の消費支出(2人以上の世帯)は前年比-0.9%と名目でも2ヵ月連続の前年割れだ。実質では4.7%も減少しており、消費マインドは冷え込んでいる。勤労者世帯の可処分所得は前年比5.2%減と大幅なマイナスが続いており、消費支出も実質6.0%減少する有様。まったく消費が回復する兆しはみえない。

 「景気は緩やかな回復基調が続いている」というのが政府・日銀の景気認識である。消費税引き上げの反動減がでているだけで、景気は近いうちに元に戻り、今の落ち込みは一時的だという。だが、消費税増税からすでに半年経過したが、一向に景気が元に戻る動きを読み取ることはできない。生産や消費は右肩下がりであり、回復基調は崩れたといえる。  そもそも景気は回復などしていたのだろうか。金融危機や大震災・原発メルトダウンといったショックで生産の振幅が大きくなったが、年度ベースでは2010年度以降のぶれはそれほどでもない。駆け込みにより2013年度の生産指数は98.9、前年度比3.2%増だが、2011年度とほぼ同じ。生産は単に特需で押し上げられただけであり、回復という言葉は正しくない。4-8月の生産指数は2013年度を1.2%下回っているが、2014年度では下落率はさらに拡大するだろう。生産の基調はずっと低調なのである。

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