おとぎ噺の世界に浸っている野田首相

投稿者 曽我純, 12月19日 午前9:31, 2011年

12月16日、野田首相は原発事故が収束したと宣言した。野田首相が本部長を務める原子力災害対策本部の自作自演でしかない。こうなれば収束という仮定を置き、その仮定を満たしたので収束したといっただけである。まったく、東電のこれまでの事故の対応をそのまま踏襲している。今回の宣言は、まさに東電と政府は不離の関係にあることを改めて社会に認知させる行動といえる。

 現実から掛け離れた認識しかできないことは、事故対策も当然現実離れしたものになるし、すでにその方向に進んでいる。年20ミリシーベルトを「妥当」とした避難基準などはその典型である。放射能を撒き散らし、核燃料の行方も判らず、外部から遮断されている闇の世界の原発が、もう安全ですよといってだれが信用するのだろうか。野田首相以下原子力災害対策本部の面々はおとぎ話の世界に浸りきっているお人好しだ。原発事故が収束したのであれば、原子力災害対策本部のメンバーである首相を始めとする閣僚は、原発を防護服を着ずにそのままの姿で視察すればいい。野田首相は「裸の王様」である。

現実を直視しない体質は原発に限らず、日本社会の隅々まで蔓延しており、現実離れの思考が、日本の前途を暗くしている。何度経験しても、過去の轍を踏むことになり、経験が経験として活かされない。第2次大戦の凄惨な結末、公害、資産価格の暴騰暴落等を経ながらも結局、原発推進の暴走を止めることができず、日本は原発で崩壊しかかっている。原発事故処理費用に日本の稼ぎはほとんど持っていかれるだろう。日本の所得は、どぶに捨てるように原発に消えてしまう。

金融機関の不良債権処理を低く見積もり、その後遺症をいまだに引き継ぎながら、日本社会は沈んでいっているが、原発の廃炉までのコストや核廃物の保管保存費用は、90年代以降の不良資産処理コストよりも大きくなるだろう。廃炉費用が30兆円とか40兆円と見積もられているが、今までにない処理なので、実際のところはだれもわからない。さらに除染費が100兆円規模(飯舘村だけで除染費3,224億円)で加わり、総原発処理コストは天文学的な数値になるだろう。巨額の原発コストを無視し、国家戦略室は16日、原発等の発電コストを試算した。事ここに至ってもまったく意味のない数字を出す政府、官僚に仕事を与えるだけの作業は無駄の極みである。よしんばコストで原発が優位にたったとしても、生活を奪い、放射能の恐怖から逃れられない社会にするなど容認できるものではない。まだ原発を維持したいことだけを一念に、国家戦略室はすでに勝負のついた問題に取り組む。官僚の仕事はわかりきった事柄をさも重要な問題とみなしたり、それにしつこく食い下がり仕事にしていく習性がある。

90年代後半、金融監督庁は「泥棒に自分の行状を報告させる」ような自己査定で、金融機関に不良債権を発表させたが、そうした杜撰な監督が日本経済を疲弊させてしまった。かつての経済企画庁もお座なりな景気判断で、しばしば日本経済を苦境に陥れた。今回、原子力安全・保安院が東電に自己申告させているが、これでは金融機関の不良債権がいつまでも処理されず、日本経済を蝕んだことの繰り返しなるだろう。東電は独占企業でありその体質は言わずもがなである。公的資金の無駄を避けるためには、東電を即刻解体し、いちから出直す以外にはない。東電の解体が遅くなればなるほど、国民の負担は増すことになるだろう。

 原発事故収束宣言の前の12月10日、11日実施の朝日新聞世論調査では内閣支持率は31%(不支持率43%)とはじめて不支持が支持を上回った。内閣が誕生してから3ヵ月ほどで支持率は22ポイントも下落してしまった。見え見えの原発事故収束宣言により内閣支持率はさらに下がり、来年の初めには危機的な水準に向かうだろう。

 政治がだめなら経済はというところだが、在庫がかなり高い水準にあり、今後、生産水準は低下するはずだ。12月調査の『短観』によると、企業収益は下期、下方修正され、今年度は減益になる見通しである。上期は復興等の特需が業績を支えたが、在庫の過大や国内外での製品需給の悪化などから下期は厳しくなりそうだ。

 先週も格付け会社は、欧州の国債を格下げし、見通しをネガティブに変更した。そうしたなかでもドイツ国債は大幅に値上がりし、利回りは1.85%と1週間で0.3%も下落した。米国国債の利回りも低下し、米独の国債が人気化している。ただ、金融不安がくすぶっていることからユーロは安く、14日には今年1月中旬以来の1ユーロ=1.2ドル台に下落した。

OECDの景気先行指数は10月、前月比-0.3%と8ヵ月連続のマイナスとなった。なかでもユーロ圏は10月、前月比-0.7%も低下し、景気の悪化速度は増している。前年比ではOECDの-1.9%に対してユーロ圏は-5.1%も前年を下回っており、IT不況のときよりも悪い。緊縮財政を強化しているため個人は消費支出を切り詰め、企業は設備投資を見合わせているからだ。

市場万能主義が政治の世界を席捲したことにより、もともと守ることができない財政協定を作ってしまった。市場原理主義者は国民受けのする「小さな政府」を錦の御旗に掲げ、あたかもそれが実現するかのように宣伝した。「小さな政府」が実現できれば税金を減らすことができると言い、国民を惹きつける。そして政治の世界も市場原理主義が支配することになる。

だが、そのようなうまい話などないのである。市場経済が成長するにつれて、消費性向は低下し、有望な設備投資先はなくなり、需要不足が発生するのである。所得が増えても、それとおなじだけ消費を増やすことはない。これが経済の基本原理であり、どのような経済社会であっても、発展するに従って消費の増加は所得の増加よりも少なくなる。

戦後最大の経済危機のときに、EUが財政規律に拘ることは愚の骨頂である。財政規律に拘れば拘るほど、欧州経済は身動きがとれず、自滅していくことになるだろう。財政の拡大は資本主義経済の宿命であるので、強制的に財政を絞ることになれば、経済は成り立たなくなる。EU首脳会議の方針を推進していけば、来年の欧州経済は欧州委員会の見通し(GDP 0.5%)を大幅に下回るだろう。ユーロの下落は避けられない。 

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