なにを根拠に成長が言えるのか

投稿者 曽我純, 7月4日 午前10:47, 2016年

イギリスのEU離脱が決まってから、FRBの利上げ観測は霧散してしまった。その結果、商品市況は勢いを取り戻しているが、なかでも金と銀は昨年末比26.3%、41.9%それぞれ上昇している。国債利回りも低下し続けており、主要国では過去最低を更新した。週末値では米国の利回りも約4年ぶりに最低を更新、まさに異常な債券相場となっている。これら商品や国債相場の高騰は日米欧の金融政策により、人為的に作り出されているものだ。

米国やドイツのように、名目経済成長率(今年1-3月期)が前年比3.3%、3.1%それぞれ伸びていながら、国債利回りがそれをはるかに下回る水準に低下していることは、収益機会があるにもかかわらず、設備投資をしないということである。異常な金融政策を進めてもこの程度の経済状況では、利上げをすれば、経済の悪化は避けられないと予想しているのかもしれない。

5月の米物価指数PCEは前年比1.6%だし、独も0.3%とマイナスではなく、国債利回りよりも高い。実体経済とは相いれない金融政策の実施は、金融経済を太らせるだけで、実体経済にはほとんど恩恵がない。すでに長期間、ゼロ金利政策を遂行してきたことから、金融政策だけでは経済を好ましい状態に導くことができず、歪だけが目立つことになった。経済を歪めているにもかかわらず、歪める金融政策を続けるというこの理不尽さ。だが、中央銀行の政策には外部からの批判らしき声は聞こえてこない。今、参議院選では与野党で批判し合っているが、日銀に対してはそのような議論はない。政治並みに、日銀はイエスマンの審議委員で固めている。黒田総裁は独裁体制を強め、日本経済をますます歪にする政策を推進することになるだろう。

2016年の路線価からも明らかになったように、首都圏の不動産価格は高騰している。全国平均も前年比0.2%上昇し、2008年以来8年ぶりのプラスだ。外国人観光客だのオリンピックだのと囃し立て、さらに相続税対策なども加わり、首都圏の不動産市場は沸いている。国債利回りがマイナスになり、長期資金を必要とする不動産業界にとっては絶好の収益機会到来といえるだろう。

5月の『建築着工統計』によれば、新設住宅着工件数は前年比9.8%と今年1月以降、5ヵ月連続のプラスだ。持家の4.3% に対して貸家、分譲は15.0%、7.9%それぞれ伸びている。特に、2月、4月、5月の貸家は2桁増と好調であり、相続税の節税狙いもかなり入っているのではないだろうか。

5月の新設住宅着工戸数(季節調整値、年率)は101.7万戸と昨年6月以来、11ヵ月ぶりの大台突破だ。ちなみに、5月の米住宅着工件数は116.4万戸と日本と大きく違わない。名目GDPの規模で日本の約3倍、人口で2.6倍もありながら、住宅着工件数ではわずかな違いしかない。経済規模などからみれば年30万戸程度が妥当ではないか。

日本の住宅がいかに短期間で倒され、建て替えが盛んに行なわれているかが窺える。住宅着工統計は薄っぺらな日本経済の特徴を示しているといえる。以前に比べると長く乗るようになった車、パソコン、スマホ、衣類等買い替えによって経済が膨らんでおり、長期間使用すればするほど経済成長にはマイナスに作用する。日本経済は短サイクルの自転車操業で維持されているのである。

路線価は8年ぶりにプラスになったが、5月の消費者物価指数は前年比-0.4%と3ヵ月連続の前年割れだ。マイナスへの寄与は光熱・水道、交通・通信が大きいけれども、食料・エネルギーを除く指数も前年比0.6%と低下傾向にある。総合指数の季節調整値(2010年=100)は5月、103.4だが、食品・エネルギーを除く指数は101.6と総合指数を下回っており、2年前とくらべても1.1%の上昇にとどまっている。同期間、生鮮食品を除く指数はマイナス0.4%である。これほど安定している物価を2%に引き上げるなど放言もはなはだしい。

2015年の国勢調査によれば、日本の人口に占める65歳以上の割合は26.7%、5年前に比べて3.7ポイント上昇した。2005年の10年前とは6.5ポイントも高くなっている。人口が減少しながら高齢化は急速に進んでいるのだ。高齢化とともに、要介護・要支援認定者数も増加しており、今年4月末では621万人と5年前比114万人増、10年前比186万人増だ。現在、人口に占める認定者数は4.9%だが、10年後には6.5%程度に上昇するだろう。

どのように考えてみても、人口が減少し、高齢化が進行し、要介護・要支援認定者数が増加する状況では、消費需要は減少することになり、物価は下落することになるだろう。5月の有効求人倍率が1.36倍と1991年10月以来24年7ヵ月ぶりになり、改善が続いているが、消費支出は前年割れのままだ。有効求人倍率が改善しているとはいえ、常用(パートを除く)は1.01倍だし、職種では「事務的職業」は0.31倍と低い。正社員の有効求人倍率は0.87倍と常用を下回り、依然厳しい状況にある。正社員にはなかなか就けず、低賃金の仕事の供給では、消費が増えるところまではいかないのだ。

毎年、政府は歳入不足のため巨額の国債を発行し、100兆円近い一般会計の歳出によって、日本経済を支えている。名目GDPに占める公的支出の比率は2014年度には25.5%と2012年度より0.5ポイント上昇し、1997年度以降では最高である(2015年度は25.0%)。一方、民需の比率は2012年度の77.2%から2015年度には75.6%に低下している。もし公的支出を大幅に削減することになれば、日本経済はたちまち行き詰まってしまう。このように公的依存度が高く、しかも、消費を決定する大前提が大きく変わってきているのだから、消費は伸びないのが、日本経済の自然な姿なのである。

経済の拡大を訴える与党、なにを根拠にそのようなことがいえるのだろうか。声を張り上げるだけの与党に依然支持率が高い。経済を声高に唱えることで議席を獲得できる国、日本。経済が依って立つ土台が様変わりしていながら、GDP600兆円を目標にすると宣う与党に多数が投票する国民。経済に疎いのだから、自民党の「日本国憲法改正草案」にはなお疎いのだろう。曖昧で長い物には巻かれよの日本は戦前となにも変わっていない。

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