NYダウは前週末比マイナスとなり、3月第3週以来約3ヵ月ぶりの低い水準に低下した。景気回復が予想よりも遅いのでは株式よりも債券が選好されることになる。景気の足取りが重いことに加えて、IEAによる原油備蓄放出発表が原油価格を押し下げ、商品関連は軒並み値崩れした。FOMCの声明にも反応が薄く、円ドル相場は週間で40銭ほどの小幅の変化にとどまった。
22日のFOMC声明によると、予想に違わず、FRBは今月末で6,000億ドルの国債購入を終了する。ただ、国債保有額は元本償還金を再投資し、高水準で維持する方針。米景気については「回復は穏やかなペースで続いているが、予想していたよりもやや遅く」、「今後も長期間、異例に低い水準のFF金利」を続ける見通しである。
緩慢な景気回復により、FRBは2011年、2012年のGDP成長率の見通しを下方修正した。4月時点の2011年見通しは3.1%~3.3%であったが、今回は2.7%~2.9%とした。失業率は8.6%~8.9%(前回8.4%~8.7%)、物価上昇率コアは1.5%~1.8%(1.3%~1.6%)とし、成長率の下方修正に伴い失業率は高止まりする一方、物価は引き上げられた。FRBは景気低迷下でも物価上昇率は高くなると想定している。
バーナンキFRB議長は22日の記者会見で「景気拡大の遅れが長引いている理由は正確にはわからない」というが、理由は明らかであり、住宅価格が値下がりし、米国の経済主体である家計のバランスシートが痛んでいるからだ。日本の1990年代以降の土地と株式の暴落によるバランスシートの著しい毀損が、いまだに日本経済の復調を阻んでいるが、米国経済もそれと同じような病を患っている。民間部門から公的企業に不良債権を飛ばしているようでは、日本の二の舞を演じることになるだろう。不良債権という膿を出し切るまでは米国経済の復調はありえない。
|
マネタリストであるバーナンキFRB議長の見地に立てば、これだけ多量の買いオペを実施すれば、景気は当然回復力を増すはずであった。だが、その効果があらわれないばかりか、失速の懸念すら持ち上がるとはどうしたことか、こんなはずではなかったと内心思っているのかもしれない。マネタリストの思考で凝り固まっていれば、実体経済を素直にみることができなくなる。世の中を貨幣供給量でコントロールできるという色眼鏡を掛けてみていれば、経済の正しい判断はできなくなってしまう。
FRB議長といえば、世間からみれば雲の上のような存在で、経済金融のことについては何でも熟知していると崇められているのだろう。だが、日本の原発専門家の化けの皮が剥がれ、エセ専門家であったことが白日の下に曝されたが、マネタリストであるFRB議長も、エセ原発専門家と五十歩百歩だ。「わからない」という言葉がFRB議長の知識のすべてを物語っている。このような人をFRB議長にとどまらせておいたのでは、米国経済は好転するはずがない。理由がわからなければ対策も立てようがないのだから。よくも平然と「わからない」などと言えたものだ。
マネーを市中に溢れ出せばGDPは増加し、景気は良くなるという原理を信奉するバーナンキFRB議長にとっては、お手上げ状態なのだ。いくら買いオペをしても、銀行貸出は増加しない。貨幣の持ち手がつぎつぎと変わることが難しく、すぐに貨幣の循環が途切れ、信用創造が機能しないからだ。住宅の差し押さえで失ってしまってもローンは残り、支払いは続く。銀行も焦げ付いた貸付の修復に資金を投下しなければならず、資金需要の多くは失った部分の穴埋めに使われている。
5月の商業銀行貸付は前年比-2.5%と2ヵ月連続のマイナスである。昨年の9月以降、3月まで貸付は前年を上回っていたが、再び水面下に沈んだ。商工業貸付は3ヵ月連続プラスとなり回復しつつあるが、貸出に占める割合の高い不動産貸付が5.5%減と過去最大の落ち込みとなっているからだ。不動産貸付が不振を極めているのは、住宅価格が下げ止まらないため、将来の値下がりリスクが依然高く、家計は、今はまだ住宅を購入する時期ではないと考えているからである。家計の住宅資産と銀行の貸付資産がともに不良化していることも、住宅購入や貸付が増加に転じない要因だ。
|
商業銀行の貸付の減少に伴い総資産に占める貸付比率は5月、54.5%と過去最低を更新した。08年2月の63.1%をピークに急落していたが、昨年2月を底に下げ止まりつつあった。が、今年2月以降再び低下し、5月まで4ヵ月連続で低下している。他方、一時減少していた現金残高は再び増加に転じ、5月には1.67兆ドルと昨年11月から0.64兆ドルも増加した。金融危機が激しくなる前の08年8月には0.33兆ドルの現金しか保有していなかったときと比べると1.34兆ドルも増えているのである。商業銀行の資産をみると、このように現金の増加が目立つが、本来の景気回復過程でそのようなことは起きないはずだ。景気が回復していけば貸付は増加し、資金循環は活発になり、信用創造が働くことになる。貸付が増えず、商業銀行の現金保有志向が強まることは、米国経済の内部に信用不安が渦巻いており、貨幣の貸し借りが正常にできない状況にあるからだ。
FRBの実質GDP見通しを達成するには向こう3四半期、前期比0.8%増加しなければならない。年率では3.2%になるが、これを3四半期連続して続けることは難しく、GDPの伸びはFRBの見通しに届かないだろう。1-3月期までの過去4四半期で3.2%を上回ったことは1度もなく、最高は昨年10-12月期の3.1%である。政府部門の減少などで1-3月期は1.9%に減速しており、これから3.2%の高い伸びに成長が高まるシナリオは現実的ではない。
1-3月期は政府減を在庫増で補い年率1.9%を確保したが、今後、政府部門は引き続きマイナスに作用するだろう。雇用の改善の鈍化や住宅問題を抱え、個人消費支出も高い伸びは期待できない。個人消費支出のウエイトが高いため、米GDPは個人消費支出の伸びにほぼ等しくなる。1-3月期の個人消費支出は2.2%増加したが、2010年は1.7%にすぎなかった。それでも2010年のGDPが2.9%増加したのは在庫の積み増しにより、在庫だけでGDPを1.4%引き上げたからだ。政府の寄与度は2010年まで3年連続プラスであり、不況下での政府支出の拡大は大いに米国経済を助けた。政府支出が期待できないなかでどれほどの成長ができるか、米民間部門の自力が試される。