NYダウは過去最高値近辺まで上昇し、国債利回りは最高最低を更新した。企業収益の前年割れや設備投資の不振など米実体経済はもたついているにもかかわらず、金融経済は活況を呈している。FRBの利上げが完全に頓挫したことが、このような齟齬を引き起こしているのだ。米株式と国債相場は完全に金融政策によって形成された砂上の楼閣だ。砂上の楼閣を維持するには現状の金融政策を踏襲するしかない。だが、今の金融政策を続けていけば、実体経済と金融経済の乖離はますます大きくなり、最後にはバブル崩壊という惨事に行き着くだろう。
米国でも痛ましい殺人事件が多発しており、内戦に近いようにも思える。約3億丁もの銃のある社会ではいつ銃による事件が起きても不思議ではない。自国の銃による病を治すことができないにもかかわらず、他国へ介入し、挙句の果ては世界のいたるところでテロ事件の勃発という事態を引き起こしている。
ベトナム戦争以降の米国の軍事介入はことごとく失敗しているが、失敗の積み重ねだけ、それを教訓として生かすことはなかった。貧困、教育、殺人等国内はさまざまな問題を抱えていながら、湯水のように軍事費を浪費し、他国に干渉してきたのだ。
プラグマティズムとフロンティアスピリットの思想に基づいて米国社会は突き進んできたが、所得・資産格差は世界でももっとも大きい国の分類に入る。市場経済万能を唱えながらも連邦政府の支出は4兆ドルに近い。1ドル=100円換算で約年63兆円もの巨費を軍事に投じている。それでも思うような成長経路に乗せることができず、所得・資産格差も拡大したままである。金融部門や軍事部門だけでは米国経済の成長には限界があり、いかに非金融部門や非軍事部門を発展させることができるかが問われている。
超金融緩和は金融経済を活発にし、有利な税制と相まって、金融資産保有者の富を増やし、所得・資産格差を拡大させている。実体経済の拡大を図り、所得格差を縮小しなければならないが、財政出動はなく金融政策だけに頼っているため、米国経済は袋小路に入っている状態である。所得再分配政策や軍事費から社会福祉への支出の転換を推進しなければ、消費支出は伸びず、低成長から抜け出すことは難しい。
黄昏の日本経済でも国債と円が買われている。日本経済の行方と日銀の国債買いが、国債買いに安心感を与えているが、円買いは根拠なき円買いだ。米利上げがなくなっただけでは説明がつかない。経常黒字による円買いドル売りは、確かにあるだろう。ポンド安に連鎖したユーロ安も円高要因ではある。だけど、為替相場は極めて微妙なバランスのなかでの成立であり、なにかをきっかけに円は売られるかもしれない。今は日経平均株価と逆相関関係がみられるが、いつまでもそのような関係が保てることはないだろう。
昨日の参議院選で与党が圧勝し、改憲派が3分の2を超えた。なにを根拠に投票しているのだろうか。自民党の「日本国憲法改正草案」を読んでなにも不安を感じないのだろうか。自衛隊から国防軍の保持へ、自由と権利の制限、表現の自由の制限、非常事態等目指すところは明治憲法への回帰なのである。さらに言えば天皇中心の戦前の国家・社会体制の再構築なのだと思う。そのような社会を望んでいるのだろうか。
恐ろしい文言で綴られている憲法の成立を目指している自民党を支持する人たちは、この「憲法改正草案」が成立してもかまわないのだろうか。お人好しですますわけにはいかないのだが。昨年の戦争法案で憲法を歪めたけれども、自民党はこれからいよいよ本丸に取り掛かることになるだろう。変わるときには一気に変わってしまう。正念場が近づいてきたのである。
安部政権が発足した2012年12月と今年5月の経済指標を比較すると、鉱工業生産指数は94.7から95.0へとほぼ横ばい、消費支出(実質)は98.8から93.0に低下している。一方、失業率は4.3%から3.2%へ改善、雇用者数は5,484万人から5,717万人に増加している。生産や消費が思わしくなくても、国民はそれほど気に留めないのだろう。だが、雇用となると話は違う。雇用者が増加すれば、得票に繋がる可能性が高い。失業者が仕事に就くことができれば、安部政権に賛同するだろう。それだけ雇用の改善は、政権の支持獲得に貢献するのだと思う。雇用の拡大に的を絞って訴えた演説が功を奏したともいえる。
先のことよりも目先のことを大事するのは人間の性だが、今の経済政策を一段と吹かしてなにがかわるのだろうか。空吹かしでガソリンを無駄に消費するだけである。金融政策はとっくに正体がばれてしまい、無力さを曝け出すだろう。さらに緩和したとしても歪を大きくするだけでマイナスの効果があらわれるだけだ。すでに財政政策の出動が叫ばれているが、赤字を垂れ流ししている状態で、無駄な支出を作り出してよいのだろうか。公共事業などにばらまくような金は1円もないはずだ。
6月末の日銀の国債保有額は376兆円と黒田総裁就任直後の2013年3月末(125兆円)の3倍に拡大している。このまま年80兆円の国債購入を続ければ黒田総裁が任期となる2018年4月には550兆円ほどに膨れることになり、名目GDPを上回る。日銀が発行済み国債の約半分を保有するという事態となる。
日銀が国債を購入する元手は国民が金融機関に預けた預金だ。預金の大半は国に、日銀を経由して貸し出されているのだ。国債の利回りはマイナスだから、貸手が金利を払い、借手の国は金利を受け取る。債権者の国民の資産は減価する半面、負債者の国の負債は減価するといる異常な価値移転が起こっている。金融機関の預金が枯渇するまで、日銀は国債買いを続けるのだろうか。2018年には安倍総裁も任期を迎える。両人とも後任に爆弾処理を任せるのだろうか。