3月23日、FRBは米債や住宅ローン担保証券を無制限に購入し、金融機関に資金供給することを決定した。さらに週末には2.2兆ドルの「新型コロナウイルス関連経済対策法案」が成立した。日本でも28日、安倍首相は「かつてない強力な政策パッケージを練り上げ、実行に移す」と言う。EUでも政府の財政赤字をGDPの3%以下、公的債務残高をGDPの60%以下とする財政規律を一時停止した。主要先進国は経済の落ち込みを抑えるために財政政策を総動員する。
どの国の政府でも考えていることは同じで、なるべく早く元の経済状態に戻り、株式もまた高値を追ってもらいたいと思っているだけであり、自ら取ってきた財政金融政策への反省はまったく聞かれない。新型コロナウイルスが悪いのであり、それは人間社会や生き方などに対する警鐘などという捉え方は誤りだと言うことなのだろう。
大事が起きれば、常に想定外で済ましてしまう。日本では1980年代のバブル崩壊の痛手が癒されることなく長期化しているなかで、米国のITバブルと金融崩壊の荒波を受け、さらに東日本大震災と原発メルトダウンに見舞われた。大地震を除けば想定外ではなく想定内であり、自らの考えや判断の甘さによる過失なのである。問題は常に人間にあり、人間が危険な種を蒔いているのだ。想定外にすれば、責任を逃れ、反省もなく、むにゃむにゃと呟くように、いつのまにか迷宮入りとなる。徹底的に事態が究明されないから再び、同じようなことが起きるのである。
さらにグローバル化に乗り遅れまいとグローバル化をむやみに推し進めたこともあだとなった。グローバル化の良い面だけが取り上げられ、マイナス面などなく、これこそ我々の進むべき道だと驀進してきた。グローバル化は人、物、金の出入りが世界のどこでも自由にできることである。なにでも行き交うことだから、今回のようにウイルスもグローバル化し、世界中にばらまかれることになる。よいものだけを出入り可能にすることはできない。EUのように国境を無くしてしまえば、ウイルスの蔓延も早い。おそらくその地でウイルスは変異するのだろう。
自動車産業などは部品生産のグローバル化で、生産ができなくなってしまった。労働コスト最優先で、海外で部品を作る体制を築き上げたことが足元を揺さぶっている。盲目的にグローバル化を推し進めた付けが回ってきたともいえる。なかには信越化学のようにむやみやたらにグローバル化しない優れた経営をする企業もある。物事には表と裏が必ずあるということに十分思いをめぐらせた結果なのであろう。
各国で外出禁止令や外出自粛要請が出されているなかで、カネをばらまいたところでどれほどの効果があるのかはなはだ疑問。レストランにもコンサートにも行けないのではお金の使いようがない。近くのスーパーは小池東京都知事の外出自粛要請がでるや混雑しており、相当売上高は伸びているようだ。が、生活必需品を扱う店舗以外は不振を極めている。特に、訪日外国人を目当てにしている業界は悲惨な状況に陥っている。いうなれば政府の口車に乗って右肩上がりのシナリオを信じ、設備投資を積極的に行ない、バラ色の将来を描いていた業界ほど酷い目に遭っているのである。それが新型コロナウイルスの出現によって脆くも崩れてしまったのである。1980年代後半の土地と株式バブルに近いバブルが形成されていた部門があり、そうした部門が梯子を外された苦しみに喘いでいる。
設備投資を決定するのは先行きの収益が期待できるときだが、数年後、目論見通りに事業が進んでいるかどうかはわからない。失望に終わることにもしばしば出くわす。ビジネスは常に不確実性のなかで進めていかざるを得ないのだが、溢れる情報に惑わされることなく、適切な判断を下さなければならない。そうした意思決定を下すことが経営者の最大の仕事なのである。政府だから、専門家だからといって彼らの考えを鵜呑みすると大変なことになる。
一旦、方針がきまると日本人特有の横並び意識によって、進む方向は力強さを増し、業界全体におよび、いつのまにかバブルの域にまで達してしまう。訪日外国人の増加予想などになにの疑問も抱かず、事業拡大に邁進してきたが、需要は突然消えてしまったのである。訪日外国人を当て込んでいた旅行、観光、ホテル等はひとたまりもない。日銀のゼロ金利により、値上がり期待だけで上昇し、過去最高値を更新している都心の不動産ブームもこれで終わるだろう。
先週末のTOPIXは高値から16.5%減だが、東証REIT指数は31.7%も落ち込んでいる。特に、ホテル関連のREIT指数の下落率は東証REIT指数よりもさらに大きくなっている。訪日外国人が増え続けることになにの疑問も覚えず、楽観的見通しに基づいて行動した結果は悲惨である。
米国では新型コロナウイルスで打撃を受けた企業に5,000億ドルを支援するそうだ。いつものことだが、大企業は破綻しそうになれば政府に頼り、支援を受ける。そうした企業の多くは破綻の前には大儲けしているのである。大儲けはそのまま懐に仕舞い込み、倒産しそうになると税金に頼る。資本主義経済の特徴はへまな経営をした企業は淘汰され、優良企業が生き残るところにある。だが、現実は大きいだけで生き残ることができるのだ。中国を批判するけれども、米国も経済が苦境に陥れば、すぐに社会主義に変身する。今回の米国の対策もトランプ大統領の選挙対策の色合いが濃く出ている。
日本も然りだ。過去数年間、日本企業は巨額の利益を上げてきた。一方、税金はまったく利益に比例していない。近々、政府は経済対策を打ち出すそうだが、赤字国債の発行は避けられない。すでに国と地方計で1千兆円超の借金を抱えていても躊躇はしないのである。今こそ、企業が溜め込んでいる巨額の資本に課税するときである。
『法人企業統計』(金融業、保険業を除く)によると、2018年度の全産業の当期純利益は62.0兆円と9年連続の増益であり、2012年度比2.6倍に膨れている。一方、2018年度の法人税等は19.6兆円と同1.3倍しか増えていない。因みに、従業員給与・賞与は6年で6.7%しか増加していないのである。企業だけが儲けを分捕り、従業員にはお零れとも言えないほどのものしか与えていない。これでは経済がまともに機能するはずがない。
法人税等の過去最高は1989年度の20.9兆円であり、その時の当期純利益は17.9兆円であった。当期純利益よりも税金のほうが多かったのである。2013年度から2018年度までの社内留保の合計額は170兆円超となり、2018年度の株主資本は729兆円、2012年度比207兆円の増加である。企業なかでも資本金10億円以上の大企業の純資産は極めて潤沢であり、10兆円や20兆円の税金を納めたとしても、体制に影響はない。有り余り、使い道のないお金を社会のために有効に使おうではないか。